п»ї 米中貿易戦争が製造業に与える影響は? 『中国のものづくり事情』第15回 | ニュース屋台村

米中貿易戦争が製造業に与える影響は?
『中国のものづくり事情』第15回

5月 16日 2018年 経済

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Factory Network Asia Group

タイと中国を中心に日系・ローカル製造業向けのビジネスマッチングサービスを提供。タイと中国でものづくり商談会の開催や製造業向けフリーペーパー「FNAマガジン」を発行している。

トランプ米大統領が通商法301条に基づき、中国からの輸入品に600億ドル(約6兆5400億円)の関税を課す貿易制裁措置を命じる文書に署名したことに端を発する米中貿易戦争は、いまだ先行きがわからない。5月3、4日には、北京西部の釣魚台国賓館で米中通商協議が行われたが、物別れに終わった。今後、製造業にどんな影響があるのだろうか。

◆集積回路以外はほぼ限定的か

中国メディア「華夏経緯網」(3月27日付)が業界ごとに分析をしている。貿易戦争が本格化した際に影響が考えられる分野は、鉄道や産業用ロボットなどのハイエンド製品から物流を支えるコンテナまで幅広い。

まず、中国が近年力を入れている鉄道関連だが、先進国に関連設備を輸出している企業は少ないものの、2017年の車両、軌道設備、信号設備などの米国への輸出額は31億8600万ドル(約3377億1600万円)に達し、対米輸出の29.1%を占める。しかし、国有企業の中国中車以外に輸出している企業は少なく、主戦場は中国国内にある。特に高速鉄道を米国市場に売り込むことが難しいことから、影響は大きくないとしている。

産業用ロボットについては、中国の17年の生産量は約11万台に達するが、中国メーカー産はそのうちの4万台で、販売額は50億元(約850億円)に過ぎないという。輸出額は3億元(約51億円)にも満たず、中国メーカーの影響は限定的だ。しかし、ロボットは日系をはじめとする外資が強いため、対米輸出をしている企業に影響が出る可能性がある。

建設機械は、対米輸出の5%程度に過ぎないし、主要部品の多くは、日本やドイツから輸入しているという。三一重工は、17年の米国での売り上げは5億元(約85億円)に過ぎず、売上高の1.5%にも満たない。中国最大手の徐州工程機械も17年の対米輸出は600万ドル(約6億3600万円)に過ぎず、中国の建設機械業界への影響も限定的だ。むしろ影響を受けるのは、世界最大手の米キャタピラーだ。4月24日に発表された18年1~3月期の決算では最高益を実現したが、トランプ大統領の鉄鋼に対する輸入制限により、原材料費が膨らみ利益率を圧迫するとの懸念がある。アジア太平洋地区の売り上げが20%を占めるため、影響は小さくなさそうだ。

繊維機械については、大手・卓郎智能はアジアや欧州を主戦場としているので、売上高における米国市場の割合は約4%、傑克股份も同5%と、影響は少ない。

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コンテナについては、世界最大手の中集集団の北米地域における売り上げは全体の10%程度だが、コンテナの需要は輸出などの経済統計に左右されるため、長期的には年間200万個の需要が見込め、貿易戦争による影響があるという。

3C製品(パソコン、通信、電子製品)向けの自動化設備で影響が大きいのは、アップルのサプライチェーンに関わっている企業だ。アップルの製品は中国で生産・組み立てられているので、米国に輸出する際に関税を課せられることになれば、アップルの利益率にも影響を与えるだろう。ただしすべての大手設備メーカーがアップルのサプライチェーンに関わっているわけではないので、やはり影響は限定的だ。

より影響が大きいのは、集積回路だ。中国における17年の集積回路の輸入額は2601億4000万元(約4兆4223億8千万円)だが、米国からが約半分を占める。貿易戦争が始まれば、半導体設備など関連企業が影響を受ける可能性がある。

工具は、巨星科技の米国での収入が60~70%を占めるため、一定の影響を受けるとしている。

石油ガス設備も、大手・傑瑞股份が影響を受けるとしている。15年の同社の米国での売上は全体の約2%に過ぎなかったが、16年は約10%まで拡大させているし、一部の部品を米国から輸入している。また、将来的にシェールガスの採掘で優位性のある米企業と技術提携する際に影響を受けるとしている。

◆「勝者なし」と警鐘―アリババグループ会長

こうしてみると、中国の製造業に与える影響は限定的なようである。しかし、中国には米国に輸出する外資企業も少なくない。そうした企業への影響は不透明だ。米紙ウォールストリート・ジャーナル(4月9日付)は「中国にとって貿易戦争の最大のリスクは恐らく、世界の製造業者が中国を対米輸出の信頼ある拠点とは見なさなくなり、他へと移転することだ」と指摘している。

一方、同紙(4月12日付)にはアリババグループの馬雲(ジャック・マー)会長が「勝者なき米中貿易戦争」と題して寄稿している。馬氏は「アリババのミッションは、どこでも商売をしやすくすることであり、その中心となるのが中小企業の支援だ」と言及したうえで、「この貿易戦争は米国の何百万もの中小企業や農家に悪影響を及ぼす」と警鐘を鳴らす。

これは中国の中小企業とて例外ではないだろう。まさに“勝者なき”貿易戦争である。先行きが見えない以上、企業は何らかの対策を立てる必要があるのかもしれない。

※本コラムは、Factory Network Asia Groupが発行するFNAマガジンチャイナ2018年6月号より転載しています。
http://www.factorynetasia.com/magazines/

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