「優生保護法」の思想と歴史を直視してこそ 『ジャーナリスティックなやさしい未来』第134回 | ニュース屋台村

「優生保護法」の思想と歴史を直視してこそ
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第134回

5月 31日 2018年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。

◆「わたしたちの社会」問う

旧優生保護法(1948~96年)に関する動きが活発化してきた。同法の下、国が障がい者らに強制していた不妊手術について、70代の被害者男女3人が東京、仙台、札幌で国に対し損害賠償を求め提訴した。

同時にこの問題に取り組む弁護士らが全国35都道府県で当事者を対象とした一斉電話相談「優生保護法ホットライン」を実施。厚生労働省では全国の都道府県・市区町村に調査書を配布し、手術を受けた個人の特定を進める実態調査を始めた。

この機会に、憲法で保障された基本的人権に反する差別的「医療」行為を「公益」を理由に戦後も続けられたことに向き合い、そして福祉の在り方を考えたい。そのためにも高齢化する被害者の救済を率先して考え、政治や医療の責任を問う声とともに、これは「わたしたちの社会」が問われる問題であることを自覚したい。

◆優生思想の下に

あらためて言うまでもなく、優生保護法は「優生思想」に基づいて作られたもので、その思想は「生まれてきてほしい人間の生命と、そうでないものとを区別し、生まれてきてほしくない人間の生命は人工的に生まれないようにしても構わないとする考え方」(森岡正博箸『生命学に何ができるか』)であり、戦前、米国でも断種が行われ、ドイツのナチス政権は1933年に遺伝病子孫予防法(断種法)により、7万人から9万5千人の精神・身体障がい者が殺された、根本思想である。

しかし各国が戦後にその思想及び法律を捨てたのにもかかわらず、日本はそれを作った。1948年に「悪質な遺伝因子を国民素質の上に残さない」ため、というのが議員立法の上程説明で、反対意見はないまま全会一致で可決された法律だ。

さらに1952年には対象を精神疾患者も保護義務者の同意があれば強制手術を可能にする法改正が行われたのである。戦後、優生思想を否定しない法律がはびこり、厚労省もその実施に向けて予算を投じ、実績を各自治体に呼び掛けるなど、やはりそれは異様な国家の姿だった。障がい者に対する思想はここで作られ、そして今もその影を引きずっているように思う。

◆「事実認識」が前提

厚労省への取材による報道では、結果的に強制不妊手術を受けたのは1万6475人とされるが、資料が残っているのは2割程度にとどまるという。しかしながら、自治体が「捨てた」と言っていたものが、その後発見された例もあり、調査がどこまで信用できるかは疑問だ。
医療機関や福祉施設はもちろん、当事者個人に資料が残っている可能性もあり、徹底した調査と弁護士による聴き取り調査などが行われることを望みたい。

1996年に優生保護法は母体保護法に改定され、ここで初めて第一条の「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」文言が削除され、不妊手術を強制できる規定は廃止されたが、戦後50年近くも発動し続けた「優生思想」を根拠とする行政行為により、人々の心に宿した「優生」は今も大きな影響を与えている。

1998年には国連が強制不妊手術の被害者に補償をするよう日本政府に勧告したものの、政府見解は「当時は合法だった」であり、被害者救済には消極的だった。現在は超党派の議員連盟によるワーキングチームが救済法案の準備をしているが、基本となる「事実認識」に向けて徹底的な調査が前提になるであろう。

日本が苦手にしている過去を検証した上での未来志向を、ここでは成功させてみたい。

■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/

■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link

■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/

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