п»ї 相模原事件から考え、学び、語らうことを続けたい 『ジャーナリスティックなやさしい未来』第115回 | ニュース屋台村

相模原事件から考え、学び、語らうことを続けたい
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第115回

9月 05日 2017年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括。ケアメディア推進プロジェクト代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。

◆福祉の中から出ないまま

神奈川県相模原市の障がい者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が元職員に殺害された昨夏の事件から、1年が過ぎた。私がこの事件を知り、考え、そして少しばかりの発信の中で、何かが変わったかと言えば、答えは少し絶望的だ。何かは少しずつ変わったかもしれない。しかし、問題はまだ「福祉」の世界の中の話で、やはりそれが一般の社会イシューではない。

なぜだろう、と考えたときに行き着くのは、私たちは社会全体でこの事件を受け止めきれていないような気がするのである。やまゆり園の現場が公開されたのはきれいに洗浄された後で、現在神奈川県では、有識者会議の議論を経て、大規模な施設を新たに建設する考えと、元入所者を分散して地域に移行する方向の二つの選択の中で揺れている。
同時に裁判は被害者の名前を非公開のまま進行することになっている。

◆「証し」がないのが気になる

この事件周辺をめぐる情報は、どこかすっきりしないものがある。理不尽に亡くなることになってしまった方々を思うと、その殺害という手法で人格を否定された行為の最も重要であるはずの「そこに名前を持ち、家族を持って社会の中に生きていた人」の証しがないことが気にかかる。

何を隠しているのだろうか。いや、隠しているのではなく、私たちが現実を見ることから目を背けているのかもしれない。1人の男が刃物で19人もの人をほんの短い時間に殺してしまうことなど、おぞましい出来事だ。テレビ番組でそんなシーンが放映されたら、即座にチャンネルを変えてしまうだろう。こんな気持ちで、その事実のチャンネルに合わせないまま時が行くのを待っているのが多くの方の心境なのかもしれない。

同時に注意しなければならないのは、おぞましい事件の再発防止を理由に、不必要な制度や管理が静かに取り決められてしまうことである。今回、措置入院に関しても精神保健福祉法の改正で、治安維持を目的にするような文言が入れ込まれたのは、象徴的だ。

私自身が精神疾患者への支援の現場にいることで、事件を受けて自治体から各福祉施設に不審者の虐待用具を用意するよう推奨する通達が出されたのには驚いた。

また加害者の動機とも結びついているとされるヘイトクライムに関しては、福祉だけの問題ではない。教育を中心とした人の命という普遍的価値を教えていくという重要なプロセスから論じなければいけない。人を殺してしまうという欲求にかられる思考回路をつないでしまう優生思想は根本的に間違っていることをもっと声高に追及してもよい時にきている。

◆現実を受け止める

そのためにやはり事実を受け止める必要がある。それを未来の糧にしなければならない。人格障がいという判断のもと、加害者は裁かれることになる。病気ではないのなら、なぜ人は人を殺してしまうのか、憎む心の構造をどう理解すればよいのか、そして、二度と起こらないようにする道筋は何か。

今回の事件を受けて焦点が当たった措置入院についても、私たちは人権を守りながら、措置入院という制度を運用し、そして疾患に焦点を当てて治癒することに集中する構造を作らなければならない。精緻(せいち)な議論をしたいところだが、福祉の中だけでは、出てくる知恵も心もとない。

だから社会的な議論にしなければいけないと思っている。支え支えられるという社会の基本構造を信じながら、私たちは考え、メディアは倫理観を持ち、それぞれが真剣なコミュニケーション行為をする必要があるだろう。

精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/
■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link
■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/

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