精神保健における「である」と「する」について 『ジャーナリスティックなやさしい未来』第138回 | ニュース屋台村

精神保健における「である」と「する」について
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第138回

8月 03日 2018年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。

◆メディア行為による固定化

戦後を代表する政治学者、丸山真男(1914-96)の名著『日本の思想』の中に収められた「『である』ことと、『する』こと」と題した論考は「である」と「する」という二つの社会構成原理について論じ、日本社会を鋭く分析している。

「である」社会では「出生・家柄・年齢・身分」のような「素性」が尺度になり、「する」社会では、「目的の限りで取り結ぶ関係」が中心となる。「つまり、『である』社会では、社会的価値は『帰属』―なにに、どこに属しているのかということによって決定されるのに対して、『する』社会においては、『業績』、つまりなにを実際なしたか、いかなる役割を果たしたかによって決定される」のである。

結果として「である」社会は硬直し緊張した文化を生み、「する」は流動的な自由な雰囲気を作り出す一方で生産性偏重の社会ともなる。ここにコミュニケーションを駆使する個人行動やメディア行動が二つの社会の流動性を促し、よりよい社会に向けて啓蒙的な役割を果たすべきであるが、精神保健に関するメディア行為は、この「である」構造の固定化を招いてきたと考えられる。

◆優生保護法が象徴

つまり、精神障がい者を自宅の一室や敷地内の小屋などに閉じ込める「私宅監置」を初めて規定した1900年の精神病者監護法以来、メディア行為は「精神疾患」であることで、「する」領域に登場させない雰囲気という文化を根付かせてしまったのである。戦後もその「である」に押し込めた実例として象徴的なのは優生保護法であろう。

第2次世界大戦後に欧米が「優生思想」を捨てたのに対し、日本ではその思想を基底として戦後の1948年、優生保護法が成立した。同法は遺伝性疾患や精神障がいのある人の生殖機能を不能にする強制手術を認め、1996年まで全国で約1万6500人が手術を受けたとされる。手術を受けた人の救済措置が取られず、2018年には国の責任求め訴訟に至っている。

優生保護法は障がい者「である」状態に永久に押し込めてきた国の姿勢を示すものであり、その「である」を肯定し異議を唱えずにやり過ごしてきた社会の歴史は、メディアが持つコミュニケーション機能を駆使してこなかった時期と重なる。同時に私たちは「何者であるか」を常に問われた社会形成を、私たちも、メディアも、自覚すら持たずに行ってきた。

◆就労支援でも弊害

現在の就労支援の現場でも、その弊害は少なくない。人によっては大きな壁でもある。つまり、どこかの企業に正社員として働かなければならない、という半ば強制的に組み込まれた思想に苦しんでいるのである。

企業に入って決まった金額の給与をもらい、社会保険に加入し、有給を取得しながら余暇を楽しむ―。そんな「である」姿にとらわれてしまっている。

それが就労に遠いと思いがちな精神疾患者であれば、その姿を思い描き、そして出来ない自分に失望し苦しんでいる。「する」ことを楽しく考え、そこから行き着く「である」は、「する」に面白さを見いだせれば、もはや「である」はどうでもよくなる。
そんな順序でもいいんじゃない?

支援の現場では、そんな、話を時折しているが、それももうひとつの選択として、楽な気持ちで就労に向かってほしいと思う日々である。

■法定外シャローム大学
shalom.wess.or.jp/

■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/

■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link

■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/

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