最近のコンプライアンス違反で考えたこと
『国際派会計士の独り言』第22回

11月 27日 2017年 経済

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内村 治(うちむら・おさむ)

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オーストラリアおよび香港で中国ファームの経営執行役含め30年近く大手国際会計事務所のパートナーを務めた。現在は中国・深圳の会計事務所の顧問などを務めている。オーストラリア勅許会計士。

日本の中核的製造業ともいえる主力自動車関連産業と鉄鋼業大手などにコンプライアンス違反ともいえる不祥事が相次いで起こっています。

◆企業全体の社内風土に問題か

米国でのエアーバッグ欠陥問題に端を発した自動車部品大手のタカタの不祥事は、大手自動車メーカーのいくつかを巻き込んで世界で1億台以上の大型リコール(回収・無償修理)となり、最終的に今年7月に民事再生法の適用を申請し、問題のエアーバッグを含め同社の主要な事業は中国資本傘下の米自動車部品メーカー、キー・セイフティー・システムズに譲渡されることになりました。また、消費者の信頼を裏切ることとなった過去のリコール問題の傷がようやく癒えたとみられていた三菱自動車では、新たに燃費データ偽装が発覚。さらにスズキ、スバル、そして日産自動車と相次いで無資格者による完成検査問題が明るみに出るなど自動車産業に関する従来の制度を揺るがす事態となっています。

日産では、この問題が発覚後も一部の現場では対応せずにそのまま放置されていたことがわかり、消費者の信頼を更に裏切ってしまいました。日産は将来のリコール費用として250億円以上を見込んでいると報道されています。自動車会社にとってリコール対応は大きなコスト負担が課されることになりますが それとともに企業としての社会的責任も追及されることなると言えます。

一方、神戸製鋼のアルミ製部材などのデータ改ざん問題は、これらの部材を使っていた自動車製造、鉄道車両など日本の主要な産業界を震撼(しんかん)させました。米紙ウォールストリート・ジャーナルや英BBC放送など海外メディアでも大きく取り上げられ、日本の製造業とその品質に対しての信頼感が大きく傷ついてしまったとも言えます。神鋼は会社として改ざん問題報告書を最近公表しましたが、生産現場での品質に対する意識の低さが露呈してしまったと報道されています。収益追求という命題のある経営陣とその要請に十分にはついていけない生産現場の間の意識の乖離(かいり)、人手不足も原因の一つかもしれませんが、やはり間違った社内論理がまかり通ることでJIS規格を含めコンプライアンスが軽視される、企業としての全体の社内風土に問題があったのかもしれません。

企業にとって コンプライアンス違反はリコール費用や課徴金、損害賠償など大きな将来コストが発生してしまうことも大きな問題ですが、それとともに長い間に築いてきた信用という目に見えない会社の貴重な価値を大きく毀損(きそん)することになります。

当然、コンプライアンス違反は消費者や取引先などの信頼を裏切るなど許されるものではありませんし、企業として組織体制を充実させ、経営者、従業員がその趣旨を理解して実践していくことは持続性ある組織として大変重要です。内部通報など法令遵守に関わる内部統制システムを整備充実させ、同時にそれを機能させていくことが肝要だと言えます。

ただし、法令遵守の根拠となる法令、規制などがその制定時と比べて環境や状況が変わり、元々の趣旨は素晴らしいとしても時代が変わって現実にそぐわないケースもありうると思われます。

自動車メーカーの完成検査問題は、新車出荷の前に完成車について社内で認定された資格者が行うべき規定の検査について本来と異なり無資格者が行うという、国土交通省管轄の道路運送車両法上の要請に合致しないコンプライアンス上の問題が発覚したものです。この完成検査は昭和の年代から長らく行われていたようですが、敢えて言わせてもらえれば、この制度自体の存在意義や全車対象の必要性があるかなど、実効性をもう一度検討することも必要なのかもしれません(ちなみに、国内向け出荷車両のみが対象であり、海外輸出向け新車は対象でないことも特筆されます)。

日本の自動車に関わるリコール制度は1969年に始まったもので、90年代後半のリコール隠し事件などを経てその重要性はさらに高まっています。現在のように自動車の国内生産台数870万台(2016年度)のうち、約半数が輸出に回っているということを考えれば、私見ですが、現在のリコール制度は国際標準に照らして適正なのか、十分機能しているのか、などもう一度検討してみることも良いのかもしれません。

◆法規則見直しは時代の流れに沿ったものに

政府は、「働き方改革」の推進の一環として、労働基準法の関連法を2019年度に改正することを目指していると伝えられています。この法律が出来たのは戦後すぐの1947年。いくつかの改正と関連法はできているものの、コンピューターも携帯電話もない、今から70年前のことです。日本の就労人口のほとんどがまだ第一次産業と第二次産業に従事していて、今とは大きく違った社会環境下で成立した法律と言わざる得ません。

この法律の趣旨は、労働者保護を目的としていて、近年の大手広告会社などでの悲しい労務事案がいくつも発生していることを考えれば当然、大変意義あるものではあります。ただし、やはり現代の複雑化した会社組織、多様化した雇用体系、働き方などを考えれば、従業員の生活や健康を守るという趣旨は大切にしながらも、時代に即した形での労使間の合意が達成できたら素晴らしいと考えます。

最近、英誌エコノミスト編集部が出版した『2050年の技術―英「エコノミスト」誌は予測する』(文藝春秋、2017年)の中の働き方に関する章で、ロンドン・ ビジネススクールのリンダ・グラットン教授は、これから組織が生き残る鍵は「適応力」にあると指摘していますが、今後さらにAI(人工知能)やロボットが労働に及ぼしてくる影響を考えれば、組織がしなやかに迅速に適応できるだけの自由裁量権が必要ではないかとも思っています。

例えば、労働基準法での時間外労働に関しての労使間の書面による協定、いわゆる「三六協定」があります(これについては労使間で締結後、労働基準局への届け出が義務になっています)が、一定以上の時間外労働について労使間が合意すれば認められていますが、最近、長時間残業労働の客観基準(原則、1か月45時間、年間360時間まで)を上限として設けることとなったようです。

また、会計士業や情報処理システム分野を含めて特定の職種についての自由裁量での労働時間と、業績などが連動しない労働の形(裁量労働制)がありますが、対象業種が狭いうえに、これについても三六協定の縛りの中での労働時間の運用となります。

そういう意味で、外国人を含めて有能な人材を市場から見つけて組織の戦力にしていく最近の難しさを考えると、これに対するコンプライアンスは極めて難しくなっていると思います。政府や経済団体が一時期、推し進めようとした他の先進国で見られる「ホワイトカラーエグゼンプション(頭脳労働者脱時間給制度)」もそのまま導入できず、「高度プロフェッショナル制度(残業代ゼロ制度)」の創設という形で改正を目指していますが。これについても連合などは反対していると聞きます。

その国の宝である人材を大切にしながら、国際間の産業競争力が損なわれないような形で労動時間法制の改定も含めてコンプライアンスの根拠となる法規制が時代に沿って見直されていくことを切に願っています。

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