п»ї ASEANに広がる「質」「量」両面での労働者問題(後編)『ASEANの今を読み解く』第17回 | ニュース屋台村

ASEANに広がる「質」「量」両面での労働者問題
(後編)
『ASEANの今を読み解く』第17回

12月 19日 2014年 国際

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助川成也(すけがわ・せいや)

中央大学経済研究所客員研究員。国際貿易投資研究所(ITI)客員研究員。専門は ASEAN経済統合、自由貿易協定(FTA)。2013年10月までタイ駐在。主な著書に、『ASEAN経済共同体と日本』(2013年12月)がある。また、昨年10月末に「ASEAN大市場統合と日本」(文眞堂)を出版した。

タイでの製造業部門における労働力不足問題について、近隣国に依存した解決は難しくなりつつある。タイ政府は労働力の産業間移動を推進することで、この問題を解決に導く必要がある。また、第2エコカー政策などの本格的始動を控え、技術者不足の深刻化、質の低下が懸念される。その状況の中、日本の名前を冠した「泰日工業大学」は「日本型モノづくり」の実践教育を受けた人材を輩出し、タイの産業集積の屋台骨を支える。

◆求められる産業間労働移動促進

タイでの労働力不足を補うべく、ミャンマーを中心とした周辺国の労働人材が正規・非正規など様々な形でタイに入国し、就労している場合も少なくない。その数は200万~300万人とも言われる。

しかし、タイ投資委員会(BOI)は認可企業の場合、原則として未熟練外国人労働者の雇用を認めていない。それを知らずこれまで未熟練外国人労働者を使ってきた企業は、2012年末までに「ゼロ化」することが求められたが、BOIは産業界から深刻化する労働力不足に対する悲鳴にも似た声を受け、「ゼロ化」を2年間延長したが、その特例措置も14年12月末で失効する。BOI高官は、2度目の延長の可能性を否定する。

このひっ迫した状況を政府が改善するには、短期的には今後国境周辺に経済特区(SEZ)を設置すること、中長期的には、労働力を農業部門から製造業部門に移動させる政策を講じることが必要である。

前者は現在、ターク県、ムクダハン県、サケオ県、ソンクラー県、トラート県にSEZを設け、法人税の免税を始めとする「BOIゾーン3プラス」の投資恩典を付与するとともに、未熟練外国人労働者が毎日国境を越えて通勤、SEZに立地する企業での就労を認めることが検討されている。

後者について、13年時点のタイの就労者数3892万6千人のうち、第1次産業は41.7%を占める。05年が38.6%、10年が38.2%であることから、インラック前政権下で労働力が第1次産業に移入している。

一方、第2次産業は13年で総就労者数の15.0%を占めるが、05年(15.8%)、10年(14.2%)からみても、顕著な労働力流入は見られない。その間、中国は05年からの8年間で第1次産業の就業比率は13.4%ポイント減少、第2次産業はその間、6.3%ポイント増加するなど、労働力の産業間移動が行われている。タイは産業・経済政策により、労働力の産業間移動を推進することで、製造業で顕著な労働力不足問題を解決に導く必要がある。

図 ASEAN各国の産業別就業割合推移

◆「日本型モノづくり」の実践教育を受けた人材の供給

また、第2エコカー政策などの本格的始動を控え、技術者の絶対的不足から、技術者の賃金高騰および引き抜き合戦が懸念される。

そのような中、「日本型モノづくり」を実践出来る人材育成の取り組みが始まっている。その動きはタイから始まった。貿易・経済摩擦によりタイの対日感情が悪化していた1970年ごろ、それを憂いた元日本留学生が「日本の最新技術と知識のタイへの移転・普及」を目的に設立した泰日経済技術振興協会(TPA)が、2003年に設立30周年を迎えたことを機に、「日本型モノづくり」を実践する産業人材の育成を目指し、工業大学設立を表明した。

設立資金は、TPAが30年にわたってコツコツと貯めてきた自己資金である。それから4年が経過した07年、「泰日工業大学」(TNI)が誕生した。同大学には、日本側資金が一切入っていないにもかかわらず、日本の名前を冠した。これに応えるべく、日系産業界も奨学金、訓練機材の提供、企業OBの派遣などで支援した。

開校当初、工学部、情報学部、経営学部の3学部で4学科、修士1学科であったが、現在までに14学科、修士5学科にまで広がっている。それに伴い学生数も増加、開学当時約430人であった学生数は約4千人規模になっている。

11年度以降、「日本型モノづくり」教育を受けた人材が、社会へと巣立っている。特筆すべきは、近年、大学卒業生と企業ニーズとのミスマッチが叫ばれる中、第3期生で就職を希望する570人の就職率が98.4%(561人)を記録したことである。うちおよそ半分(278人)は就職先として日系企業を選んだ。また、全体の42%(235人)が中小企業に就職した。

日系企業のニーズに合致した産業人材育成を念頭に、産学協力で育成された人材が、今後も毎年千人前後輩出される。彼らが今後の日タイの産業連携の懸け橋となるとともに、タイの産業集積を支える大黒柱に育つことが期待される。

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