п»ї インドネシア・ジョコ政権100日の光と影『東南アジアの座標軸』第5回 | ニュース屋台村

インドネシア・ジョコ政権100日の光と影
『東南アジアの座標軸』第5回

2月 13日 2015年 国際

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宮本昭洋(みやもと・あきひろ)

りそな総合研究所など日本企業3社の顧問。インドネシアのコンサルティングファームの顧問も務め、ジャカルタと日本を行き来。1978年りそな銀行(旧大和銀)入行。87年から4年半、シンガポールに勤務。東南アジア全域の営業を担当。2004年から14年まで、りそなプルダニア銀行(本店ジャカルタ)の社長を務める。

◆政権誕生から100日の成果

インドネシアのジョコ・ウィドド政権が誕生して100日が経ちました。政権の実行力に対して現地メディアは概ね好評価を与えています。就任早々に発表した燃料補助金の削減、さらに1月からのガソリンの燃料補助金の廃止により、日本円に換算して2兆円程度の予算を捻出してインフラ投資に充当できる財源が確保できました。

また、外国投資の窓口である投資調整庁(BKPM)にワンストップサービス化を早々に指示、各省庁にまたがる許認可権の一元化を図るため、22省庁のスタッフを同庁に駐在させる試みが2月にスタートしました。さらに海洋資源保護のため外国船の違法操業や密漁を断固取り締まるよう指示し、何隻もの外国の密漁船が爆破されたり撃沈されたりしており、国民からも喝采の声が出ています。このような施策を政権100日の光の部分だとすれば、同時に影の部分も見えてきました。

◆政権が内包するさまざまなアキレス腱

現政権を支える与党連合の国会内での議席の占有率は44%です。56%を占める野党連合に及ばす、政権は国会運営で大変な苦労を強いられるというのが前評判でした。現地紙は与党連合を「ヤモリ」、野党連合を「ワニ」に例えて与党連合の不利を形容していました。

ところが最近起こっている事例は、その形容が事実と異なることがあぶり出されたのです。次期国家警察庁長官人事を巡る問題です。ジョコ大統領は国家警察教育機関長官のブディ・グナワン氏を国会に推薦、この人事は国会の第3委員会(法務・人権・治安担当)で承認されたのですが、同時に、特別捜査機関の汚職撲滅委員会(KPK)がブディ氏の8億円にのぼる不正蓄財を公表し、警察トップとして適格な人物ではないと指摘しました。

ジョコ大統領は認めていませんが、ブディ氏の推薦には最大与党でジョコ氏の支援母体である闘争民主党のメガワティ党首が大きな影響を及ぼしています。しかしこの問題は、国家警察組織VS汚職撲滅委員会の対立の構図に発展。今度は国家警察がKPKの主要メンバーについて過去の不正問題で取り調べを開始、KPKを機能不全に追い込もうとしています。

ジョコ氏は第三者委員会を立ち上げ、その諮問結果を待っています。一連の出来事から明白になったことは、ジョコ政権にとって与党連合は実は「ヤモリ」のような実態ではなく、逆に「ワニ」のような存在であったということです。国会運営での苦戦の前に、与党連合の政治的な思惑に左右されているジョコ氏の存在が国民の前に浮き彫りになりました。

国民は、国家警察を悪者、KPKを正義としてジョコ大統領の判断を見守っています。与党連合の強烈な圧力を受けながら、国民の期待に添うような「大岡裁き」ができるのか結果が待たれます。

一方、この国家権力機関の対立を注視しているのは国軍です。混乱を回避するため必要があれば軍が介入する構えも見せています。現在のタイの暫定軍事政権を想起させ、不気味です。

余談ながら、ジョコ大統領はインフラ整備、社会保障充実など公約を推し進めるため、税務当局に前年比で大幅な税収増加を求めています。今回、財務省の税務総局長にシギット氏が起用されました。KPKの2011年の調査では、彼は日本円に換算して2億円もの預金を保有しています。09年の調査時点では1億円だったとされ、彼のポストの収入でこのような貯蓄はあり得ないとして問題視されています。この国の各権力統治機構のトップの人材に清貧を求めるのはどうやら無理のようです。

◆不安定さ増す経済 真価問われる大統領

2014年の実質国内総生産(GDP)成長率が発表され、前年の5.58%下回る5.02%に鈍化。リーマン・ショック後の09年以来、5年ぶりの低成長となっています。昨年は総選挙、大統領選と「政治の季節」が続いたため、外国からの投資が様子見になったことに加えて、未加工鉱物資源の事実上の輸出禁止措置、さらに中国およびインドの経済の停滞による資源輸出の低迷が影響しています。

世界経済は、米国経済の持ち直しはありますが、欧州経済は低迷。欧州中銀(ECB)は量的緩和施策を通じたカンフル剤の注入を実施しています。原油安は、産油国でありながら石油精製品などの輸入に依存しているインドネシアにはプラスに働きますが、量的緩和を続ける日本や欧州では原油安、自国通貨安によりリフレ(リフレーション=通貨再膨張)効果が減殺される懸念があります。

現在、多くの投資家が米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ時期を注視していますが、最近利上げは年央ではなく年末近いとの観測により、インドネシアの債券、株式にも慎重ながらも積極的な投資スタンスに変わりつつあります。

このため一時1ドル=13000ルピアを越えると予想された為替相場はやや持ち直していますが、貿易赤字、経常赤字などファンダメンタルズに改善は見られないため、投資家の資金引き揚げが起これば急激なルピア安を招きかねない状況に変わりはありません。

インドネシア政府は資源価格の低迷を受けて、構造的に弱い交易条件の改善のため水産加工品や繊維輸出品に代わる工業製品の輸出振興を急ぎたい考えですが、構造改革には時間がかかるため投資家にとって為替リスクは常に身近なリスクとして対応が求められます。

原油安の効果でインフレは落ち着いてきており、インドネシア中央銀行としては景気刺激を狙い政策金利引き下げを模索したいところですが、FRBの利上げが予想されるため、難しい政策判断です。

毎年2月はインドネシアで雨季の最盛期となり、現在各地で洪水による被害が多発して国民は我慢を強いられています。本当に忍耐強い国民性を感じますが、国民の期待を一身に受けて登場したジョコ大統領の判断次第では、国民の信任は地に落ちます。早くもジョコ氏の真価が問われています。

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