「嫌中」で粗悪品つかむ
万博EV 不具合で全滅
『山田厚史の地球は丸くない』第310回

4月 03日 2026年 政治, 社会, 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

大阪万博で脚光を浴びながらも不具合続出だった電気自動車(EV)バスが、ついに「お払い箱」になった。「国産EV」との触れ込みだったが、実は中国でも走っていない「欠陥バス」。納入したのは北九州市に本社のある「EVモーターズ・ジャパン(EVMJ)」。万博の商売でハクを付け、全国に売りまくったバスが、なぜこんなことになったのか。

発端は「嫌中」。性能に定評がある中国製バスを敢えて採用せず、「国産」にこだわるあまり、「国産まがいもの」をつかまされた。有力政治家と行政が一体となって中国製粗悪品に補助金をつけて各地に広めるという「笑えない笑い話」となった。自民・維新の与党体制を揺るがす不手際にもなりかねない。

 ◆逃げの万博事務局、言い訳する大阪メトロ

大阪メトロは3月31日、大阪万博で来場者輸送に使ったEVMJ製のEVバスについて「車両の安全性への懸念が解消されない」として、閉幕後に予定していた路線バスなどへの転用を断念した。

「EVバスの墓場」が大阪港にある。万博後は路線バスや自動運転の実験に転用される予定だったが、走行に不安があり190台が、野ざらしになっている。ほとんど走っていない真新しいEVバスが事実上廃車になる。大阪市の100%子会社である大阪メトロの所有で、路線バス用の150台分の購入費は75億円。このうち国と大阪府市から補助金40億円が投入された。

大阪メトロは、万博会場と近隣の駅などを結ぶシャトルバスなどとして使う大型バス115台、万博会場内の移動などで使う小型バス35台の計150台をEVMJから購入。この150台は「e Mover」という名で万博の来客を運んだEVだが、突然ハンドル操作が効かなくなることや、急発信など事故につながりかねない不具合が頻発。公共交通機関でこのような事態が起こるのは異常だが、これまで実績のない会社であるEVMJが100台ものEVバスを受注した、というのも異常である。

同社は2019年4月1日に設立されたベンチャー企業。創業社長の佐藤裕之氏(2026年1月に退任)はエンジン周りの電気技術者で、カーボンニュートラルへの対応を迫られる九州財界や経済産業省の懐にうまく飛び込んだ。しかし、EVバスを造ったこともない会社が、技術の審査もなしに、競争入札ではなく、随意契約で大量発注を受けた。どう見ても不透明である。

万博事務局は「輸送手段は事業者である大阪メトロが決めたこと」と逃げ、大阪メトロは「万博開始までに時間がなく、100台調達という難しい条件もあり柔軟に対処した」という。

◆「日本企業製」、実は中国でのOEM製造

EVバスで圧倒的な実績があるのは中国のBYDだ。中国国内だけでなく、欧州やアフリカの市場を抑え、日本でも京都などでバスを走らせている。国内勢ではいすゞが開発中だったが供給実績はない。価格や品質で優位に立つBYDに決めるという稟議書類も作られていた。それが「万博は国産技術で」へと流れが変わった、という。

契機となったのが2023年2月、当時の西村廉稔(やすとし)経産相によるEVMJの本社工場見学だった。同社のEVバスに試乗しメディアの取材に対し「静かで、乗り心地が良い」などと感想を述べた。大臣の訪問は、いわば「ゴーサイン」。大阪メトロは6月、EVNJに100台を発注することを決めた。

西村氏は万博開始直後の2025年4月、「X」にこんな投稿をしている。

「経産大臣当時、大阪のバス会社が中国製EVバスの導入を進めていたことに危機感を持ち、日本企業製のバスの導入を奨励しました」。BYDのことだ。中国製を阻止するため日本企業製のバスを「奨励」した、と手柄話のように語っている。この時はまだ不具合は表面化していなかった。

西村氏は「日本企業製」という言葉を使っている。確かにEVMJは日本企業だが、万博に納入したバスは「国産」ではない。同社のサイトには次のように書かれている。

「商用EV車の製造は、当社から指定した仕様・部品をもとに、中国にてOEM(相手先ブランドによる生産)製造を委託しています」。

EVMJは生産者ではなく、中国メーカーに製造を委託し、輸入して販売する会社だと認めている。工場はあるが、クルマを造るのでなく、行先表示板や料金箱など付帯部品を装着する仕上げをしている。EVに必要なモーターや足回り、走行システムなど基幹部品は手がけていない。

◆制度の隙間を突いた輸入

不具合は基幹部品で起きている。国土交通省の調べでは、EVMJが全国各地に納車した317台のバスで113台に不具合が見つかった。欠陥率35%というのはすさまじい数だ。中国の3つの会社で造られたものだが、どのバスも中国では走っていない。走行に必要なテストを受け認可されたバスではなく、輸出専用に生産されたものだ。

クルマは国土交通省の型式認定がないと走れない。このテストが厳しいため、自動車業界は検査偽造までしているほどだ。海外で生産されたクルマも車種ごとに型式認定が必要とされるが、個人が持ち帰る時などの少量輸入には、「並行輸入」という制度がある。それぞれの国できちんと走っている車種なので、走る、曲がる、止まるなど簡単な検査を1台ごと行い、合格すれば認可される。EVMJのバスは並行輸入品だ。中国でも日本でも厳格な検査を受けていないバスが公共交通機関で使われている。

制度の隙間を突いた輸入とされるが、黙認した国土交通省に落ち度はないのか。万博という国策があったにせよ、安全試験を受けていないバスに公道を走らすなどあり得ないことだ。

そんなバスが「国産」として、カーボンニュートラルを謳(うた)って万博輸送を引き受けた。本社まで足を運んだ西村大臣は、工場に自動車を造る製造装置が無いことに気づかなかったのだろうか。それとも、今は部品の輸入に頼っているが、数年後には自社で造る、というウソ話をそのまま信じたのか。

◆中国製拒否した結果が「粗悪品つかみ」

EV化に出遅れ、日本にはEVバスを造る技術がない。技術の祭典である万博で中国製バスに頼るなど、経産大臣として認め難い。その想いが「大阪のバス会社が中国製EVバスの導入を進めていたことに危機感を持ち」という言葉に滲(にじ)み出ている。

中国は国内の格差を反映し、製品にピンからキリまで差が激しい。自動車も然り。バッテリー技術を中核に躍進するBYDはトヨタに技術供与するほど頭抜けた水準だ。その対極に売れ残る粗悪品EVがある。日本で造れないなら質のいい中国製を受け入れればいいのに、拒否した結果が「粗悪品つかみ」となった。

バスを車体ごと輸入して、最後の「お化粧」だけ九州の工場でやって日本製として売る。衣料品などであった「産地偽装」を自動車に広げたことに無理があった。

深刻なことは、「これはおかしい」という声がどこからも上がらなかったことだ。日本の技術に責任を持つ経産省でだれも気づかなかったのか。EVMJに大役を与えるなら、事業内容を確認しているはずだ。大臣が視察する担当者は下見する。バスが輸入品であることがわからないはずはない。

◆検査制度の尻抜け許した国交省

さらに罪深いのが国土交通省だ。検査制度の尻抜けを許した。

「このバスは中国で認可されていなません。簡単な検査だけ走らせるのは問題です」となぜ言えなかったのか。

九州財界も情けない。「詐欺まがい」のEVMJを、「ベンチャー企業の星」のように崇(あが)め、横並びで支援した。多額の融資をした銀行の目は節穴だったのか。皆がもたれ合い、自分で判断せず、おかしいと思っても口にしない。

政治家、財界、役所が一体となってEV補助金の積み上げへと動いた。中国製との競争を避けるため受注は1社独占。バス価格を膨らましてEVMJの収入を増やし、補助金をてんこ盛りして、バスの買い手の負担を減らす。

「地域の足確保」を口実に自民党バス議連が動き、自治体は5000万円のEVバスが、条件次第では1000万円台で調達できる。おかげで「粗悪品バス」は伊予鉄バス、富士急グループ、阪急バス、東急バスなど大手バス会社のほか、川崎市や大分市、鹿児島市などの市営バス、東京都港区、渋谷区などでコミュニティーバスとなり、2025年末で320台を超えた。

不具合はあちこちで起きている。福岡県筑後市の小学校には4台が納入され、「日本初のEVスクールバス」と話題になったが、故障だらけで、わずか2週間でディーゼルバスに切り替えられた。東京足立区では走行中、ブレーキが効かず、運転手が思い切り踏み込んで止まったが、転んだ乗客が骨折する事故が起きた。大阪市の190台に続き、残る130台も遠からずお払い箱になると見られる。

国産を装って粗悪品を売りつけたEVMJはどう責任を取るのか。始まりは大阪市がBYDを外したことだ。損害を受けたのは大阪市民だ。「偽装国産品」を勧めた西村元経産相は旧安倍派の有力者、高市政権を支える自民党選挙対策委員長だ。役所は政治家に気遣ってか、行政の筋を歪めている。税金は誰のために使われているのか。「笑えない笑い話」の裏に、日本の病理が隠れている。

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