п»ї 「拉致問題」という自縛行為 米朝で「カネは日本から」『山田厚史の地球は丸くない』第118回 | ニュース屋台村

「拉致問題」という自縛行為 米朝で「カネは日本から」
『山田厚史の地球は丸くない』第118回

6月 08日 2018年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

このままでは、勘定書きだけが回って来るのではないか。

12日にシンガポールで始まる米朝首脳会談を前に安倍首相は8日、ワシントンでトランプ大統領と会った。日本としての要望や今後の協力体制が話し合われたと見られる。

「拉致問題」を真っ先に掲げる日本は、「対話のための対話は意味ない」と軍事的威嚇(いかく)と経済制裁を叫び、世界でも突出した強硬派だった。ところが状況が急変。米国は威嚇から懐柔へと舵(かじ)を切り、圧力一辺倒の安倍外交は残念な結果となってしまった。では、この先どうなるのか推測してみよう。

◆日本は戦後賠償としてカネを注ぐ

米朝首脳会談は、トランプ大統領が言うように、交渉のスタートに過ぎない。首脳会議は、北朝鮮が段階的に核を放棄することを暗に認めることになるだろう。段階ごとの成果に、どんな見返りを用意するかが影のテーマだ。「制裁緩和」の中味がひそかに話し合われる。

北朝鮮が求めているのは資金支援や貿易拡大、投資などカネ目の話だ。

「米国は支援しない。するのは韓国や日本だ」とトランプはツイッターで表明した。

非核化に結果が出ないうちは米国はなにもしない、というのがトランプのスタンスだ。だがそれでは北朝鮮は動かない。溝を埋めるのが日本と韓国の役目、というのである。

韓国は「同朋」として、日本は戦後賠償としてカネを注ぐ、というのが米国のシナリオだ。

朝鮮半島の非核化は、朝鮮戦争の終結とセットになっている。北緯38度線で休戦協定が結ばれているが、これを恒久平和=平和条約へと変える。これだけでも大変な成果で、トランプは「朝鮮戦争がもたらした南北対立に終止符を打った大統領」となる。さらに南北和解から祖国統一へと期待を膨らまそうというのである。

一気に「統一」は無理でも、南北融和とは北朝鮮が国を開くこと、つまり格差縮小だ。それにはインフラ整備や投資・技術移転が不可欠だろう。カネは「身元引受人」の韓国と「戦争責任・植民地統治の責任」を負う日本が出す、という図式である。

日本の賠償は、日本と北朝鮮による話し合いで決めるものだ。ところが日本は北と交渉のパイプを持たない。というより交渉の席に着くことを拒否している。

北朝鮮も「最大限の圧力を叫ぶ日本は世界の潮流から取り残された」と言っている。日本を相手にしない、という外交だ。日本と交渉をしなくても米国と話を付ければ日本は付いてくる、と考えている。

小泉首相が平壌に乗り込んで日朝国交正常化交渉の開始を宣言した日朝平壌宣言の時は、状況が逆だった。北朝鮮は米国と話をしたいが、米国が相手にしない。だから日本と関係を繋(つな)ぎ突破口にしようとした。

◆明確な解がない拉致問題

拉致を問題にする安倍首相は、一時帰国した拉致家族が北朝鮮に帰国させることに強硬に反対。北朝鮮は「帰国させるとの約束を日本が破った」と態度を硬化させ、関係は切れてしまった。

平壌宣言に沿って国交が回復すれば、次は賠償交渉だった。深刻な経済問題を抱える北朝鮮は日本からの賠償資金や援助・投資を期待していた。果たせなかったが、米朝交渉をノドから手が出るほど待ち望んでいた。

トランプが交渉に乗り出したことで、逃げていったカネが戻ってきそうだ、と北は喜んでいる。北に経済制裁を科していた国際社会が融和へと舵を切れば、当然の権利として「日本からの賠償」を期待できる。

だが日本は席に着かない。障害になっているのが拉致問題だ。拉致被害者全員を日本に返せ、というのが日本の主張だが、北朝鮮は「解決済み」という立場だ。

象徴が横田めぐみさんである。北朝鮮は「すでに死亡した」としている。安倍政権は「生存」を前提に「拉致問題の解決」を主張してきた。政府のこうした方針に、めぐみさんのご両親も「生きているはず」と希望をつないできた。煎(せん)じ詰めれば「拉致問題の解決」とは、めぐみさんが生きて帰って来ることではないか。仮に「死亡」していたら、永遠に拉致問題は解決しないということになる。

安倍政権は「拉致問題」を掲げ、北を悪役にすることで支持を固めてきた。北が国際社会に背を向けている間は「拉致重視・北敵視」は効果的な戦略だった。だが、流れは変わった。拉致一辺倒の日本は孤立する形になっている。

拉致問題の解決を北朝鮮に伝える、としているトランプ政権も、この問題を持てあましているという。どうすれば解決になるか、明確な解がないからだ。めぐみさんを帰国させるということは現実的ではない。

◆「誰が決めるか」がキモ

その一方で、米国は日本に「北への支援」をさせたい。北朝鮮を非核化に引き出すには「日本のカネ」が必要だから。ここで交渉の形は大きく変わった。

北朝鮮と日本が交渉すべき「金銭問題」が日本と米国で話し合われる気配が強まっている。その手始めが8日のトランプ・安倍会談だ。「シンゾウ、出してやれ」とトランプは安倍に催促したのではないか。今の日米関係からみれば「お願い」でなく「命令」だろう。

北は自ら交渉することなく、米国を通じて日本からカネを引き出すことになる。最終的には、日朝間の交渉という形をとるが、それは最後の最後。大枠は米朝・日米の交渉で決まるだろう。

カネは「誰が払うか」が大事ではない。「誰が決めるか」がキモである。受け取る側の北朝鮮は、カネを出す日本より、話を付けてくれたアメリカに感謝する。

請求書だけが日本に回り、日本は血税を投じながら「払いを渋った国」として冷ややかに見られる。感謝もされない。そんなことにならないよう願うばかりである。

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