北朝鮮を「正しく恐れる」には
『山田厚史の地球は丸くない』第101回

8月 31日 2017年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

「武力攻撃が迫り、又は現に武力攻撃が発生したと認められる地域に当該市町村が含まれる場合には、原則としてサイレンを使用して注意喚起が図られることとなっています」

内閣官房が設けたホームページに、そう書かれていた。「サイレン音の再生」という表記がある。クリックしてみた。

突然、ジェットエンジンの唸(うな)りみたいな鈍い金属音。音程は次第に上がり、やがて尻すぼみになり14秒間つづいた。

◆「北朝鮮はコワい国」を刷り込む警報

8月29日の朝、北海道や青森の街に、この警報が鳴り響いた。

Jアラート。「全国瞬時警報システム」という現代の空襲警報である。

サイレンが鳴ると爆弾が落ちて来る。差し迫った危機を知らせるのが空襲警報だった。

Jアラートは「武力攻撃が迫り、発生したと認められる地域」に発せられる。鳴ったということは「武力攻撃があった」ということだ。果たしてそうだろうか。

29日午前5時58分、北朝鮮の平壌空港近くから発射された火星12号は、6時14分、襟裳(えりも)岬東方約1100キロの太平洋に落下した。日本通過は高度5500キロの大気圏外を数分だけ。爆薬は装てんされていない。飛翔体が、航空機が飛び交う高度のはるか50倍上空を横切った程度のことだ。

「武力攻撃あり」と警報を鳴らし、人々を驚かせ、新幹線を止めたり、NHKの朝の連続ドラマを中止したりするほどのことだろうか。

Jアラートが発動されるようになったのは2年前だ。ミサイル警戒システムの進化で米国の軍事衛星が発射を探知するようになった。それを日本への武力攻撃とむすびつけて警報を鳴らすことが妥当なのか。

政府が警報システムを作れば、自治体も対応を迫られる。対応は避難である。小学校や役場など公共機関は、避難計画を作る。差し迫った危機を感じていないのに、「もしものことが起こった時はどうする」という殺し文句に勝てない。皆がやっていることだからと、事なかれ主義の対応が日本列島各地で展開されている。

「物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭を護(まも)ってください」と政府は呼びかける。異様ではないか。大気圏の上を通り越したあとになって避難訓練さながらに、手順通りに演じて見せる従順さ。警報が発せられたのは12道県618市町村。本当にこれほどの広域が武力攻撃の危険に晒(さら)されていたのか。

北朝鮮は、これからも太平洋に向けて試射を繰り返すという。そのたびにJアラートが鳴り、右往左往すればいいのか。警報は「北朝鮮はコワい国」という思いを、日常生活を通じて人々の刷り込む狙いかもしれない。

◆「イージス・アショア」導入に向けた口実

政権に向かう憤懣(ふんまん)を外敵に向ける、という手法は古今東西の為政者が好む手段である。

Jアラートの次は、ミサイル防衛の強化だろう。差し迫った脅威に「物陰に身を隠すだけでいいのか」という声が上がる。飛んで来ても大丈夫な体制をとるのが政府の責任だと。

小野寺五典防衛大臣は「万全を期す」と、陸上配備型の米国製迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入に向け予算措置を取るという。

イージス艦に搭載されているシステムを陸地に持ってくるようなもので、1基800億円という。それを複数基備えるらしい。オスプレイもそうだったが、兵器は機材の他にメンテナンスや部品を含めると倍の値段になることが多い。数千億円の買い物になるが「北朝鮮の脅威に備える」と言えば、通りやすい。

小野寺防衛相は就任直後、ワシントンで行われた日米外務防衛相会合(2+2会合)で米側に対し「イージス・アショアの購入」を表明している。

導入すれば万全か、といえばこれまた怪しい。2基あれば日本をカバーできる、とされているが、一度に何発も飛んでくれば落とせない。演習ならともかく、戦争になったらどこまで役に立つか分からない、というのがこの手に兵器である。

グアムが狙われた「火星12号」でミサイル問題が騒然となったが、それはアメリカが射程に入ったからだ。日本は1998年のテポドン発射から、北朝鮮の射程に入っている。今さらの話ではない。

戦争になったら防ぎようがないのが現実だ。兵器で守るには限界があり、費用は際限なく膨らむ。喜ぶのは兵器産業だけだろう。

防衛問題になると、軍事的な観点から安全保障が議論されがちだが、矛と盾のイタチごっこに血税を費やすのは愚かなことだ。国家予算は日々の暮らしのために使うもので、教育予算や医療・介護・年金などを犠牲にするわけにはいかない。戦争に使う兵器を買う金があったら、若者の支援や心配ない社会保障に投じたほうがいいに決まっている。

戦争になれば多くの人が死ぬ。だから敵を作らない外交に努力するしかない。解決は話し合いしかない。そういうと「楽観過ぎる。対話に応ずる相手ではない」という反応があちこちから上がる、懲らしめれば従う相手なのだろうか。こちらが無傷で相手を懲らしめることが出来るのか。

対話に応ずる相手ではない、というが、金正恩(キム・ジョンウン)に会って話をした日本人はいない。この人がどんなことを考えているか、知っている人は日本にいないだろう。

直接本人に会えなくても、北朝鮮の政府がなにをどう考えているか、知りうる関係を作ることを本気で考えることが必要だと思う。

◆日米で違う対北朝鮮・対中国関係

私は、金一族の生命を保証して中国のどこかで余生を過ごせるようにしてあげることが一番の解決策だと思っている。そこに落とす方策や手順を皆で考えるのが世界平和につながる。

情報が全く入らず、米国の情報を頼りに、言われるままに兵器を揃(そろ)え、買い取り費用はアメリカとの交際費。そんな政府で大丈夫だろうか。

北朝鮮との関係は、日本とアメリカでは違う。対中国も同様だ。

トランプ政権で米国は滅茶苦茶に見えるが、対中関係に変化が出ている。

キッシンジャー(元米国務長官)が間に入り、米中が密かに話し合っているという。在韓米軍の撤退と中国の北朝鮮関与拡大が検討されているらしい。トランプの娘婿であるクシュナー氏が訪中するのは、その下準備と観測されている。

中国が北朝鮮の現状維持にこだわってきたのは、北が崩壊したら在韓米軍と人民解放軍が直接にらみ合うことになるからだといわれてきた。中国は緩衝地帯を必要とした。韓国に米軍がいるからだ。韓国から引けば、半島状況は一変する。自国中心主義を掲げるアメリカは、アジアから撤退することも視野にあるだろう。

そうなれば中国と北朝鮮の関係も変わる。その時、日本はどう動けばいいのか。それもアメリカにお伺いを立てるのか。

「イージス・アショア」が日本の設置されるころ、朝鮮半島はどうなっているのだろう。

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