価格なき財産(後編)
『知的財産:この財産価値不明な代物』第5回

4月 29日 2016年 経済

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森下賢樹(もりした・さかき)

プライムワークス国際特許事務所代表弁理士。パナソニック勤務の後、シンクタンクで情報科学の世界的な学者の発明を産業化。弁理士業の傍ら、100%植物由来の樹脂ベンチャー、ラストメッセージ配信のITベンチャーなどを並行して推進。「地球と人にやさしさを」が仕事のテーマ。

前回は「価格が決まらない特許は流通するはずがない」と言いました。それでは言いっ放しですので、私案も交え、解決策を考えてみます。

◆過去の評価手法

特許の評価(価格付け)には、過去いろいろな取り組みがなされてきました。特許出願等、特許成立までにかかった費用をもって価格とするコストアプローチ、実際の取引事例から価格を想定するマーケットアプローチ、事業のキャッシュフローから有形資産等を引いて算出するインカムアプローチなどです(本当はもう少し複雑ですが)。

しかし、それぞれ短所があります。コストアプローチは特許の将来の可能性を考えていません。基本特許かどうかなど見ていません。マーケットアプローチは事例がない場合に適用できず、そもそも事例は少ないです(流通していないのだから)。インカムアプローチは事業計画や特許ごとの貢献度の算定が必要で、そもそもそれが困難です。

こんな状況なので、業界全体が納得する統一手法は確立されていません。金融の人たちは知財の人間に「評価してくれ」と頼みますが、知財側、とくに弁理士は大半が理科系なので、「根拠のない予測などできません」という「科学的」な態度できました(それでも何か数字を下さい、というのが金融の実情なのに……)。

◆新しい手法

こうした声に応えるべく、手前みそながら、私が代表を務める株式会社フォーカルワークスでは数年にわたり特許評価の手法を開発してきました。その手法では特許の内的価値を評価します。アスリートで言えば、走力、背筋力、握力などを総合して数値化するイメージです。この内的価値(潜在能力)に外的環境(市場規模、技術動向等)を掛け合わせて価格を出します。

宣伝はともかく、過去の手法の問題点を解消しつつ、「これ以上合理的な考え方はない」という手法を生み出すことが必要です。なぜならば、正解がない以上ベストエフォートしか答えはなく、それが標準化されれば、取引のための「メーカー希望販売価格」のようなものにはなるためです。

◆再び、オープンイノベーション

さて、特許の価格が決まったとします。それでどうオープンイノベーションを活性化するか。ここからが私案です。以下、実行のステップです。

休眠特許の拠出
 各社の休眠特許を「オープンイノベーションのためのパテントプール」(仮にPPOI: Patent Pool for Open Innovation と呼ぶ)へ拠出します。開放特許(使いたい人に譲渡してよい特許)を登録するデータベースはすでに国が作っていますので、これを拡張して利用します。

価格付け
 PPOIに拠出された特許に価格付けをします。上述の私が考えている手法でも何でもよいですが、業界全体がある程度納得する手法でないといけません。いずれにしても、休眠特許を出す側でも探す側でもない、第三者(ここではPPOIの運営者とします)が価格付けすることが大事です。というのは、特許には標準価格がないため、売る側は「本当は10万円でもよい」と思っていても、「ひょっとして、200万円でも買ってくれる人がいるかも」と欲が出て、結局自分では値付けがしにくいのです。テレビ番組でお宝を鑑定するものがありますが、そういう値付けをする運営者が必要です。

なお、付けられた値段が安すぎる、高すぎる、という気持ちがあれば、売り手、買い手はそれぞれ運営者と交渉すれば足ります。相手と直接交渉すると、どうしても手の内が見られてしまうので、仲介者がいるほうがスムーズです。

参考意見付き
 特許は技術的に高度な文章で特定される権利です。一見して理解できるものではありません。そこで、運営者(価格付けをした専門家)は、さらに進んで、法的拘束力のない参考意見を付けるべきでしょう。つまり、PPOIにある特許には価格と参考意見が追加され、流通しやすい体裁が整います。

特許年金の免除
 PPOIに拠出された特許については、国は特許年金を免除すべきです。特許は維持するために年金を国に納めます。毎年納めないと、その時点で失効します。企業はどうみても不要になった特許は、年金だけが無駄になるため権利放棄をしてしまいます。ならば年金を免除し、権利放棄をさせる前にPPOIに入れてもらいます。

企業としても、捨てるはずの特許がひょっとすると収益を生むと思えば、拠出するでしょう。PPOIはオープンイノベーション推進という国の方針に沿うものですから、免除には根拠があると言えます。

売買
 買い手はPPOIに自分の欲しい特許があれば、運営者を通じて買い取り、ないしライセンスの供与を求めます。取引が成立すれば、売り手は免除されていた年金を国に支払います。もともと放棄される特許だったので、国だって年金収入が増えるでしょう。

差止請求権
 特許は強い権利です。特許を知らない方は、「侵害したらお金を払う」とのんきなことを言われますが、侵害したら「製造、販売は即時停止」まで迫ってきます。この行為の停止を求める権利を差止請求権といい、侵害のおそれがある、という予防段階で発動されることがあります(「お金を払えば許してもらえる」というのは、損害賠償請求権のほうです)。差止請求が出されると企業は死活問題です。

「パテントトロール」という言葉をご存じですか。企業や大学から特許を買い集め、侵害している可能性のある企業に警告状を出す組織を言い、メーカーから大変恐れられています。そしてその怖さの本質は差止請求権にあります。

そこで、PPOIに拠出されて特許については、仮に買い手に譲渡されたとしても、その買い手は差止請求権を行使しない、という協定が望ましいでしょう。国とすれば、オープンイノベーションのための相互協力の場なのです。差止請求権を互いに放棄するという約束のもと、PPOIに集う企業はより安心をして特許を拠出することができます。

さらに言えば、PPOIはオールジャパンで国益を守る機能をもつかもしれません。PPOIがあることにより、パテントトロールのような組織へ特許を売却する動きにブレーキがかかるかもしれないのです。

以上、私案を交え、オープンイノベーションと国力を考えてみました。まだ発展途上のアイデアです。今後も考えて参ります。

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