п»ї タイ人観光客を山梨県に誘致しよう―「小澤塾」塾生の提言『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第54回 | ニュース屋台村

タイ人観光客を山梨県に誘致しよう―「小澤塾」塾生の提言
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第54回

9月 11日 2015年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住17年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

私の勤務するバンコック銀行日系企業部では主に日本の地方銀行から約20人の出向者を受け入れている。出向者と言ってもほぼ全員が海外勤務は初めてであり、かつバンコック銀行のことも全く知らない。このため出向後5カ月程度は教育期間として、幾つかのテーマについて勉強してもらっている。これまで「ニュース屋台村」で何度か取り上げた「小澤塾」での銀行員としての基礎知識の修得は最重要テーマの一つである。加えて、出向者全員には「地方再生」や「日本再生」をテーマに、日本や各地方について海外視点で客観的に見直してもらうとともに、分析力や企画力の醸成も行っている。

この「屋台村」でも今後、塾生の独創的な地方創生案などを随時紹介していこうと考えている。初めてとなる今回は、山梨中央銀行から出向してきている眞田栄太郎さん(2005年入行、山梨県富士吉田市出身)の作成したリポート「タイ人観光客を山梨県に誘致しよう」をご紹介する。

1.急増するタイ人観光客

タイは親日国家であり、タイ人は皆日本のことが大好きである。2013年7月1日、日本政府は15日を超えない短期滞在での活動を目的とするタイ国民については、ビザ免除措置を開始。この緩和措置ならびに円安により日本を訪問するタイ人観光客は年々増加している。

観光庁が主要18空海港において、日本を出国する訪日外国人客(トランジット、乗員、1年以上の滞在者等を除く)を対象に、四半期ごとに実施しているインタビュー調査があるが、タイ人旅行者が多く訪問する日本の都道府県は以下のとおりである。

上記のデータから、来日回数が3回以上のリピーター以外は基本的に東京、大阪、富士山のいわゆるゴールデンルートをはずすことはない。東京からの移動時に富士五湖を組み入れるルートが一般的であり、山梨県としては如何に長く県内にとどまってもらうかがキーポイントとなる。

千葉県については格安航空会社(LCC)の需要増加から成田空港発着便が増加。タイ人の利用も増えており、また以前まで空港利用のみにとどまっていたが、帰国前に空港近隣のイオンモールでのショッピング、フルーツ好きのタイ人が好むイチゴ狩りなどのアピール効果により、空港利用だけにとどまらず、上記のとおり県内での観光客増加につながったものと思われる。

2.山梨県の主要観光地及び問題点について

山梨県の主な観光地は富士山、富士五湖地域、甲府(昇仙峡)、勝沼(ワイン)、石和(温泉)八ケ岳周辺、身延山など点在している。このうちまとまった観光コースとなりうるのは、富士五湖周辺及びワインやフルーツ狩りが楽しめる甲府、勝沼地域になると考えられる。しかしこれら二つの地域についても、今後解決すべき課題として以下の点が考えられる。

①富士五湖周辺
A)宿泊場所
B)土産物の購入場所

②甲府、勝沼地域
A)宿泊場所
B)土産物の購入場所
C)食べ物

3.宿泊場所は空き家を利用しよう。

先日タイで旅行代理店を経営されている方の話を伺ったところ、桜の開花時期などのハイシーズンでは富士五湖周辺の宿が確保できず、甲府地域や神奈川、伊豆で宿泊場所を確保しているケースもあるとのこと。外国人観光客の増加により宿泊場所の不足は日本各地で起こっているが、富士五湖周辺は星野リゾートが2015年10月末に新たな宿泊施設を開業する予定であることから宿泊場所も増加する見込みだ。一方で、富士吉田市のホテルなどに問い合わせたところ、本年のホテル稼働率は前年比で変動なく、宿泊施設にも余裕があるとの回答だった。

タイ人は主に、インターネットの検索により観光情報を入手するのが一般的である。既存のホテルの稼働率を上げるためには、宿泊所情報の検索システムに「Fuji」や「Fujikawaguchiko」などの用語を入れることによって外国人観光客に検索され易くする工夫が必要である。

ところで、山梨県は単位人口数あたりの空き家数が日本一多い県であるが、この空き屋を観光客の宿泊場所として検討してはどうであろうか? 山梨県から入手したデータを基に別荘地や賃貸用を除く純粋な空き家と思われるデータは以下のとおり。

問題点としては、旅館業法の規制緩和と賃貸側の外国人に賃貸することへの抵抗感が挙げられる。県や地元の不動産業者などが連携し、万が一の補償や対応策の検討を進め、抵抗感を緩和させる取り組みが必要となる。

ここでリタイア後の年配者に管理人となってもらい、雇用創出することを併せて提案したい。空き家の管理のみ行ってもらい、予約業務は不動産業者が行う。TLリンカーンというJTBなど大手旅行代理店が利用する宿泊予約システムがあり、当該システムを利用し空き家を管理、また利用できるようなサイトの構築もしくは、ビジネスにつなげる企業の発掘を行えば、地域の活性化にもつながる。

4.山梨県内にアウトレットの創設をする

多くのタイ人観光客は、お土産の購入場所としてブランド品を東京やアウトレットで購入し、小物(ブランド品以外)はドン・キホーテ、ショッピングモール、ドラッグストアで購入する。ツアーの観光を終えたあと、タイ人観光客はお土産用の化粧品や菓子を求め、24時間営業のドン・キホーテや、ドラッグストアへ赴くようである。

一方、県内観光地を調査すると、ブランド品を購入するような場所も少なく、人気観光地である富士五湖周辺は夜間、宿泊施設の周辺は買い物をするところはない。近隣にドン・キホーテやドラッグストアもあるが、夜間は公共交通機関がないため宿泊施設独自で送迎を対応するほかない。

ブランド品については、近隣のアウトレットとして御殿場(静岡県)に集約されてしまうことから、山梨県内で富士五湖地域と甲府地域(石和あたり)でアウトレットの開業を積極的に提案したい。

5.タイ人に合った新たな特産料理を作ろう

富士五湖地域の一部のホテルではタイ人が好んで食べるカニの食べ放題を提供している。我々日本人からすると、海のない山梨県でのカニを提供するのは若干違和感があるが、タイ人の中では富士山とカニはセットで認知されており、大好評である。

タイ人に人気のガイドブックを幾つか見たが、山梨県の紹介ページは基本的に富士五湖周辺の紹介が多いため、甲府地域については「鳥もつ」や、「ほうとう」のみではなくフルーツ好きのタイ人向けに「フルーツ王国」をアピールし、ブドウ狩りやモモ狩り、ワイナリーめぐりを提案したい。山梨県は季節に応じて様々な果物を堪能できる。ブドウやモモ以外にも、サクランボやキウイ、カキなどがあり、冬でもハウス栽培のイチゴ狩りが可能。まだまだタイ人に山梨県が「フルーツ王国」であるという認知がされておらず、今後需要が伸びる可能性はある。

また、最近タイの若者に人気の焼肉も提案したい。ブランド牛である甲州牛や甲州ワインビーフが食べられるスポットを案内。それらを追加することでタイ人観光客の甲府地域への誘致も可能となっていくであろう。

6.山梨をもっと上手にアピールしよう

タイ人の出国者数は年間約500万人。そのうち訪日するタイ人は約65万人となっており、13%のタイ人海外旅行者が日本を目指して来る。山梨県としては、この親日国家の旅行者をいかに取り込んでいくかがキーポイントとなる。

観光庁による訪日外国人消費動向調査によると、タイ人が旅行情報源として活用するトップ3は①検索サイト(35.3%)②日本政府観光局ホームページ(21.9%)③その他インターネット(20.0%)――とインターネットに関連したものが圧倒的に多い。一方で、日本の自治体でタイ語のホームページを作成しているのは約20団体しかない。更にタイ語表記は日本人には難しく、内容に誤りがあるものがほとんどのようである。山梨県としては官民一体となっていち早くタイ語のホームページを作成することが極めて重要になる。また、万全を期すためにしっかりとしたタイ人によるホームページの定期的な内容見直しも是非行っていただきたい。

※本レポートはあくまで個人の意見であり、山梨中央銀行及び山梨中央銀行グループの見解を代表するものではありません。

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