なぜトランプ大統領は批判されているのか
『あれ、オレいまナニジンだっけ?』第15回

8月 29日 2017年 社会

LINEで送る
Pocket

呉 亮錫(ご・りょうせき)

photo-1
作家、翻訳家。米ボストン大学国際関係学部を卒業後、雑誌編集者を経て独立。「第8回 真の近現代史観懸賞論文」(アパ日本再興財団主催)にて佳作受賞。著書に『「親日の在日」として』(LUFTメディアコミュニケーション)がある。在日韓国人三世(2016年12月に日本国籍取得)。横浜市出身。好きなものは、ミスチルと寅さんとベイスターズ。

極右団体への対応が手ぬるいとして、トランプ米大統領が激しい批判にさらされている。事の発端は、8月12日にバージニア州で、白人至上主義の団体と反対派の左翼団体との衝突が起き、1人の死者と多数のけが人が出た事件に対しての、トランプ氏のコメントだった。

トランプ氏は12日に「多方面からもたらされる憎悪、偏見、暴力に、できるかぎり強い言葉による抗議を表明する」と発言。15日にはさらに、「どちらの側も責められるべきだ」と述べたことが波紋を広げた。本来なら、白人至上主義者だけを批判するところが、反対派に対しても批判を行ったことが問題となったのだ。つまり、トランプ氏に対して非難の声が上がっている原因は、「同氏が極右だけでなく左翼の側も批判してしまったから」ということになる。

◆白人至上主義者も反対派も、「どっちもどっち」

トランプ氏に対しては、大統領としての資格を改めて疑う声さえも出ているが、トランプ氏のコメントには理解できる部分もある。なぜなら、反対派も暴力に手を染めていたことに違いはないからだ。米メディアによれば、記者に罵声を浴びせて殴り掛かる反対派もいたし、白人至上主義のデモ隊にガスバーナーを向ける反対派もいた。

現場で取材したニューヨーク・タイムズ紙のあるレポーターは、ツイッターに次のように書き込んでいる。

「極左の側もオルトライト(極右)と同じように、憎悪に満ちているように見えた。ゴルフクラブを振り回す『アンティファ(反ファシズム団体)』のメンバーが、公園から誘導されて出てくる白人ナショナリストたちを殴るところを見た」

そもそも、白人至上主義者のデモは、南北戦争における南軍の指導者だったリー将軍の像の撤去に反対するためのものだった。私はデモを主導した人々のネオナチ的な主張にはとても賛同できない。しかし、デモの表向きの趣旨そのものは異常なものとは言い切れないし、当局の許可も受けていた。デモという表現の自由の行使を、圧力をかけて潰そうとした反対派の行動にも、批判の目は向けられるべきではないだろうか。

反対派による暴力は、バージニア州での事件だけにとどまらない。19日にはボストンで行われた白人至上主義者の集会に対して、4万人の反対派が終結したが、中にはアメリカ国旗を振る女性に襲いかかったり、警察官に小便の入ったボトルを投げたりする人もいたと報じられている。黒人警官に、「この、間抜けな黒のあばずれめ! お前は本当ならこっちの側のはずだろう」と罵声を浴びせる反対派もいた。なお、バージニア州での事件とボストンでのデモで反対派を主導したと言われる「アンティファ」という極左団体は、ニュージャージー州がテロリスト団体に指定している。

白人至上主義者の主張は、とても賛成できるものではない。しかし、彼らの活動をやめさせようとする反対派の暴力にも、目にあまるものがある。単純に言えば、「どっちもどっち」である。

◆トランプ大統領よりも信用されていないマスコミ

このように見ていくと、浮かび上がってくるのは、マスコミの偏った報道のあり方である。CNNなどのメディアは、トランプ大統領の対応が不十分だとして批判しているが、コメンテーターからはあまりに口が悪くて見るにたえない極端な意見が続出している。

トランプ氏を「若年性認知症」と決めつけた番組司会者もいれば、「人でなし」と呼んだCNNのコメンテーターもいる。さらには、「国内のテロリスト集団たちのチーフ・リクルーターであり親愛なるリーダー」「初めてのネオナチ大統領」と非難したジャーナリストもいる。

アメリカのマスコミがトランプ氏を精神分裂だと決めつけたり、精神分析を試みたりするのは、今に始まったことではない。ワシントン・ポスト紙などには以前から、トランプ氏が精神障がいだとする意見や、同氏を障がい者扱いする記事が掲載されてきた。今回のバージニア州での事件を機に、こうした一方的な中傷がいっそう加速した感がある。

いかに不人気であったとしても、民主的な制度で選ばれた大統領を、公共の電波で精神分裂扱いしていては、マスコミの側が逆に国民の信頼を失うのではないかと、他人事ながら心配になる。実際に、7月にNPRなどが行った世論調査では、ニュースメディアを信用していると答えた人の割合が30%にとどまり、トランプ政権を信用していると答えたひとの割合(37%)を下回った。マスコミはトランプ大統領の不人気をあざ笑うが、当の本人たちはもっと信用されていないのだ。

◆今日まで続く大統領選の「延長戦」

今日のアメリカで起きている出来事は、いわば昨秋の大統領選の「延長戦」である。敗れたクリントン氏の方が、全米の得票数ではトランプ氏よりも多かったという事実を盾にとって、大統領の反対派とそれに共鳴するメディアが大統領選の結果をきちんと受け入れようとしないことが、問題の根源である。

トランプ大統領をめぐっては、ロシアとの共謀疑惑などが指摘されてきた。しかし、大統領が具体的にどの法律を破ったのか、いまだにハッキリとしないまま、報道によって疑惑ばかりが膨らんでいる。この問題を追及する側は、昨秋の大統領選の正当性を突き崩し、トランプ大統領の当選という事実が何かの間違いだったことにでもしたいのだろう。延長戦はいっこうに終わる気配が見えない。

アメリカの主要メディアは、トランプ大統領を、まるでアメリカの民主主義を分断する諸悪の根源であるかのように描く。しかし、トランプ氏が民主的な制度に則って大統領に就任した人物であることを、いまだに受け入れようとしないならば、マスコミこそが民主主義の破壊者ということになりかねない。

発展途上国の選挙では、敗北したにもかかわらず、結果を受け入れずに権力の座に居座ろうとする現職の独裁者が、たびたび問題になる。彼らは、「結果を認めない」と公言するだけ、まだ正直者である。正直者や「民主主義の守護者」のフリをして、民主的な選挙の結果を受け入れようとしない人々の方が、よほどたちが悪い。

コメント

コメントを残す


五 − 5 =