次期経団連会長は中西日立会長でいいのか? 政府丸抱えで英国へ原発輸出
『山田厚史の地球は丸くない』第108回

1月 12日 2018年 経済

LINEで送る
Pocket

山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

次期日本経団連会長に中西宏明・日立製作所会長が就任することが9日決まった。人材不足の財界で、中西氏は早くから本命とされていた。だがこの人事には、見落とせない欠陥がある。日立が抱えるリスクである。国策と一体化して英国で進める原発事業は東芝の二の舞が心配されている。東芝処理で政財界が揺れている時、経団連会長が東芝会長だったら、どう言われるだろう。

◆「安倍首相に近い経済人」

財界トップにとって政治との距離は大事なポイントである。いま経団連会長を務める榊原定征(さだゆき)東レ会長は「安倍さんと近すぎる」とか「言うことを聞きすぎ」などと言われてきた。政権の求めに従って子育て支援に3千億円の財界負担を了解、あるいは春闘の賃上げヘの同意など「安倍追従」を問題視する人は少なくない。

中西氏は安倍首相を囲む経済人の会合「さくら会」のメンバーで、政府の「未来投資会議」の議員にもなっている。そんなことから「安倍首相に近い経済人」という見方もある。

日立はこれまで財界活動は抑制的で、社長と会長を務めた川村隆氏は経団連会長を要請されても断った。そうした企業風土と一線を画し中西氏は日立として初めて経団連会長になる。

中西氏は9日、記者団の取材に応じ、日立が取り組んでいる事業の重要性を強調し「おこがましいが経団連の立場で動くことが日本経済にとってすごく意味があると思い始めた」と言い、「(会長を)やってみるかと思った次第だ」と語った。「英原発、日英政府が支援 日立計画に2・2兆円融資」と見出しを打った記事が11日付の朝日新聞1面に載った。

英国で進めている原発事業は日立にとって「巨大なリスク」であることはかねてから指摘されていた。日立は海外で原発事業を展開しようと2012年、英国で原発事業会社ホライズン・ニュークリア・パワー社を約900億円で買収。2020年から英国中部で原発事業に着手する予定だ。しかし3・11福島第一原発事故を機に、欧州でも安全基準が厳格になり建設費が跳ね上がっている。事業採算が合わない恐れがあり、このままでは東芝の二の舞になる恐れが出ていた。

そこで日立が経済産業省にお願いして、行政による二つの対策を練った。第一は、ホライズン社が赤字になっても日立に損害が波及しないよう連結決算から外す。第二が、資金の出し手となる銀行が「貸し倒れ」の心配をしないで済むよう融資に債務保証を付ける――というものだ。

報道によると、ホライズン社は日立が100%の株式を持っているが、増資して持ち株比率を33%程度に下げる。資本金総額は450億円。日本側、英国側、日立がそれぞれ3分の1ずつ保有する。日本側は政府系金融機関の政策投資銀行を軸に電力会社などが出資する。連結子会社は持ち株50%以上なので、ホライズン社が赤字になっても日立本体に波及しない。

事業費総額を3兆円と見て、融資は2兆千億円。日本側は1兆1千億円を負担し、政府系の国際協力銀行やメガバンクに要請している。民間銀行は「貸し倒れ」が心配なので、経済産業省が管轄する貿易保険が全額を債務保証する。

原発事業は危なくて貸せないが、政府の貿易保険で保証をしてもらえれば安心して貸せる。貸し倒れになれば貿易保険が払う。つまり税金で穴埋めする、ということだ。

◆失敗した時のリスクは国民負担

東芝の米原発会社ウェスチングハウス(WH)買収と同じように、日立のホライズン社買収も経済産業省の後押しがあったといわれる。「原子力ルネサンス」の旗を振った経産省は、福島第一原発事故で国内で売れなくなった原子炉を海外で売ることを「成長戦略」に盛り込んだ。海外へのインフラ輸出に活路を求めた日立は、国策に沿って先進国最後の原発市場とされた英国を目指した。

「日本のエネルギー供給全体の構成を勘案すれば、むしろ原発の技術開発を進める重要性が問われている」

中西氏はかつてそう語っていた。企業家として信念を持つことは自由だが、失敗した時のリスクは企業が負担せず、国民負担に回す。これは真っ当なビジネスではない。

原発は日立の事業である。政府が後押ししたとしてもホライズン社の買収は当時社長だった中西氏が決断した。判断が正しかったかがこれから問われる。

日立の強みでもある弱点は「産業政策と一体となった経営」である。中西氏の発言には日本経済を背負っているかのような気分が漂う。

お国のためにやったことだ、うまくいけば自分の手柄になるが、失敗したら政府で面倒を見てほしい、というのである。

「おこがましいが経団連の立場で動くことが日本経済にとってすごく意味あることだと思い始め、(経団連会長を)やってみるかと思った次第だ」という発言が象徴している。

社長として決断した事業が失敗する恐れが濃厚になっている。だったら、さっさと止めればいいことだが、国策になって引くに引けない。英国からは勲章までもらっている。高速鉄道など他の事業も抱えているので関係を悪くしたくない。

国策事業を貫くためには、経団連会長という職務は都合がいいのかもしれない。

財界の皆さんも心配だろう。日立の死活問題になった英国事業は、安倍政権にとって「人質」のようなものだ。公的救済をしてもらうには政府の言うことを聞かなければならない。そんな財界トップが政権にモノが言えるだろうか。

原発は不思議な産業だ。あれだけの事故を起こしながら、だれも責任をとらない。東京電力はつぶれず、補償金は税金が負担する。融資した銀行も、株主も守られた。東芝も同じだ。日立は、転ぶ前から転んだときに備える税金投入作戦が練られている。その親玉が財界トップに就任する。

銀行も株主も経営者もリスクゼロ。こんな無責任な経営がまかり通る産業界でいいのだろうか。

コメント

コメントを残す


八 × = 16