北朝鮮を笑えるか? 日朝平壌宣言に戻れ
『山田厚史の地球は丸くない』第100回

8月 18日 2017年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

北朝鮮を巡るニュースがメディアを賑(にぎ)わしている。核を搭載できるミサイル「火星12」を米軍基地のあるグアム島近くの海域に打ち込むという。発射準備を整え金正恩朝鮮労働党委員長は「米国が先に正しい選択をして行動で見せなければならない」と、米韓合同の演習の中止を求めた。

◆戦時中の日本と似ていないか

北朝鮮の国営放送では、婦人団体会長みたいなおばさんがテレビカメラの前で「アメリカと一戦交えてみたい。包丁を持ってでも戦う」と勇ましく語っている。近隣にこんな国があるのは困ったものだが、テレビの画面を見ていた叔父が
「君ら、笑っているが、私が子供の頃の日本は、これとちっとも変りなかった」
ポツリと言った。叔父は私より12歳年上の昭和11年(1936年)生まれ。9歳で終戦を迎えた。

「天皇陛下万歳」「一億火の玉」「鬼畜米英をやっつけろ」。勇ましいスローガンが今も耳に残っている、という。

8月になると、戦争を振り返るドキュメンタリーや連載記事がメディアを賑わす。何と愚かなことをしたのか。原爆や焼夷弾を落とした戦勝国米国も褒められたものではない。国家は暴走する。戦争へと動き出したら止まらない。悲惨な目に合うのは庶民だ。

戦争の記憶と反省を、忘れてはならない、と記者やディレクターが渾身(こんしん)の思いを込めて力作を提供する。だが、あの時の日本と今の我々は、全く違った人間なのだろうか。

米国は何を学びどんな反省をしたのか。今の北朝鮮は当時の日本と似ていないか。歴史の教訓と現実を結びつけることを私たちはしているだろうか。テレビの映像を見ながら考えさせられた。

あの頃の日本人は、軍部も政治家もメディアも、愚かだった。今の北朝鮮は指導者が狂っている――。それで済ましていないだろうか。

真珠湾攻撃に突入する一連の経過を見ると日本は無謀な戦争へと追い込まれたように思える。包囲網と外交圧力に耐えきれず、日本は勝ち目のない戦争に突入した。弱い者ほど勇ましいことを言い、言葉が自らを縛り退路を断ってしまう。それが太平洋戦争だった。

今の北朝鮮はあの時の日本と同じではないか。国力で数百倍の米国を敵に回して精いっぱいの虚勢を張っている。

日本は政府もメディアも北朝鮮に冷淡だ。拉致問題を起こしたり、要人を他国で暗殺したり、国際秩序を無視して核開発する。嫌われることばかり。孤立するのは当然、自業自得と世界は見ている。

いまや「ならず者国家」と見ている北朝鮮だが、かつての日本も米欧から見れば「ならず者国家」ではなかったか。好き好んで「ならず者国家」になる国はない。

◆「北」を追い込んだ責任

アメリカでトランプ大統領の「人種差別意識」が問題になっている。「白人至上主義」という言葉がメディアを賑わす。そんな中、オバマ大統領は「人は生まれながら肌の色で差別するようなことはしない」とネルソン・マンデラ氏の言葉をツイッターで紹介した。

生まれながらのならず者はいない。社会の差別や世界の仕組みが、ならず者やならず者国を生む。国民は食うのに困っているのに核やミサイルにカネを投じ、世界を威嚇(いかく)する。「愚かな行為」だが、そこまで彼らを追い込んだ責任は日本やアメリカにないのだろうか。

国家の凶暴性は日本にもアメリカにも欧州にも中国・ロシアにも潜んでいる。第2次大戦以降の世界情勢が、朝鮮半島北部にある小国の凶暴性を炙(あぶ)り出した。

同盟国だった中国・旧ソ連に見放され、米国からいつ攻撃されるか心配している。「北」は孤立し、猜疑心(さいぎしん)に満ちた「引きこもり国家」になった。

事の起こりは日本の植民地統治だ。1910年、武力を背後に朝鮮を併合した。民族の誇りは傷つき、日本の敗戦で独立へと動いたが、今度は冷戦に巻き込まれた。

半島北部はソ連、南は米国が支配。それぞれ政府が樹立され、分断国家として歩みだす。終戦から5年で朝鮮戦争が起きた。同胞が南北に分かれ、血で血を洗い、全土が戦場となった。南は米軍の支援で巻き返し、北は中国の応援を得て押し戻す。北緯38度線で停戦協定が結ばれ、以後、南北は一触即発の危うさを秘めながらにらみ合う。

北はソ連・中国を後ろ盾に米国と対峙したが、中ソは不仲になる。北は「自主独立路線」で大国の干渉を逃れた。やがてソ連が崩壊し、中国は市場経済に邁進。北だけが異質な国となって時代から取り残された。

経済は国際競争が絶えない。停戦しているが臨戦態勢は解けず、軍事力だけを頼りに我が道を進み、核にすがる危険な国になってしまった。

大国に武力で排除されることを心配する。イラクに侵攻してサダム・フセインを殺害した米軍が怖い。「攻撃しない」と米国に約束させたい。軍事的挑発を繰り返すのは「こっちを向いてくれ」という必死のサインだろう。

オバマの米国は、そのサインを無視してきた。北が危険な国であっても米国に危害は及ばない。中東やアフガンなど優先度の高い案件が先だ。東北アジアのならず者に関わっているヒマはない。

核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)がアメリカの態度を変えた。「米国を射程にいれた核ミサイル」で北朝鮮を脅威と認識した。

◆解決は「話し合い」しかない

ここまで事態をこじらせた責任は米国にもある。日本は2002年9月、小泉純一郎首相が平壌に飛び、金正日総書記(当時)と日朝平壌宣言を交わし、国交回復・平和条約への道筋を付けた。北朝鮮を国際社会に引き出す好機だったが、日本主導の融和政策に米国が難色を示した。国内でも拉致問題を重視する安倍晋三首相がブレーキになり宣言は宙に浮き、北朝鮮は核開発へと突き進んだ。

歴史に「もしも……」はないが、あの時米国と一緒になって北を国際社会に引き出していたら、今日の混乱はなかったかもしれない。

米国は一撃で北朝鮮を破壊する力を持っている。臨戦態勢の北は38度線沿いに無数の火器を配置し、戦争になれば50キロしか離れていないソウルは火の海になる。

米国は1994年、北朝鮮の核施設攻撃を想定した作戦を検討したことがある。原子力施設の破壊は簡単だが、反撃を受ければ全面戦争に発展する恐れがあり、在韓米軍もシミュレーションで「最初の90日で死傷者は米軍5万2千人、韓国軍49万人、民間人含む死者は100万人」という結果が出た。

武力行使はできない、ということだ。戦端が切られれば、米軍基地のある日本も深刻な事態になる。

口で脅すことも交渉の一部だろうが、解決は「話し合い」しかない。

朝鮮半島には民衆の間に憎しみの連鎖や宗教・民族の対立などない。政権上層部を権力から切り離せばいい。そのための妥協をどうするか、は知恵の絞りどころだ。

「引きこもり」を脅すだけでは危機は深まるばかり。15年前の日朝平壌宣言に立ち戻る時だ。どこかの国が動くしかない。

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