特許による独占は社会正義に反する!?
『知的財産:この財産価値不明な代物』第11回

7月 25日 2017年 経済

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森下賢樹(もりした・さかき)

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プライムワークス国際特許事務所代表弁理士。パナソニック勤務の後、シンクタンクで情報科学の世界的な学者の発明を産業化。弁理士業の傍ら、100%植物由来の樹脂ベンチャー、ラストメッセージ配信のITベンチャーなどを並行して推進。「地球と人にやさしさを」が仕事のテーマ。

◆アップルの“逆ギレ”

米半導体大手のクアルコムの4~6月期の純利益は8億6600万ドル(約969億円)と前年同期比40%減でした。特許収入部門の売上高は42%減の約12億ドルで、この大幅な落ち込みが主因です。半導体の供給先であるアップル(正確にはアップルの製造委託先)が特許料の支払いを凍結したためです。

今年1月、アップルが「クアルコムの特許料が不当に高い」として米連邦地裁に提訴しました。これを受け、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業などアップルの製造委託先4社がクアルコムへの特許料の支払いを停止しました。

5月、クアルコムがこれら4社に対し特許料の支払いを求めて連邦地裁に提訴したところ、7月18日、4社がクアルコムを反トラスト法違反で逆提訴し、訴訟合戦の様相を呈してきています。

そもそも、アップルの提訴は1月に米連邦取引委員会(FTC)がクアルコムを反トラスト法違反の疑いで連邦地裁に訴えたことがきっかけになっています。アップルは6月、以下の声明を出しています(筆者が要約)。

「クアルコムの非合法なやり方はアップルと業界全体に有害だ。同社は当社にただひとつの部品を供給しているだけなのに、何年も当社製品の総コストに対する一定率のライセンス料を要求している。当社は知的財産の価値を深く信じるが、当社の技術に関係のない部分までクアルコムに支払いをするいわれはない。」

◆反トラスト法(antitrust law)

米国の法律で、自由競争を損なう行為を禁止します。日本の独占禁止法(正確には「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」)に当たります。立法趣旨は大筋同じで、とくに独占や独占的な地位を利用した取引などを禁止します。

「独占的な地位を利用した……」の例は、入手困難な超人気ソフトを売るとき、不人気ソフトもあわせて買わせる行為(抱き合わせ販売)です。

これって、パワハラですよね。

自由競争が健全な経済発展の原動力であることは、少なくとも資本主義の世界では普遍的な事実です。反トラスト法や独占禁止法はとても大事な法律と言えます。

◆特許はそもそも独占のためでは?

アップルはクアルコムの特許を利用するほかありません。利用しないで回避できるくらいなら、そもそも回避しています。なので、アップルからすると、クアルコムはその独占的な地位を利用して不当な要求をしている、ということになります。

しかし……、

特許とはそういうものではないでしょうか。独占するためにがんばって発明し、コストをかけて取得するのです。その戦略が最高に機能したとき、クアルコムのような強靱(きょうじん)な特許をもつことになり、本当は褒めたたえられるべき事例なのです。日本の独占禁止法の第21条にも、

「この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。」

と明言されていて、要するに、特許権を使う場合はこの法律は関与しませんよ、
と言っています。特許は独占のためのツールですから……。

(蛇足ながら、弁理士の私はこの条文を読むたびに、「よかった、犯罪に加担していない」などと、妙な感慨にふけります。まあ、私が加担しているぐらいなら、そもそもエジソンは……。)

◆契約自由の原則

さらに米国では「freedom of contract」(契約の自由)という原則があります。本人たちが合意しさえすれば、何をどう決めてもよく、外部(例えば政府)から干渉されるべきではない、という慣行です。日本では「契約自由の原則」と言います。

この原則から言えば、アップルが「不当に高い」と怒る契約内容だって、そもそもはアップルが当事者として決めたわけであり、いまさら国家に救済を求めるのはどうなの、という話になります。

◆もういちど、反トラストという考え方

法律家というのは、どこまでいっても両側のバランスをとる人種です。

─ 特許権の行使は誰にも憚(はばか)る必要はない。

─ 契約は本人たちの勝手、国はあずかり知らぬ。

と原則論を立てながら、それだとパワハラもあるな、と気づくわけです。相手が強すぎると、ときとして、本人はしかたなくサインする契約も、現実には存在します。芸能事務所と所属タレントの間では、この手のトラブルもよく起きていました。

今回、クアルコムとアップルの関係が、「パワハラ芸能事務所」と「所属タレント」のような関係と見なされるかどうか。とても不正確な言い方ですが、イメージではそう理解するとわかりやすいかもしれません。

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