山口行治(やまぐち・ゆきはる)
株式会社ふぇの代表取締役。独自に考案した個体差の機械学習法、フェノラーニング®のビジネス展開を、栃木県那須町で模索中。元PGRD (Pfizer Global R&D) Clinical Technologies, Director。ロンドン大学St.George’s Hospital Medical SchoolでPh.D取得(薬理学)。東京大学教養学部基礎科学科卒業。趣味は農作業。


1 はじめに; データをおいしくする家庭料理
これから始まる物語と一緒に成長する、アルパカキャラのフェナ(上のイラスト左)とフェニィ(同中央)を紹介しよう。栃木県那須町に、1999年から2023年まで、那須アルパカ牧場があったことは、忘れられつつある。東京から1万8200キロ離れた、世界で東京から4番目に遠い首都、チリのサンティアゴ(GoogleのAI〈人工知能〉サービス、Geminiより)。はるばるチリから、特別機で200頭のアルパカが空輸されてきたそうだ。
アルパカキャラのフェナとフェニィは、AIお絵かきソフトのCanvaで生まれて、那須町のパソコンでAI学習をしながら育っている。養育係はフェノじい(上のイラスト右)。
フェナとフェニィと一緒に、「データ」について、できるだけやさしく学習していこう。しかし、最新の機械学習やデータサイエンスの入門ではないぞ。近未来の物語だから、聞いたことが無いような話で、遠くのチリも近くに感じられるだろう。
◆データリテラシー
データリテラシーという学習用語を知っているだろうか。データリテラシーについて、ネットで検索してみたらすぐに分かるのだけれども、「データの読み書きの能力」といいながら、データを分析したり、分析結果を伝えたりする能力の説明ばかりで、データを書いたり作ったりしていない。世界中にデータがあふれているかのようなふりをしているのだ。実際は、巨大企業や覇権国家が、世界中のあらゆるデータを、石油の採掘をするように、必死に集めて独占していることは、秘密にしている。
最近のAI技術は、LLM(大規模言語モデル)を作るために、世界中の文章や、言語に関連付けられた、画像や音を集めている。インターネットで公開されている情報は、手軽に入手できる言語データとなった。人類の歴史的資産である言語データが、巨大企業の巨大なデータセンターに集められて、分析されて、独占的に使用されている。
言語ではない数字のデータを作るためには、測定機器が必要になる。データを測定することは大変なので、機械が自動的に測定する時代になってきた。ヒトや機械が測定したデータを生データという。フェナとフェニィの物語は、生データを作ったり整理したりすることから始まる。できるだけやさしく生データについて学習するために、生データを料理することを想像してもらいたい。生データは、多分おいしくないだろう。どうしたらおいしくなるのだろうか。
フェノじいは、那須の寒村で家庭菜園を作っている。農家の皆様も、販売する作物とは別に、自分たちの家庭菜園を作っている。販売する作物は、機械化に適していて、収量が多い作物だ。家庭菜園では、おいしい作物を作る。生データをおいしくするのは、家庭菜園と家庭料理に秘密がありそうだ。家庭菜園で汗を流すと、家庭料理がさらにおいしくなる。家庭菜園の生データは、新鮮で安いのも魅力だぞ。
しかし、人口減少と異常気象の影響で、寒村の家庭菜園は雑草だらけになっている。那須のような田舎生活でも、家庭料理を作る時間が無くなり、家計がきびしくなって、スーパーの安売りに依存せざるを得なくなっている。人口減少、異常気象、家計収入、どれもパッと解決する期待感はない。アルパカ牧場は閉鎖してしまった。フェナとフェニィは、楽観的な未来がない時代に、AI幻想の中から生まれてきた。
◆シューマッハ先生の警鐘
近未来の「データの時代」について、技術的な説明や社会への影響について、えらい先生方による多数の出版物がある。しかし、フェナとフェニィにとって大切なことは、データに関する知識を得ることではなく、AI幻想の中で生き延びてゆく作戦だろう。「データの時代」に最大限の希望を抱きながら、その希望がかなわないリスクのほうが大きいという現実を見つめて、作戦会議をすることが、この物語の出発点になる。
ドイツ生まれのイギリスの経済学者エルンスト・シューマッハ(1911~77年)の『スモール・イズ・ビューティフル』は、巨大化する産業社会と産業技術に関する、経済学者からの警鐘だった。世界中の多くに人びとに、シューマッハ先生からの明確なメッセージが伝わったけれども、残念ながらグローバル経済は加速・巨大化し続けていて、未来への希望を破壊し尽くした。少なくとも、言葉で語りうる希望については。
近未来のあるとき、なぜ『スモール・イズ・ビューティフル』なのか、というフェナとフェニィの質問に、「イワシ雲のような、小さいけれども微妙にランダムなパターンがたくさんあるとビューティフルですね」と、フェノじいが答えた。もちろんシューマッハ先生の死後の話で、「データの時代」への、秘密の入り口だった。
◆AI幻想で先回り
わたしたちが生きている時代には、ありとあらゆる社会的課題が未解決で、山積みにされている。近未来の「データの時代」において、『スモール・イズ・ビューティフル』を、AI幻想として、コンピューターとともに夢見たい。その時には千個の難題に、コンピューターが千・千・千・千(ビリオン)個の解決可能性をシミュレーション(模擬実験)するようになるだろう。
本当の問題解決は、「スモール・ランダム・パターンズ・アー・ビューティフル」と感じる、わたしたち自身が達成しなければならないとしても、AI幻想で先回りしてみたい。
□フェノじいの寝言
統計力学の揺動散逸定理(fluctuation-dissipation theorem, FDT:揺動散逸定理 – Wikipedia)の夢をみた。難しい理論だけれども、データで説明すれば、おそらく理解しやすくなる。工学の制御理論は、フィードバック制御から予測制御へと発展した。個体差がある、経済や生物を対象とする制御理論では、揺動散逸制御が有望かもしれない。ゆらぎ制御として、先端的な研究が先行している。ゆらぎ制御のデータが見えてきたら、従来の予測制御では制御できない予測不可能な現象でも、制御できるようになるかもしれない。例えば、局所的なくりこみ適応などなど……
【参考】「おいしいデータの家庭料理」目次
1 はじめに; データをおいしくする家庭料理〈本稿〉
1.1 おいしいデータは栄養たっぷり
1.2 地域のデータをおいしくする
1.3 データの学習と食事
2 データの料理法
2.1 生データのしたごしらえ
2.2 データは発酵するのか
2.3 データの調理器具
2.4 データの献立表
2.5 データのフルコース
2.6 おいしいデータは、地域と人びとを健康にする
3 機械学習の学習
3.1 データをおいしく下処理してから機械学習する
3.2 機械と一緒にデータを学習する
3.3 機械と一緒にデータを使うビジネスを考える
3.4 楽しくデータの学習をする
3.5 データの学習は冒険でもある
3.6 機械と一緒にデータを使うビジネスの冒険をする
4 まばらでゆらぐデータの家庭料理
4.1 まばらでゆらぐ生活と経済のデータ
4.2 生活と経済を豊かにするデータの家庭料理
4.3 まばらでゆらぐデータの調理法
4.4 まばらでゆらぐデータで健康になる
4.5 データを使った生活と経済の予測
4.6 生活と経済のリスクを生きのびる
4.7 たくさんの小さな試行錯誤による適応
5 よりあいグループと社会
5.1 よりあいグループ(地域や家族)のデータ
5.2 よりあいグループのよりあいグループ
5.3 機械と学習するよりあいグループのデータ
5.4 よりあいグループのデータは廻る
5.5 よりあいグループのデータの周辺
5.6 よりあいグループのデータを予測する
5.7 よりあいグループのデータで社会問題を解決する
6 おわりに;生活と社会の近未来
6.1 ほとんど色即是空・空即是色な(まばらでゆらぐ)世界
6.2 まばらでゆらぐ人びとの地域社会
6.4 データでつながる、地域のNPOから国際NGO連合まで
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『みんなで機械学習』は中小企業のビジネスに役立つデータ解析を、みんなと学習します。技術的な内容は、「ニュース屋台村」にはコメントしないでください。「株式会社ふぇの」で、フェノラーニング®を実装する試みを開始しました。











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