п»ї 山形の地域創生―「小澤塾」塾生の提言(その2)『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第61回 | ニュース屋台村

山形の地域創生―「小澤塾」塾生の提言(その2)
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第61回

1月 22日 2016年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住18年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

私の勤務するバンコック銀行日系企業部では主に日本の地方銀行から20名強の出向者を受け入れている。こうした出向者に対してバンコック銀行の商品を理解してもらうなどの目的から約5か月間にわたる研修期間を設けている。この通称「小澤塾」においては、タイにおける銀行業務以外に出身行の地域をテーマに論文を作成してもらっている。2015年9月11日付ニュース屋台村にて「小澤塾」塾生の提言として山梨中央銀行出向者、真田栄太郎さんの論文を掲載した。今回は第2回として山形銀行出向者である大沼達朗さん(平成18年入行、山形県山形市出身)の提言を掲載したい。

1.山形のものづくりの現状

(1) 山形県製造業のすがた

①歴史的背景

山形県のものづくりは、鋳物から派生した「農機具製造」と「機械鍛冶」が土台となり発展してきた。戦時体制下においては航空機用発動機部品などの生産拠点がかれ、高い加工技術を持つ疎開工場の定着と地元企業への技術移転が進んだ。戦後、軍需工場はミシン工業や自動車部品工業を担う工場となり、高度経済成長期以降には企業誘致により半導体、電子部品、通信機器等工場の進出および地元企業との取引拡大が進み、現在は金型、メッキ、切削、鋳造、鍛造、プレス等の基盤技術の集積地となっている。

②県内経済における製造業の位置づけ

「山形県の地域経済分析」(経済産業省)によると、2011年現在で山形県における製造業の付加価値構成比27.9%、従業者構成比24.8%でいずれもトップとなっており、県内経済におけるその重要性が読み取れる。また、両構成比の全国平均は付加価値構成比19.9%、従業者構成比17.8%であり、他県との比較においても製造業の県内経済への貢献度が高い。

③製造業内の産業構造

次に製造業内の産業構造に目を向けると、電子部品・デバイス・回路製造業が付加価値構成比17.9%でトップ、従業者構成比14.0%で2番目と中心的な地位を占めている。また、両構成比の全国平均が付加価値構成比5.4%、従業者構成比5.3%であり、山形県の指標はこれを大きく上回っていることから、電子部品・デバイス・回路製造業が山形県の製造業を特徴づける要素と言える。

(2)人材育成

①工業高校

山形県は相対的に工業高校の生徒数が多い県である。工業系学科生徒数の実数では、人口の絶対数が多い他県に及ばず23位と中位クラスであるものの、高校生総数に対する割合でみれば15.0%で2位であり、山形県の高校教育に占める工業系学科の割合が高いこと読み取れる。これらの工業高校は山形県のものづくり人材輩出に重要な役割を担っており、多くの卒業生が県内製造業に就職、ものづくりの現場を支えている。

②山形大学工学部

山形大学工学部は、明治末期に全国で7番目の高等工業専門学校として開校された米沢高等工業学校が前身で、その歴史の中では現在の帝人㈱の前身である東工業㈱との共同研究により人造絹糸(レーヨン)の開発に成功し、大学発ベンチャーのはしりとも言われる実績を残している。伝統工芸品の「米沢織」に代表されるようにもともと繊維産業がさかんだった土地柄から、山形大学工学部は繊維、高分子、プラスチックといった分野が強いという特徴を持っている。近年ではこれに有機エレクトロニクス分野が加わり、当分野における世界有数の研究拠点として最先端の研究が行われている。

当学部では研究・大学教育のほか「出前講義」として所属教員が県内の小中高校に出向き講義をする地域貢献活動を行い、県内の子どもたちに理工学の面白さを伝
えるとともに、当学部の活動に対する理解を広めている。

③山形県工業技術センター

工業技術センターは、県内の工業全般に関する技術水準の向上を図ることを目的として山形県が設置した技術支援機関で、「技術相談」「受託研究・設備使用」「技術者養成」「情報提供」「研究開発」を業務の柱としている。いずれも中小企業の限られた経営資源を補うためのものである。

このうち「技術者養成」には、マンツーマンで実際の課題解決にあたる「ORT(On the Research Training)研修」、座学と実習のパッケージ研修の「技術者研修」がある。

(3)産官学連携

①山形県の描く枠組み

山形県の作成した戦略では、「山形県工業技術センター」および「山形県産業技術振興機構」が中心的役割を果たす。技術的な相談については工業技術センターが中核となり、より実用化に近い段階、もしくはより高度な研究開発へと発展する見込みのある案件については産業技術振興機構が担当するという棲み分けとなっている。

工業技術センターでは技術シーズの蓄積と企業への技術移転を行っており、特に「超精密加工技術」は、過去に構造改革特区の指定を受けるなど、県を挙げて取り組んできたテーマである。

産業振興機構には、産学官連携コーディネーターが配置され、民間企業と関係機関の橋渡し、研究開発の進展に応じた支援・調整などを図っている。同コーディネーターは、年間300~400件程度の企業ニーズ調査、研究シーズ調査、産学官連携に関する相談を受けており、民間企業と医療機関、民間企業と研究機関(大学等)のマッチングについてもコンスタントに実績を挙げている。また、企業の研究、製品化のための資金調達手段として、各種補助金獲得の支援を行っている。

②研究機関による最先端分野への取組み

山形における研究機関のものづくりに関する取組みとして、山形大学工学部(米
沢市)の「有機エレクトロニクス」と慶応義塾大学先端技術研究所(鶴岡市)の「バイオテクノロジー」を取り上げたい。

ア.山形大学工学部「有機エレクトロニクス」

当学部の城戸淳二教授が世界ではじめて白色有機ELの開発に成功したことをきっかけに自治体、企業も巻き込んだ基礎研究および実用化の推進が図られてきた。「有機エレクトロニクス研究センター」において「有機EL」「有機太陽電池」「有機トランジスタ」の3部門について研究が進められており、「有機エレクトロニクスイノベーションセンター」において事業化に向けた研究が進められている。

イ.慶応義塾大学先端技術研究所「バイオテクノロジー」

当研究所は平成13年に鶴岡市に開設。最先端のバイオテクノロジーを用いて生体や微生物の細胞活動を網羅的に計測・分析をする研究を行っている。当研究所からは4社の大学発ベンチャー企業が輩出されており、うち1社は東証マザーズへ上場している。それぞれの企業は、メタボローム受託解析事業や人工クモ糸等特徴的な分野で成果を上げている。

2.山形のものづくりの強み

(1)技術力

山形は江戸時代以降、ものづくりの文化が根付いている地域であり、また、現代においては半導体、電子部品、通信機器等の工場進出を契機に、金型、めっき、切削、鋳造、鍛造、プレス等の基盤技術が集積している。これまでに地元企業が蓄積してきたノウハウは表に出にくい「匠の技」も含め相当なものがあるだろう。

(2)ものづくり人材供給

山形県は工業高校の生徒数割合が多い県であり、現在も多くの卒業生が地元製造業へ就職している。人手不足や世代交代の必要性が言われる中、この人材供給力は山形の強みと言える。

(3)産官学連携

山形には、古くは東工業㈱(帝人㈱の前身)、現代は山形大学工学部や慶応義塾大学先端技術研究所からのスピンオフ企業があり、大学発ベンチャーを生む土壌がある。これは研究機関が事業化にこだわりを持っていることの表れであろう。また、産学官連携コーディネーターの活動により、民間企業と研究機関の距離は近くなっており、効果的な連携が生まれやすい環境にあると思われる。

3.山形が取り組むべきこと

(1)今後必要とされる技術は何か

現在、産業界においては、「IoT」「人工知能」「Industry4.0」等のキーワードが飛び交っている。これらの実現可能性や時期ははっきりしないが、これらの動きから考えられることは、今後、様々な分野で「自動化」がより一層進むであろうことである。自動車や家電、さらには医療現場や工場などでも人間が行っていたことが機械に置き換わる「自動化」が進むだろう。

ここで必要になる技術はいかなるものであろうか。考えられるものを以下に列挙する。

・人間の「知覚」にあたる、センシング技術

・人間の「脳」にあたる、情報処理技術

・人間の「身体」にあたる、ロボット技術

・これらを組み合わせる組込み技術     など

これらについて現存のものよりも、精度、強度、複雑度等について、高いレベルが求められるであろう。これらを実現するために必要な技術は、突き詰めて考えていけば、金型、メッキ、切削、鋳造、鍛造、プレス等の基盤技術に行き着くはずである。もちろん、ソフト技術としてビッグデータの解析やその応用技術は必要であるが、一方で、いかに小さく作るか、いかに正確に作るか、いかに強度を保つかといったハード面での技術が揃わなければ世の中の「自動化」は実現しない。

これらの基礎的な技術は山形のものづくりが得意とする分野であり、その水準を維持、向上し、そこに有機エレクトロニクスやバイオテクノロジーなどの新技術を融合させ、新たな基盤技術として育てていくのが山形のものづくりが進むべき方向であるものと考える。

(2)山形は何をするべきか

では、これを実行するために山形は何をしなければならないだろうか。必要なものとして、以下の二点を挙げたい。

①現場力向上

第一に、ものづくり企業それぞれの現場力向上である。現場力とは現場のオペレーション能力全般のことで、製造業においては特に工場におけるオペレーションを指し、「削る」「磨く」といった基礎技術を高めること、工場の流れをよくすることが現場力の向上である。現在も山形の現場では、様々な取組みが行われていることと思うが、これをより高いレベルで続けていくことが山形のものづくりを強くする道であると考える。この現場力向上を目指すにあたっては、自社単独の取組みのみならず、企業間の連携が効果的だろう。技術面では他社に負けられないという競争意識が働くだろうし、仕組みづくりにおいては単独では得られない気づきも交流をすることによって得られるようになる。

また、山形大学ではものづくり企業の生産効率向上等をサポートする人材として企業OB等を「ものづくりシニアインストラクター」として養成している。製造に関する確かな知識、技術をもつ人材にそのノウハウを整理して「教える技術」を身につけてもらうための養成カリキュラムを受けたインストラクターである。このような人材を企業がうまく活用できれば企業間の知識の共有は進み、また、インストラクターのノウハウも積みあがるという好循環が生まれるだろう。

②人材育成

第二に、人材育成である。各企業が現場力向上に努める一方、これを伝承していくことを考えなければならない。工業高校からの人材供給力は山形のものづくりの強みのひとつである。これらの若い力を徹底的に鍛え10年後、20年後のものづくりを担う人材に育てるべく「匠の技」を継承していくのだ。ここでも企業単独ではなく、企業間の交流を積極的に行うことが取り組みを加速させると考える。交流することにより競争意識や新しい気づきを得られることに加え、同年代のものづくり従事者とヨコのつながりを持てることもプラスに働くだろう。企業の枠を超えて、貴重な若い人材を山形全体で育てていくという意識を持った人材育成が望まれる。

また、小中高校の各年代毎に職業教育をきちんとするべきだ。特に小中学校のうちに地元企業および産業について理解を深めることは、就職を考えるときに地元企業を選択する動機のひとつになる。ここにおいては、大学および企業に一役買っていただきたい。既に山形大学工学部では「出前講義」の仕組みがある。地元の小中学校、そして高校もぜひこの仕組みを活用しものづくりに関心を持つきっかけを作っていただきたい。企業も行政と協力して、自社の事業を子どもたちに伝える機会を持ち、自社の技術の素晴らしさや取り組んでいる内容を力強く伝えていただきたい。こういった活動が未来の山形のものづくりを支える人材を生むものと考える。

(3)キーワード「産学官連携」

この「現場力向上」「人材育成」を行うためのキーワードとして「産学官連携」を挙げたい。先に述べた通り、山形には産学官連携の土壌があり、近時も産学官連携コーディネーターの活動等により三者の距離は比較的近い。次の段階として、さらに企業間の技術交流、相互研鑽が活発に行われるような環境づくりを進めていくべきだ。現場力向上と人材育成に山形全体で取り組んでいくという姿勢が求められる。ハブとなる公的機関が積極的な動きを展開するとともに、企業側もオープンなスタンスで構えてほしい。企業には競争があり、自社のノウハウを簡単に教えることはできないかもしれないが、守るよりもお互いに積極的に交換しあうことで新たな気づきが生まれることも間違いない。

山形大学、慶応義塾大学先端技術研究所が展開する先端分野の研究成果は、将来的に重要な素材を生む新たな基盤技術となる可能性がある。大学側は事業化に向けた研究を進め、企業側はその動向を注視し自社の事業に取り込むチャンスを探っていくべきだ。

4.結び

山形にある人的、物的資源は限られ、「あるもの」より「ないもの」を数え上げる方が簡単かもしれない。また、山形は典型的なムラ社会であり、閉鎖的と揶揄されることも多いが、裏を返せば地域内の連帯は強く、一つにまとまるポテンシャルはある。また、歴史に裏打ちされた確かな技術力と地元からのものづくり人材の供給力は山形の強みである。これらの強みを産官学一体となって山形全体で育てていけば、これからもものづくりは山形を支える力になるだろう。

本レポートはあくまで個人の意見であり、山形銀行ならびに山形銀行グループの見解を代表するものではありません。

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