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老人よ!大志をいだけ―地域再生への提言(その2)
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第28回

9月 05日 2014年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住16年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

日本の地域再生を図る上で最も重要なことは「若い女性が定着する環境づくり」であり、そのための第1歩として、産業育成の方法について前回、私案を紹介させていただいた。今回は「赤ちゃんの育児を含めた教育環境の整備」についてお話ししたい。

◆「家族や子供は仕事よりも大事」は本当か

最近の日本の論調を見ていると、「赤ちゃんの育児に関わる問題」は「イコール託児所不足」の問題のように聞こえる。核家族化が進み都会で働きながら育児を行わなければならない女性にとって、託児所不足は確かに死活問題である。しかしそれ以上に、日本には大きな問題があると私は考える。普段はまったく子供に対して無関心でありながら、何か事が起こると一斉に魔女狩りのように走る日本の社会風潮である。

私は米ロサンゼルスでアメリカ人の経営する会社で、そして現在はタイの銀行と、海外で計2回、日本の会社以外で働いた経験がある。こうした会社で働くと日本の銀行時代には考えられないことに遭遇する。

子供の病気に伴う従業員の欠勤も極めて頻繁にあるが、「母の日」や「授業参観」などの学校行事でもしょっちゅう早退する。また周りの人たちも、それは当たり前のこととして、互いに仕事を積極的にサポートする。

アメリカ人にとってもタイ人にとっても、「家族や子供は仕事よりも大事」なのである。日本でも、朝の主婦向け報道テレビ番組ではコメンテーターが「家族は仕事よりも大事です」と、したり顔で言っている。しかし、会社内の実態はそうはなってはいないのではなかろうか?

◆子供を育てる環境づくりを

更に驚くことに、アメリカやタイの会社の職場内には、時として子供たちがいるのである。ベビーシッターやメードが病気になったりすると、会社の女性たちは自分の子供を職場に連れてくる。

すると同僚たちも、この子供の面倒を一緒に見てあげる。夕方になると、会社の会議室や応接室などに続々と子供たちが集まってくる。学校から会社に子供たちが送られてきて、夕方になると一緒に親と子が会社から自宅に帰っていく。まるで、託児所が併設されているかのような錯覚に陥る。日本でこんな光景が展開されたら、目くじらを立て、「神聖な職場に子供を入れるのはけしからん」と一斉に攻撃されるであろう。

しかし、社会全体が子供に対して寛容なのである。アメリカやタイでは、ホテルでも病院でもレストランでも、見知らぬ人が赤ちゃんや小さな子供たちに関心を示し、声をかけてくれる。日本では、見知らぬ人が声をかけると犯罪者扱いされかねない。

とにかく、他人に対して無関心を装うのが日本で賢く生きる知恵のようである。しかしこんな社会では、子供に対して優しさなど表出されてこない。「人に声をかけ、人に優しくする」ことが子供を育てる環境づくりの第1歩である。

◆都会と地方で進む「二極分化」

次に考えなければいけないことは、地域に特定産業を根づかせるための一貫教育の導入である。バンコック銀行に日本から出向している地方銀行の人に聞くと、地方には日本のテレビコマーシャルで流される「マイホームに住む幸せな家族」などはいないと言う。

裕福な家庭で優秀な学生たちは県外の一流大学に行き、東京・大阪など都会の会社に勤めてしまう。田舎に残っているのはヤンキー夫婦。その多くは無計画で子供ができてしまい、結果として結婚。こうした夫婦の中には定職を持たない者もおり、夕方には小さな子供を連れてコンビニ飯。こうした「二極分化」が起こっているというのである。

こうした子供の育成モデルを抜本的に変換していく必要がある。このために前回述べたように、地域ごとに特定産業を決め、大学を含めた地域教育機関が一体となって産学協働を進めていかなければならない。

◆昔より働かず元気な今の老人たち

ここで私が注目するのは、いまだ元気な老人パワーの活用である。私の学生時代の友人で元日本銀行理事、現NTTデータ経営研究所取締役会長である山本謙三君は人口や労働力動向について極めて鋭いレポートをたくさん書いている。

同研究所の2014年3月3日付の「コラム・オピニオン」に掲載された彼のリポート「長生きになって、むしろ働かなくなった高齢層~~平均寿命と労働力人口比率」もインパクトのある分析である。正確を期すため、ここでは彼の原文をそのまま引用する。

「まず平均寿命の推移をみてみよう。世界各国とも寿命の伸びが著しいが、なかでもわが国の長寿化は際立つ。1965年から2012年にかけて、男性で67.7歳から79.9歳へ、女性で72.9歳から86.4歳へと長寿化した。男女あわせてみれば、先進国のなかでも群を抜くスピードだ。」

「データが遡れる1968年時点をみると、65歳以上の労働力人口比率は33.5%だった。これが2013年には20.5%まで低下している。このうち男性だけをとってみると、52.1 %から29.4%への大幅な低下だ。65歳時点の平均余命は、この間に6~8年伸長している。つまり、平均余命が延びたにもかかわらず、働こうとした人の割合はむしろ大きく低下したことになる。」

なんと今の老人は、昔の老人より働かなくなったのである。こうした元気な老人たちにもう一度働いてもらうことが、地域活性化の道だと私は考える。老人は体力が衰え、頑固になっていくという欠点がある。一方、金や時間に余裕があり、また長く生きてきたことによる経験とノウハウを持ちあわせている。

◆老人は有効に活用できる

こうした老人を有効に活用できるいくつかの可能性を提示したい。第1は、定年退職後の起業である。老人たちにはノウハウ・経験があり、かつ子供の養育が終わっているため若干のリスクもとれる。こうした人たちに積極的に起業してもらうのである。簡単に起業できる仕組みづくりや支援などは地方自治体の仕事である。補助金がなくてもできる仕事である。

老人が積極的に関与してほしい領域の2つめは、教育育児関連の仕事である。前述のように特定産業を目指した産学協働を図っていくとすると、一貫教育の中で積極的に実際の技術を伝授していく必要がある。

経験、ノウハウを持つ老人たちは、こうした技術を若い人たちに教えていくのである。技術者でなくこうしたものが教えられないという人でも、語学ができれば海外留学生の受け入れを行えば良い。こうしたことにも自信がないなら、各会社内に併設していく託児所で子供の面倒を見れば良い。会社内の託児所であれば、いざという時は親御さんに助けを求めれば良いのである。

第3の仕事の場は、ベンチャーキャピタルの創設である。老人は日本の人口動態の中では、富裕層である。こうした老人の持っている資金を集め、その地域の産業育成に出資してもらうのである。もちろん地方銀行は、このベンチャーキャピタルの設立・運営に積極的に関わっていかなければならない。

こうやって産業が興ってくると、次々と働ける場所が広がり若い女性が定着する環境ができあがってくる。地域再生のためである。今こそ老人よ!大志をいだけ!

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