п»ї 人口の半分が野外排泄を行うインドの悩み『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第7回 | ニュース屋台村

人口の半分が野外排泄を行うインドの悩み
『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第7回

9月 05日 2014年 文化

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SurroundedByDike(サラウンディッド・バイ・ダイク)

勤務、研修を含め米英滞在17年におよぶ帰国子女ならぬ帰国団塊ど真ん中。銀行定年退職後、外資系法務、広報を経て現在証券会社で英文広報、社員の英語研修を手伝う。休日はせめて足腰だけはと、ジム通いと丹沢、奥多摩の低山登山を心掛ける。

「インドの劣悪な衛生環境が食に恵まれている子供たちを栄養不良で苦しめている恐れ」(Poor Sanitation in India May Afflict Well-Fed Children With Malnutrition, The New York Times, Asia Pacific 米ニューヨークタイムズ紙2014年7月13日付アジア太平洋版)

これまでに比べ豊かさが充足している21世紀においても、世界を見渡せば保健衛生の水準がいまだ満たされていない地域があること、そしてその理由がある種特別な事情によることを絵に描いたような実例をもって明快に説く記事である。

その内容を以下に要約する。単に事実を伝えるというよりも、まずは興味を引き付けるため、工夫を凝らした書き出しからスタートする欧米紙の常套(じょうとう)手段である。

◆史上最も多くの国民が排泄物にさらされている現実

インドは北西部シェオハール地域(Sheohar District)、泥の家と小柄な住民の多い地域に住む小さな1歳男児のヴィーヴェク (Vivek) ちゃんは目に悪霊除けの濃い黒の縁取りを塗ってもらっている。にもかかわらず彼はインド固有の深刻な苦難である栄養失調の犠牲になっている。これまで長く続いた好況にもかかわらず、インドではなぜ数多くの子供たちがのちに生涯にわたって苛(さいな)まれる知的障害や肉体欠陥につながる栄養失調、発育不全の状況が一向に改善されないのか?

村の他の家庭同様彼の家にはトイレがなく、人口密集地域であるにもかかわらず野外排泄(はいせつ)を迫られている。このため幼児たちは食事で得られるエネルギーを体と脳の成長に配分される前に感染防止のために費やされてしまうのである。

これまで世界保健機関(WHO)などの国際機関も子供の栄養不良を論じる際には、食料不足を焦点に調査を進めてきた。衛生水準にはさしたる注意を払うことがなかった。

意外なことにインドで育つ幼児たちはコンゴ共和国、ジンバブエあるいはソマリアなど地球上の最貧国の子供たちよりも栄養不良に陥る可能性がはるかに高いという。6500万人もの5歳以下の幼児が発育阻害症に苦しんでいるが、そのうちの3分の1はインド国内のもっとも豊かな階層の家庭の子供たちである。

インドの6億2千万の人口の半分が野外排泄を行うという。人口に対しそれをなす人の比率は過去10年で減少しているが、絶対人口が急増するなか史上最も多くの国民が排泄物にさらされている。

インド公衆衛生基金(Public Foundation of India)によると、同国における発育阻害は人類史上いかなる国が経験したよりも甚大な経済産出可能性の喪失をもたらしている。世界中でエイズが与えている被害の実に20倍もの損害をインド一国が被っている。 

野外排泄は今に始まった問題ではない。古代のヒンドゥー教教義も人々に自宅からなるべく離れた場所に排泄するよう説いている。(「インド独立の父」といわれるマハトマ・)ガンディー氏も1925年にインドの多くの病気がトイレの不備と所構わず排泄する習慣のせいであると啓蒙している。

しかし、トイレの普及と並んで重要なのが衛生への意識変革という。最近の調査によっても多くの人々がまだ野外で用を足すことを好み、膨大な数のトイレを設置、維持するために巨額な費用を負担することは選挙民として受け入れないという。

インドではムスリムに対する差別が広く浸透している。一般的にインドのイスラム教徒はヒンドゥー教徒と比較すると貧しく、教育の水準も低い。ムスリムの人々は居住地域もヒンドゥーのコミュニティーから遠ざけられている。皮肉なことだが、ヒンドゥーの人々の排泄物からも遠ざけられているおかげで、ムスリム地域の乳幼児の生存率はヒンドゥーの地域と比べて17%上回っている。

かつて似たような状況下にあった国々では急速に改善している。中国で野外排泄をする人々の比率はインドの半数に対し、わずかに1%、バングラデシュでも3%である。先進西側諸国では衛生環境が19世紀から20世紀初めにかけて改善された結果、ワクチンと抗生物質の出現よりずいぶん前に顕著に人々の健康改善を果たしている。

最近の子供の腸に関する研究では、頻繁な細菌感染を受けると、腸は扁平(へんぺい)な形状になり正常な腸に比べ栄養摂取能力が3分の1損なわれるとともに、消化に必要なバクテリアをも欠くことになる。

何百万人もの巡礼者が、聖なるガンジスで沐浴(もくよく)する。一方で毎日7500万リットルもの排泄物が注ぎ込まれる。多くの信徒が川への下水排水口の近くで口をゆすぐ。市街地域では、川から大量に飲料として取水されている。

インドのこの問題には、単に野外排便の習慣とトイレ不足というより大きなものがある。“

◆真の生活水準向上とは何か

さて、この記事の意味するところであるが、宗教の弊害云々(うんぬん)という少し面倒なことは置くとして、少なくとも経済発展を人々の真の生活水準向上に結びつけるには意外な見落としがあることを示唆していると考えられる。また、けがれたものを自分から遠ざけるという一見自然な知恵が回りまわって自らの首を絞めていることであろうか。

※今回紹介した英文記事へのリンク
http://www.nytimes.com/2014/07/15/world/asia/poor-sanitation-in-india-may-afflict-well-fed-children-with-malnutrition.html?_r=0

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