シェアハウスが語る 危険水域に入った金融緩和 『山田厚史の地球は丸くない』第117回 | ニュース屋台村

シェアハウスが語る 危険水域に入った金融緩和
『山田厚史の地球は丸くない』第117回

5月 25日 2018年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

前回この欄で海外M&Aが従業員の汗と涙を外国に流出させていることを書いたら、知人の銀行OBから「海外だけでなく、国内でも「『M&Aを探してこい』と支店に指示が飛んでいる」という話を聞いた。

マイナス金利で収益を圧迫される銀行は、企業融資という従来の商売では満足な利益が上がらず、M&Aで仲介手数料を稼ぎ、さらに買収資金を貸し付けて融資額を増やそう、という戦略のようだ。

◆「危ない企業への融資」

銀行は「飯のタネ」のはずの資金を持て余している。年間50兆~80兆円ものカネを日銀が注ぎ込む「金融の量的緩和」で、銀行には腐るほどのカネがあり、下手すれば腐らしてしまう危機に直面している。

不況下のカネ余りで、銀行融資は同心円状に広がっている。中心部は優良融資先。上場企業に代表される安定感のある企業だが、内部留保は充実し、おカネには不自由していない。優良融資先は年々小さくなっている。その周辺に、経営は万全とは言えないが、約定通りに返済する中堅企業がある。大企業には金利を値切られるが、中堅相手ならばそれより高い金利がとれる。銀行にとって一番「おいしい」企業群だ。その外周に、新規に取引を始めた企業、景気動向によっては心配になる企業が広がっている。

金融が引き締めになると、この手の企業にカネは回りにくくなるが、金融緩和では景色が変わる。銀行は「リスクへ挑戦」とばかり、ハードルを下げ、危うい貸し先にカネを注ぎ込む。

「金融緩和の副作用」というのは「危ない企業への融資」が増えることを指している。分かりやすい例が、いま問題になっている「シェアハウス融資」だろう。

若い女性を中心にシェアハウスの利用が広がっている。都会の一人暮らしは親も心配するし、経済的に負担が重い。一軒家を何人かで借りて共同生活する暮らし方が近年増えている。こうした動きに沿って初めからシェアハウス用に物件を建て、アパート経営から切り替えるオーナーも出てきた。時代の変化に対応するビジネスではある。

課題は需給を見定めるマーケティング、投資と収入をバランスする価格設定であることは言うまでもない。

◆「かぼちゃの馬車」

低金利の中で有利な投資先はないか、と探す人たちをスマートデイズという会社が「シェアハウスへの投資」に誘い込んだ。

「頭金ゼロ・賃料30年保証」という条件で1棟1億円ほどのシェアハウスを投資家に販売し、一括して借り上げ、入居者探しから家賃の管理まですべて代行する。オーナーは頭金がなくても全額融資を受けられる。金利は安い。家賃も保証され、投資すれば、何もしなくても利回りのいいシェアハウスのオーナーになれる。これが「かぼちゃの馬車」という名がついたシェアハウス投資だが、話がうま過ぎる。お客は半信半疑だったと思う。そんな投資家を安心させたのがスルガ銀行だった。

説明会に誘われた投資家が案内されたのが、スルガ銀行だった。「かぼちゃの馬車」への融資は全額スルガ銀行が行うという。ニュービジネスに挑戦する銀行として知られていた。「銀行がついているなら」と投資家は安心したのだろうか。

ところがシェアハウスからの家賃は途絶え、スマートデイズは倒産。物件は売りたくても売れず、投資家に借金だけが残った。

担保価値も怪しいシェアハウスに1億円もの融資ができるのか。銀行には融資の条件を定める内部基準がある。ところがお客の年収、預金額、物件価値が水増しして基準をクリアした疑いがあり、金融庁は「組織的に融資不正が行われたのではないか」と見て事情を聴いている。

スルガ銀行は「スマートデイズにだまされた」と被害者であると主張するが、まともな銀行員なら「頭金ゼロ」の融資や「賃料30年保証」というビジネスに疑問を持つはずだ。

担当者だけでなく、支店長や担当役員が黙認した背景には、不正に疑問を差しはさめない収益至上の経営風土があったのではないか。

◆異次元緩和の「副作用」が現実化

日本大学アメリカンフットボール部で「勝利至上主義」と「不正体質」が問題になっているが、ビジネスの世界にも笑えない現実がある。

金融モラル崩壊の背景には、同心円状に広がる融資ビジネスがある。優良な貸し先は限られている。融資のすそ野が広がれば広がるほど「危ない貸し先」に手を染めることになる。もちろんビジネスの世界には新しい産業や業種が芽生えている。おぼつかない企業の内実を見定める眼力が叫ばれるが、その陰で苦し紛れのイチかバチかの融資が横行するのが金融緩和の季節だ。

1980年代のバブル経済では、低金利の貸し出し競争の末、銀行が「斡旋(あせん)型融資」に乗り出した。不動産物件や投資対象を銀行が紹介して融資をする。盛んになると、クソもミソも一緒になり、いい加減の投資対象を勧めて客を食い物にするようになった。地上げ屋、闇の金融、暴力団へカネを流すようにもなった。

金融緩和が長期に及ぶと金融モラルが崩壊する。リーマン・ショックが起こる前の米国でなにが起きていたか。職ナシ収入ナシ資産ナシの客に住宅を買わせたサブプライムローンは氷山の一角だ。

アベノミクスの一丁目一番地、黒田日銀総裁が始めた金融の異次元緩和が5年を超した。「副作用」が心配されているが、すでに現実化している。スマートデイズに次いで、ゴールデンゲインというシェアハウス投資会社が22日、倒産した。氷山の一角だろう。同類のビジネスがまだまだ出てくるだろう。シェアハウス融資は、日本の金融が既に危険水域に入ったことを示している。

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