フランスの体重計を買った
『データを耕す』番外編3

5月 02日 2017年 社会

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山口行治(やまぐち・ゆきはる)

在野のデータサイエンティスト。元ファイザーグローバルR&Dシニアディレクター。ロンドン大学St.George’s Hospital Medical SchoolでPh.D取得(薬理学)。東京大学教養学部基礎科学科卒業。中学時代から西洋哲学と現代美術にはまり、テニス部の活動を楽しんだ。職業としては認知されていない40年前から、データサイエンスに従事する。冒険的なエッジを好むけれども、居心地の良いニッチの発見もそれなりに得意とする。趣味は農作業。

体重計を買う動機は言うまでもないだろう。体脂肪率や筋肉量も興味があるので体組成計を購入することにした。タニタ、オムロン、パナソニックなど国産を比較検討したけれども、どれもハードウェアに力を入れすぎていて、データを取得して管理する機能が中途半端だった。フランスのWithingsはiPhoneに似たデザイン・コンセプトで格好良く、データを大切にしていることがよくわかる。活動量計などの関連製品もそろっている。iPhoneに似ているのはデザインだけではなく、全てのデータがiPhoneアプリに集約され、設定や操作もアプリから行う。iPhoneのApple純正ヘルスケア・アプリとの相性も良い。それでもなんとなく米国の活動量計Fitbitなどとは違って、洒落(しゃれ)ているから不思議だ。

◆目標が一つの場合

人は見かけが大切だ。とにかく痩(や)せたい場合は、目的とする体重以外のデータをまず整理する。体脂肪率などの連続データは分散分析(統計分析法の一つで、データの分散を変動の因子や個体間の誤差などの要因に分けて解析する方法)では「共変量」という。歩数や睡眠時間などはある程度コントロールできるので、制御変数とする。制御変数を分散分析の要因とするために、2値化する。歩数1万歩以上、睡眠時間8時間以上など閾値(しきいち、2値化のための境目となる値)を設定する。アルコールの閾値は大きな個体差がある。制御変数の閾値は各個人でYesとNoが半々になる程度が良いだろう。要因を10個記録するとしたら、その組み合わせは2の10乗、1024通りになる。同じパターンの日はほとんどない。

こういったデータを統計解析すると、共変量が全て平均値だとしたら、体重を下げる効果のある要因は何かといった分析ができる。共変量と体重に相関関係がある場合は、共変量が大きい場合に効果のある要因など、さらに詳細な検討が必要だろう。体重や共変量はその日の値だけではなく、前日や1週間前などからの変化量が重要な場合が多い。体重が増加傾向の時に有効な要因は何かといった分析になる。目標が一つでも、探索的な統計解析は大変だということを言いたかった。個人にぴったりなダイエットを探すのは難しい。実行するのはもっと難しい。

◆目標が二つの場合

格好良く、長生きもしたいとしたら……。Withingsの体組成計では、脈波伝播(でんぱ)速度という動脈硬化に関連したデータも取得できるモデルがある。目標が二つの場合は、探索的解析はあきらめて、とりあえず仮説を作って検証してみよう。一日に1万歩以上を週に5日以上歩けば、翌週の体重は減少し、脈波伝播速度も遅くなると仮定する。日曜日にサイコロを振って、その週の歩数を多い週と少ない週に無作為に割り付ける。20週間ほど試験を繰り返して統計解析すれば、一つの要因に関する仮説を検証することができる。

季節による変動を考慮に入れる必要があるかもしれない。良い要因を二つ組み合わせると、必ずしも良いかどうかわからないので、また試験をしてみる必要がある。仮説が統計的な意味で検証されたとしても、ある特定の条件下での結論に過ぎない。個体差の問題以前に、試験条件として他人の結果を単純に信用するわけにはいかない。仮説検定の方法も検証に時間がかかり、大変だ。

◆ビッグデータを活用しよう

Withingsの体重計はIoT(Internet of Things、あらゆるものをインターネットにつなげる技術)の代表例のようなもので、Wi-Fiでリアルタイムにデータを集積する。体重計に今日の天気が表示されるのは、インターネット接続されている自己主張のようなものだ。国産の体重計でも、パソコンやスマートフォンにデータを取り込める機種はあるけれども、Wi-Fiで常時接続されているのはWithingsだけだった。この小さな違いが、いずれ大きな変化となる。

現在の体重計はデータを仲間と共有する機能はあっても、AI(人工知能)の自動学習機能までは進化していない。体重計を買う人は、格好良く長生きすることを願っている場合が多いだろう。しかしその人はがん患者かもしれないし、認知症予備軍かもしれない。自分がどういう人達の仲間なのかわかれば、格好良く長生きする意味合いも明確になってくる。

データからグループ分けする場合、クラスター分析(データをある基準に基づいて集団〈クラスター〉に分けて解析する方法)などの統計手法が使えるけれども、ネットワーク解析の新しいチャレンジもありうる。インターネットのサーバーにデータを集積すれば、AIが自動的に仲間を探し出してデータ解析を行う。仲間が誰なのかということは問題ではない。自分のデータの解析に、多くの他人のデータを借用しているだけだ。

◆おしゃれなデータ

見知らぬ他人と体重計のデータを共有するのは気持ち悪いだろうか。街中を歩くとき、見知らぬ他人のファッションと自分自身を比べたりしないだろうか。誰もいないところで、おしゃれをしても仕方がないだろう。都会では、不特定多数の見知らぬ人たちとともに生きてゆく。

格好良いデータであれば自慢したいかもしれない。何が格好良いのかは人によって違うので、格好良いと思ってもらえる人たちの仲間が見つかるとよいだろう。おしゃれなデータは比較的小さな仲間を探すことから始まる。もちろん全てAIが行い、お互いは見知らぬ他人同士のままだ。

自慢するかどうかは別として、重要なのは、そういった小さな仲間のデータを使うと、自分のデータの予測性が飛躍的に良くなることを期待している。ビッグデータを有効利用するためには、表現型の個体差について、継続的に理解を深める必要がある。予測性が良くなれば、ごくわずかな試行錯誤で自分の目的に合った要因を探すことができるようになる。

◆体温計から体重計へ

病院に入院すると、毎日体温を測る。体温は人の健康状態を測定するバイタルサインの基本となっている。病院では院内感染というリスクもあるので、毎日体温を測る。家庭で毎日体温を測る人は、妊娠したい女性は別問題として、毎日体重を測る人より少ないだろう。

体重計には体組成率や脈波伝播速度も測れる機種がある。体重計で体温も測れたら素晴らしい。平衡感覚や、体のゆがみを数値化する可能性もあるだろう。そういった体重計をWi-Fiでインターネットに接続する。スマートフォンが無い場合は、体重計に電話の機能をつけてしまえばよい。体重計は天気予報も表示するし、正確な時計やアラームにもなる。全ての家庭で体重計が健康管理のアドバイザーとなるとき、どの程度の医療費抑制効果があるのか計算してみたいものだ。

健康管理のアドバイザーとしては、東洋医学のほうが西洋医学よりも実績がある。体重計に東洋医学のテイストを加えて(デザインだけではなく、医食同源などアドバイスの内容も)、フランスのWithingsと競争してみたいものだ。日本の体重計が全世界の人々をつなぐことを夢見ている。
実際につながるのは無名の小さな仲間達で、AIしか知らないつながりであったとしても。AI技術は

人々の小さな欲望から試したらよいと思う。軍事技術や自動運転が先行しているけれども、どんなに裕福な人でも、最後は小さな欲望で満足できるのだから。

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