特許で会社を買いたたき? マクロニクスの戦略
『知的財産:この財産価値不明な代物』第10回

4月 11日 2017年 経済

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森下賢樹(もりした・さかき)

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プライムワークス国際特許事務所代表弁理士。パナソニック勤務の後、シンクタンクで情報科学の世界的な学者の発明を産業化。弁理士業の傍ら、100%植物由来の樹脂ベンチャー、ラストメッセージ配信のITベンチャーなどを並行して推進。「地球と人にやさしさを」が仕事のテーマ。

◆訴状

数日前、台湾の半導体メーカー、マクロニクスが東芝のフラッシュメモリを特許侵害で訴えたことがニュースになりました。舞台は米国です。何かと話題の多い東芝ですが、弱り目にたたり目の感がありますね。

報道では詳細がわからないため、訴状を探してみました。下に添付したものがそれで、冒頭ページの一部です。訴状はカリフォルニア州の南部の連邦地方裁判所に先月出されていました。

全体は24ページあります。まず原告(Plaintiff)と被告(Defendant)を特定し、つづいて、原告が特許をもっていること、この裁判所が管轄として正しく選ばれていること、特許の技術的背景と具体的な説明、東芝が特許侵害をしている申立があり、最後に裁判所に求める内容(損害賠償等)を記載しています。

 

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東芝が侵害しているとされる特許は3件で、米国特許第6552360号、6788602号、8035417号です。いずれも「メモリの内部構造上の工夫」と言えます。

◆「表」の戦略

米国際貿易委員会(ITC)は今月6日、調査を開始すると発表しました。ITCは輸入品による知的財産権の侵害案件などを扱う準司法的機関です。裁判所と同様、審判手続もするし、特許を侵害する製品の輸入差し止めを命じることすらできます。陪審員もおらず、審理は裁判所より速く、原告にとっては即効性が期待できる手続きです。被告にはとても大きなプレッシャーです。

東芝のメモリが仮に三つの特許の一部なりを侵害していると認定されれば、製品は米国市場から締め出されるかもしれません。競合であるマクロニクスは自社の将来的な利益の伸張を図りつつ、過去の分については損害賠償を得ることが目的です。これこそ特許の「表」の戦略と言えます。

◆「裏」の戦略

絶妙なタイミングです。私がマクロニクスの取締役ならば、東芝がおかしくなり始めた頃、知的財産部長にこう言ったでしょう。

──うちの特許で東芝を訴えてくれ。米国がベストだ。ただし、訴状は東芝の半導体部門の切り売りが宣言された後に出してくれ……。

「東芝の半導体部門なら買いたい」という会社は複数出てくるはずです。しかし、特許の侵害問題が表沙汰になれば、当然売却交渉の雲行きは怪しくなります。東芝の製品が米国で売れないのです。そんな会社、買うでしょうか。

もちろん、ITCや裁判所で、東芝の製品は非侵害という認定がなされれば、東芝は大手を振って売却交渉を進めることができます。しかし、審理が早いITCでも1年はかかります。東芝はグレーのままどこかに売るしかありません。

当然、売却価格は下がるでしょう。例えば、1千億円下がったとすれば……。

特許3件で1千億円です。1件で300億円超の効果があったということ。しかも、堂々と買い取れる会社はただ1社、マクロニクスなのです。特許をもっている本人ですから。

これこそ、マクロニクスの思惑でしょう。表向きはあたかも通常の特許紛争の形を取りながら(と言っても、それだって大変なことですが)、実は他の売却先候補を蹴落としつつ、買収価格を大幅に下げることができるのです。

改めて、特許の怖さを知る思いです。

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