п»ї カジノのために役所を作る、おかしくないか? 『山田厚史の地球は丸くない』第149回 | ニュース屋台村

カジノのために役所を作る、おかしくないか?
『山田厚史の地球は丸くない』第149回

10月 11日 2019年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

今月4日から始まった秋の臨時国会は焦点の一つが「カジノ」である。安倍政権は「カジノ管理委員会」という行政機関を今年度内に設立する方針だ。同委員会の委員長は国会の同意が必要で、選任を巡ってカジノ論議が活発化しそうだ。

◆新たに生まれる「カジノ技官」という役人

政府は、2020年代半ばを目処に国内で3か所(大都市型2、地方都市型1)のカジノを開業させたい考えだが、わずか三つの業者のためにお役所が新設される。

カジノ管理委員会は、内閣府の外局として発足する予定だ。公正取引委員会(経済産業省の外局)や証券取引等監視委員会(金融庁の外局)と並ぶ「3条委員会」(国家行政法3条に基づく役所)で、100人規模の陣容になるという。

財政難から国家公務員は定数削減が進められて、霞が関の官庁はどこも人手不足に悲鳴を上げている。そんな中で、賭博であるカジノのために100人規模 の国家公務員が投入される。

競馬は農林水産省競馬監督課、競艇は国土交通省海事局総務課、競輪は経済産業省関東経済局産業振興課、パチンコは警察庁生活安全局保安課――。これまで賭博がらみの産業はお役所の隅っこにある担当課が目を光らせてきた。カジノは別格のようで「専用の役所」が設けられる。談合など産業界全体の不正を監視する公正取引委員会や、粉飾決算など公正な市場を歪める行為を摘発する証券取引等監視委員会と同格の役所が、国際カジノ資本の日本上陸のために新設されるというわけだ。

「カジノはきちんと管理しないと暴力団が触手を伸ばしたり、マネーロンダリングの温床になったりする。クリーンなギャンブルにするには厳格な規制と監督が欠かせません」

カジノ推進の旗を振ってきた大学関係者はいう。安倍首相もこの点は理解しているようで「世界で最も厳しい規制で臨む」と胸を張る。

カジノ管理委員会の仕事は三つある。①カジノ事業・施設・機器に対する規制②経営者・従業員が暴力団等不審人物と関係はないか背面調査③ギャンブル依存症やマネロンなど懸案への対策――である。

カジノは日本になかっただけに役所は馴染みもなければ経験者もいない。それでいて規制のためのルール作りや不正の摘発という任務を背負いこんだ。制度化の手本にしたのはラスベガスのある米ネバダ州の法令だ。

例えば「カジノ技官」という新たな役人が生まれる。ルーレットやスロットマシン、その裏にあるコンピューターシステムに不正はないか、監督・調査する仕事だ。時代劇の賭博シーンでサイコロの仕掛けを同心が摘発するように、インチキ賭博を監視する技官をこれから養成するという。

◆「バクチで負けた人の不幸」で成り立つカジノ収益

暴力団、マネロン、脱税などの犯罪はカジノ管理委員会の手に余るだろう。警察や国税庁、金融庁との連携は欠かせないが、厄介なのは「ジャンケット」と呼ばれる「集客業者」の取り扱いだという。

世界のギャンブラーが集まるマカオやラスベガスには、カジノにお客を送り込む専門業者がいる。某製紙会社の御曹司のような億単位の金で勝負する「お得意様」をお世話する業者だ。ギャンブル中毒のような上客の名簿を持ち、ツアーを差配し、賭け金の融通までするのがジャンケットだ。ツアー業者の形態をとりながら、裏に犯罪集団やその代理人がいるケースが少なくない、という。

カジノというと広い豪華なフロアにゲームテーブルやマシンが並ぶシーンを連想しがちだが、これは「一般大衆向けフロア」。中核施設は奥にある特別室で、大口ギャンブラーが顔をさらさず出入りすることができるお得意様専用のスペースだ。ここに出入りする大口客を集めてこそ繁盛する。この手の勝負師には素性が怪しいカネに絡む人が少なからずいる。いまやラスベガスの4倍の収益をあげているマカオのカジノは、中国の汚職マネーが渦巻いているともいわれる。あぶく銭が沸騰する場に闇の勢力は触手を伸ばす。規制が厳しければ客足は遠のく。

カジノ処女地の日本で、監督当局は素人集団でしかない。ギャンブルの隅々を知っているのは国際カジノ資本とギャンブラーの裏にいる賭博のプロたちだ。にわか作りの委員会で「世界で最も厳しい規制」は容易ではない。立派なルールを作っても、守らせる監視体制が不十分なら規制は尻抜けになる。

そうは言って、賭博事業の監督官庁を肥大化させることは世論の支持を得られないだろう。もともと国内に需要も業者もなかったカジノである。経験のない役所や公務員が仕切れる産業ではない。そこに国際カジノ資本は目をつけたのではないだろうか。

「カジノは儲かる」ということで成長戦略にまでなったが、カジノの収益は「バクチで負けた人の不幸」で成り立っている。お役所を作ってまで誘致するような「産業」だろうか。

一体、どんな人物がカジノ管理委員会の委員長になるのか。100人体制は、各省庁から職員が送り込まれるのだろう。しかし彼ら彼女らは、この新しい職場をどう感じるだろう。国家公務員を志した人が「賭博」を成長戦略として支える。政府の仕事とはなにか。政治や行政の基本のキ、あり方が問われている。

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