п»ї インドネシア政治の影の仕事師『アセアン複眼』第7回 | ニュース屋台村

インドネシア政治の影の仕事師
『アセアン複眼』第7回

6月 26日 2015年 国際

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佐藤剛己(さとう・つよき)

企業買収や提携時の相手先デュー・デリジェンス、深掘りのビジネス情報、政治リスク分析などを提供するHummingbird Advisories 代表。シンガポールと東京を拠点に日本、アセアン、オセアニアをカバーする。新聞記者9年、米調査系コンサルティング会社で11年働いた後、起業。グローバルの同業者50か国400社・個人が会員の米国Intellenet日本代表。公認不正検査士。

ジョコ・ウィドド大統領のもとで更なる経済成長を図るインドネシア。しかし、2015年明けに表面化した国の特別捜査機関、汚職撲滅委員会(KPK)と国家警察の対立は、半年以上たっても尾を引いている。本稿は地元情報を交えて、騒動の中で垣間見える「黒子」らしき仕事師の影にスポットを当ててみた(註1)。

◆汚職撲滅委と国家警察、対立の黒子

KPKは「インドネシアで汚職と戦う希望の星」というほど民衆の期待を背負う国家機関。最近も組織を率いるトップの5ポストを公募したところ、弁護士や民間人100人以上の応募があった。一方の国家警察は、「インドネシアで最も汚職にまみれた機関」(Transparency International)とも言われる好対照な組織で、国内では今も隠然たる力を持っている。02年のKPK創設以来、両者は長らくつばぜり合いを続けてきた。

今回の騒動の発端は、ジョコ大統領が今年1月10日、国家警察教育機関長官ブディ・グナワン(Budi Gunawan)氏を国家警察長官に指名したこと。過去幾度も汚職で名前が上がった人物だけに、メディアは連日の攻撃を開始。これに呼応するようにKPKもグナワン氏指名の2日後、過去の不正蓄財を理由に同氏がKPKの捜査対象であると発表した。

グナワン氏はこれを即座に否定、国家警察も反撃に出る。まずKPK長官アブラハム・サマド(Abraham Samad)氏を汚職で糾弾、翌日には副長官バンバン・ウィジョヤント(Bambang Widjojanto)氏を逮捕してしまった。グナワン氏支持派も連日、抗議運動を繰り返した(註2)。しばらくたった5月1日には、KPKのトップ捜査員ノベル・バスウェダン(Novel Baswedan)氏を10年以上前の嫌疑で逮捕した(本人は否定。大統領令で数日後には釈放)。

グナワン氏指名の政治的経緯についてはメディアや在野ウォッチャー各氏に譲るが、筆者は、両組織「抗争」の黒子のような役割を果たす人物を見つけた。国軍の元4つ星将軍で国家情報庁の要職にあった「PG」(仮名)が、その人である。

◆大統領陣営で活躍

PGは軍人として、長い間スハルト政権を支えてきた。その後、ジョコ大統領が所属する闘争民主党党首であるメガワティ氏と親密な関係を築き、権力中枢に入り込んだ。一方、1999年の東ティモール虐殺では背後で指揮を執り、2004年の人権活動家暗殺事件ではその黒幕として取りざたされた(いずれも当人は否定)。数多くのきわどい諜報(ちょうほう)、反政府勢力の虐殺を繰り返したとして、世界的にも糾弾されている。「民主派」を旗印とするジョコ大統領と、正反対の過去を持つとも言える。が、メガワティ氏のつてで14年の大統領選前にジョコ陣営に加わったと見られる。

PGが大統領選で前面に出るようになったのは14年7月ごろ。劣勢が伝えられた元軍人のプラボウォ陣営が、人気沸騰のジョコ候補をおとしめるためのネガティブキャンペーンを仕掛けている疑いが明らかになった。この時に前面に出てこのネガキャン潰しの狼煙(のろし)を上げたのが、PGである。PGは「自分はキャンペーンの黒幕を知っている」と脅しつつ、「法的措置も辞さない」と対抗馬のプラボウォ候補を非難し、ジョコ陣営を守った。

PGは翌月、ジョコ氏から政権移行アドバイザー4人の1人に選ばれる。当時、ジョコ氏はPGの国軍と国家情報庁での経歴を高く評価、「安全保障と諜報に知見を有し、新政権発足後も貴重なアドバイスを提供してくれる」と任命理由を述べた。PGは与党政党の国家発展党党首メガワティ氏に近いことから、ジョコ氏がパワーバランスを取った人事と分析するメディアも少なくなかった。

そして今年1月。グナワン氏の指名に始まったKPKと国家警察の「抗争」では、ほどなくしてPGの名前がメディアに出るようになる(註3)。まず10日ほど経つと、グナワン氏に好意的なPGのコメントが新聞に掲載されるようになる。2月に両者の抗争が激しさを増すと、PGは「グナワン氏を長官に指名することが政争を集結させる手段だ」と、政治決着上必要な措置であるとまで踏み込んだ。

しかし、警察官僚時代などを通じて密な関係にあったPGとグナワン氏の関係から、発言を額面通り受け取る向きは少なく、メディア、大方の世論ともグナワン氏指名反対の声は沈静化しない。PGがKPK攻撃のための策略時期を虎視眈々(こしたんたん)と狙い、年初からグナワン氏指名を裏で画策していたと報じたメディアもあった。国民議会(下院)の委員会はPGに証言を求めたが、PGが公の場で説明をした形跡はない。

ジョコ大統領は2月18日、グナワン氏指名を撤回し、国家警察長官には暫定的にその職にあったバドゥロディン・ハイティ(Badrodin Haiti)長官を当面充てる人事を発表した(その後正式就任)。しかし、国家警察内部には依然としてグナワン氏支持派が多く、ハイティ氏では今後組織の統制を取るのは難しいとする向きが多い。

◆権力者が張る利権の網

公正を期しておくと、政府筋から聞こえるPGの評は悪いとは言えない。「倫理観が高く、人物として凛(りん)としている」というのである。国内外に政界、財界とも人脈があり、インドネシアの経済外交にはまたとない人物、という評もある。

また、インドネシア政局の専門家は「大統領は、PGを味方にするリスクを分からないほどナイーブではない。新内閣には、諜報やセキュリティーの専門家が必要だというメガワティ氏の意向が働き、大統領も“閣外協力者”としてこれを受け入れたまで。大統領はプラグマティックだということだ」という。

今となっては本人もビジネスで当てようとする姿勢が強いようで、多くの会社で要職(名誉職)に就いている。大統領とビジネス行脚もすれば、日本で暴力団に相当する組織との交流もささやかれる。経済界では「政治的庇護(ひご)と経済利権が期待できる」と、PGを積極的に受け入れる企業もある。だが、非インドネシア企業にとっては一緒に仕事をするのは難しい相手だ。

こうした御仁がまだ活躍するのがインドネシア。日本からの直接投資が13年、6年ぶりに国別でトップに返り咲いた(JETRO調査)が、元有力政治家を含め各方面に利権の網を広げる「権力者」がまだ跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する国でもある。

(註1)インターネットを調べれば分かるが、この人物を本稿ではPGとした。在アセアンのメガ邦銀調査部の方と話をしていたら、「それはXXXではないか?」と別人を指摘された。さすがである。

(註2)抗議行動には、“Laskar Merah Putih” (Red and White Militia)というグループが加わっている。1999年の東ティモールでの虐殺にも暗躍したとされ、現在は故スハルト大統領の三男トミー・スハルト(Tommy Soeharto)氏の指揮下にある、と筆者は聞いた。

(註3)情報筋によると、グナワン氏の指名は同氏に近いメガワティ氏の意向とされる。

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