検察は正義の味方? 「籠池夫妻逮捕」の裏側
『山田厚史の地球は丸くない』第99回

8月 04日 2017年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

加計学園の闇に隠れていた森友学園に再びメディアの視線が注がれている。大阪地検が元理事長の籠池泰典(かごいけ・やすのり)容疑者と妻の諄子(じゅんこ)容疑者を7月31日、詐欺の疑いで逮捕した。学校校舎の建設費を水増して、国土交通省からの補助金をだまし取った、という容疑である。

森友疑惑の本筋とはおよそかけ離れた「詐欺事件」だが、渦中の人物である籠池夫妻の身柄を取って何をしようというのか。

◆いまは「日和見」?

何かと騒がしい夫婦を悪者にして事件を一件落着させようという狙いがある、と疑う人が少なくない。首相の信奉者だった籠池容疑者もいまや反安倍に寝返った造反者。叩けば埃(ほこり)が出る男を逮捕して、「お騒がせしました」と幕引きを図る。口封じと悪役作りという一粒で二度おいしい事件処理を狙った、という見立てである。

小沢一郎代議士を執拗(しつよう)に追いかけた政治資金捜査など、権力者の手先になって働く検察の姿を見てきた人たちは「また国策捜査か」との疑いを強めている。

安倍政権が盤石の体制だったら、それもありかもしれない。だが支持率急落の政権に、落ちぶれたとはいえ検察がそこまでサービスするだろうか。元検事の郷原信郎(ごうはら・のぶお)氏がブログで主張するように、補助金不正を詐欺で立件するには無理がある。森友学園は不正に受給した補助金を返還しているし、罪を認めているに等しい、証拠隠滅も逃亡の恐れもない。逮捕し詐欺で起訴したら、非難は検察に集中するだろう。

ではなぜ検察は逮捕へと動いたのか。

大阪地検は森友事件で二つの告発を受理している。一つは今回捜査が動き出した補助金の不正取得。もう一つは国有財産を不当に安く売却したという近畿財務局職員の「背任」である。

そもそも森友学園が騒動になったのは9億5600万円の価値とされた国有地が1億3200万円で払い下げられ、その根拠が不透明なことにある。安倍政権の姿勢が疑われたきっかけはこの国有地売却疑惑からだ。事件の本筋はこちらにある。

この十数年、地検は国民の喝采(かっさい)を浴びる捜査を何一つやっていない。巨悪を追及することで検察は社会的評価を受け、存在感を示すことが出来た。だというのに大阪地検は証拠をねつ造し、厚生労働省の局長だった村木厚子さんに罪を被せた冤罪(えんざい)事件まで起こした。評価は地に落ちている。

検察の仕事は、権力におもねて「水に落ちたイヌを叩く」ことではないだろう。国民の喝采を浴びるような捜査のはずだ。

驕(おご)り高ぶりで政権が失速し、潮目は変わった。検察はいま「日和見」をしているのではないか。政権の内部で権力の交代が起こるかどうかを。

◆格安払い下げの立件は政治的判断

告発を受理したからには、近畿財務局から事情を聴かなければならない。だが国会で佐川宣寿(さがわ・のぶひさ)理財局長(当時)は、違法性はない、書類もない、償却した、と繰り返し述べている。文部科学省や陸上自衛隊と違い、財務省は一枚岩で鉄壁の守りだ。簡単に尻尾は出さないだろう。

打ち破るのは反対側の情報だ。籠池側に「強い証拠」がどれだけあるか。立件に欠かせないのが籠池夫妻の協力だ。

7月27日に籠池夫妻を呼んで事情を聴いた。補助金詐欺なら任意の取り調べでも立件できる。本人が認めているのだから。

近畿財務局とのやり取りを聞くなら、帰すわけにはいかない。何を聞かれたか、漏れてしまっては捜査に影響する。身柄を取る、ということは捜査情報が漏れないようにするための措置である。

表向き、補助金詐欺を立件しているように見せ、裏で財務局や本庁の理財局とのやり取りや、安倍昭恵さんやお付きの秘書との関係を聴く。検察の捜査とはそういうものだ。

この世界でいえば、補助金詐欺はご本尊の捜査につなげる「梯子(はしご)」ではないか。

組織ぐるみの不正は、内部から情報が漏れないと捜査は難しい。当事者を追い詰めて、仲間割れを誘い、互いの不信感と、自分だけは逃れたいという精神状態に追い込んで、情報を引き出す。

森友事件で籠池夫妻と近畿財務局は「仲間」だった。接着剤は首相の権威である。昭恵さんが小学校の名誉校長で、学校の名前も当初「瑞穂の国安倍晋三記念小学館」だった。首相との関係を悪くできない財務省は、「できるいっぱいのことをしてやれ」という方針で対処したのだろう。

籠池側が明らかにした情報では、学園と財務局のやり取りは「交渉」ではなく「助言」あるいは「手取り足取りの指導」と思えるものだった。

仲間だったからである。籠池夫妻と安倍夫妻は昵懇(じっこん)の間柄だったのに、都合が悪くなった安倍夫妻が、籠池夫妻を切ったことから仲間割れが起こった。「本当の話」が流出したのである。

格安払い下げを立件することは、検察にとって難しいことではないだろう。着手するかの判断が政治的に難しい。

踏み切れば、倒閣の流れを検察が加速することになる。

内閣改造が行われた。方向が違う面々が混ざり合い、次の局面を見据えての妥協の産物である。安倍体制が持ち直すか、解体に向かうか、しばらくは様子見が必要だろう。

◆政治の健全化は有権者の責任で

捜査はさまざまなオプションを握るための情報集めの段階だろう。近畿財務局を立件できるか、その見通しを探る材料集めのレベルではないか。

安倍体制がもたないと見れば、事件化する可能性は十分ある。権力移行が起きても、安倍の名誉が守られるような交代なら、「調べたが嫌疑不十分」で不起訴にする。

戦後復興の混乱期に造船疑獄があり、高度成長に終わりにロッキード事件、自民党長期政権の膿(うみ)がたまるとリクルート事件が起きた。時代の節目に検察が動いた。世の中の不満がたまり、「御一新」の期待が高まると検察が正義の味方のような顔をして登場するのが日本政治の「禊(みそぎ)」だった。

「権力の私物化」「隠蔽(いんぺい)体質」「驕り高ぶり」の安倍政権に検察は爪を立てることができるだろうか。

検察ガンバレという期待が一部にあるが、それは政治を劇場化する、傍観者の態度だろう。

政治の健全化は、検察の正義面に頼るのではなく、有権者の責任で行うことだ。

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