п»ї 「一帯一路」ユーラシアが繋がる『山田厚史の地球は丸くない』第93回 | ニュース屋台村

「一帯一路」ユーラシアが繋がる
『山田厚史の地球は丸くない』第93回

5月 12日 2017年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

「一帯一路首脳会議」が14日から北京で開かれる。アジア・中東など29カ国の首脳が参加。朝鮮半島からインド、アフガニスタン、中東を経て欧州へと広がる陸続きの経済圏を打ち立てよう、という大構想だ。

「中国が広げた大風呂敷」だが、トランプのアメリカに象徴される「内向き先進国」をしり目に、新時代の主導権を狙う習近平の野心がにじみ出た外交イベントだ。

直前に北朝鮮が参加を表明した。核開発を巡って険悪化した対中関係を修復するのか、一帯一路に加わる。主要7カ国(G7)からはイタリア首相が参加する。日本は安倍首相の親書を携えた二階俊博自民党幹事長が赴く。

◆「海の時代」から「陸の時代」への転換

「建国以来最大の外交会議」と中国は、世界の首脳の3分の1をいっぺんに北京に集めた。北京五輪にも似た国威発揚である。

「派手なことが好きな中国らしいやり方だが、中身はスカスカ」と冷ややかな味方がG7諸国にある。一帯一路と言うが、実態は茫洋(ぼうよう)、見えるのはこの地域に影響力を広げたい中国の思惑だけ、ともいわれる。

指摘は確かだが、笑って済まされないだろう。背後には世界のパラダイムチェンジがある。16世紀から始まった「海の時代」から、分断された途上国が繋(つな)がり広大な経済圏となる「陸の時代」への転換である。

グローバルな時代が始まったのは、ポルトガルのバスコ・ダ・ガマがアフリカ南端の喜望峰を回ってインドにたどり着いたころからだ。マゼランが率いたスペインの艦隊が世界一周を成功させ、イタリアのコロンブスは新大陸を「発見」した。

権力は水際まで。法律の及ばない海は自由の象徴でもあった。16世紀以降、文明は海を越えて伝播(でんぱ)し、海に漕ぎ出すことが富と成長をもたらす時代が長く続いた。

中国を見ると分かりやすい。大都市は沿岸や大河のほとりにある。内陸は茫漠(ぼうばく)たる途上地域だ。

沿岸から内陸へと発展が広がる中国は、西域から天竺(てんじく)へ、更に南蛮へと経済圏を膨張させるつもりだろう。さながらモンゴルから起こった元(げん)にも似た膨張主義だ。

流れは欧米先進国による世界支配の巻き返しでもある。近世に勃興(ぼっこう)した国民国家はアジア・中東・アフリカを植民地化し、民族・宗教の対立に火を付けて分断統治をしてきた。陸の途上地域は細かく分断され、人もカネもモノも国境で滞留し、不自由を強いられた。陸続きでも道路・鉄道は行きどまりだ。海は自由でも、陸は高い国家によってズサズダにされていた。

変化を促したのがソ連崩壊に伴う東西冷戦の終焉(しゅうえん)だ。世界まるごと市場経済が陸の規制緩和を進めた。

戦場から市場へ、国連などが中心になり、アジアハイウエーや横断鉄道網などユーラシアを一体化する構想が打ち上げられた。

インフラ整備は各国の課題である。必要なのは交通ルールや仕様・規格などの統一と資金、実現に向けての国家意思である。

◆出遅れは、日本外交の失敗

過剰生産施設を持て余す中国がそこに目を付けた。鉄鋼は日本の1年分の生産量が過剰設備になっている。膨大な生産力と爆発する人口をフロンティアに振り向けたい。

習近平は2014年11月、中国で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)で一帯一路構想を打ち上げた。推進の二本柱が、上海協力機構とアジアインフラ投資銀行(AIIB)である。上海協力機構は中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンの6カ国で地域協力を話し合う場だ。AIIBはアメリカ主導の国際通貨体制にくさびを打ち、中国が主導して作った国際金融機関。途上国のインフラ建設に資金を提供する。日本と米国が不参加だが、欧州で英国が真っ先の加盟を決め、先進国まで雪崩をうって参加した。

ユーラシア大陸の西端には英国、東は日本。海に開けた国が繫栄している。内陸は人口がまばらで経済は停滞だ。高速道路や鉄道、通信網でつなぐことで経済を浮揚し、成長の果実を分かち合おうという構想である。

アジアハイウエーは、1号線は起点が東京。国道1号を経て九州から韓国・釜山へつながり中国を抜け、パキスタン、アフガニスタン、イランをへてトルコから欧州へ。まだ途切れ途切れだが、部分的に繋がっている。中国からラオスを越えてタイにつながるルートなど国境を越えるハイウエーは着々と建設が進められている。経常黒字を貯めこみ、資金が潤沢な中国は、途上国援助を通じてこの地域のインフラの整備に力を入れている。

すべての道は北京につながる。ユーラシアの一帯一路は中国経済圏の成長につながる。

流れは止まらないだろう。この地域のインフラ需要は年間1・7兆ドル(200兆円)とされ、アジア開発銀行だけでは賄いきれない膨大な資金需要がある。

資金不足の途上国はAIIBに期待を寄せるが、日本は「中国を利するだけ」と参加に二の足を踏んでいる。

IMF体制への挑戦と見てブレーキを掛けた米国への配慮や、尖閣諸島をめぐる日中関係の悪化で参加を見合わせているが、欧州やカナダ、オーストラリアまで加わり、すでに流れは出来た。出遅れは、日本外交の失敗である。

日本は援助や金融を通じてアジアのインフラ整備を主導してきた。これから本格化するユーラシアの一体化で、どんな役割を果たし、ともに栄えることが出来るのか。

トランプは「アメリカ・ファースト」と叫び、英国は欧州連合(EU)から離脱する。そんな中で「一帯一路」の旗を振る中国。日本は傍観でいいのか。思考停止したアジア外交を見直す好機ではないのか。

One response so far

  • 湯浅正雄 より:

    私は1970年代前半の5年間タイに赴任していました。当時日本人会の事務所でESCAP作成(ブリジストンがスポンサー)のアジア・ハイウエイの道路計画地図が、希望者に配布されていたことを思い出します。まだベトナム戦争のさなかであり、タイでは米軍の後方支援ルートとしてフレンドシップ・ハイウェイが米軍の費用負担で完成して間もない頃で、アジア・ハイウェイも形を変えた軍用道路計画なのかと勘繰った記憶があります。私は当時これは「夢物語」だなと思ったことでした。ところが、その後ベトナム戦争の終結や、ポルポト時代の終焉などで、まさしく「戦場から市場へ」の掛け声通りに、いがみ合っていた隣国同士は巨大道路網で結ばれ、日常の経済活動のリンケージは機能し、今や相互になくてはならないインフラとなった感があります。山田氏が述べられている如く、「一帯一路」も中国の専売品でなく、本来アジア・ハイウェイ構想の延長線上にあるものと考えられるべきで、日本は本来その端緒から協力してきた事業です。中国への対抗心から「一帯一路」を敬遠しようとせず、積極的に関与してゆくべきと考えます。欲を言えば関釜トンネルで直接日本ともつながり、また北朝鮮の参加も夢と思って諦めずに進んで行って欲しいものです。多くの日本人は残念ながらアジア・ハイウェイを知らないままです。

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