п»ї 高まる想定外の税務リスク『東南アジアの座標軸』第6回 | ニュース屋台村

高まる想定外の税務リスク
『東南アジアの座標軸』第6回

3月 06日 2015年 国際

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宮本昭洋(みやもと・あきひろ)

りそな総合研究所など日本企業3社の顧問。インドネシアのコンサルティングファームの顧問も務め、ジャカルタと日本を行き来。1978年りそな銀行(旧大和銀)入行。87年から4年半、シンガポールに勤務。東南アジア全域の営業を担当。2004年から14年まで、りそなプルダニア銀行(本店ジャカルタ)の社長を務める。

◆取れるところから取る慣行が横行

 インドネシアの2015年度補正予算が2月13日の国会本会議で可決、成立しました。なかでも注目すべきは税収目標です。2014年の経済成長率が5.02%と13年の5.78%からかなり減速しているなかで税収目標を1489兆3千億ルピア(約14兆円)と、当初予算の1380兆ルピアから大幅に引き上げました。その内訳は、所得税679兆4千億ルピア、付加価値税(VAT)・ぜいたく税576兆5千億ルピアなどです。

他方、資源関係からの税外収入は269兆1千ルピアとなり、当初予算の410兆3千ルピアから減額しています。昨年度は税収目標1072兆ルピアに対して徴収率は85%と目標を達成していません。インフラ整備、社会保障拡充のため歳入の80%近くを占める税収増加を目指すジョコ・ウィドド大統領は、所管する財務省に対して税収目標の引き上げとその達成を厳しく指示していますから、税務当局の徴税(税務否認)は一層強化されます。

新興国に進出する企業には諸々のリスクはつきものですが、なかでも最大のリスクに挙げられるのは税務リスクです。インドネシアでは外国企業が常に優良納税法人となり、逆に多くの現地企業や富裕層は法人税や所得税の支払いを免れています。

この国には「納税者番号制度」があり、法人企業では約200万社。個人登録番号数は3千万人程度とされています。総人口2億4千万人のうち労働人口は約1億2千万人で、うち約70%はインフォーマルセクター(非正規雇用など)に属しており、共働き世帯は夫婦で納税番号が同じです。推計では、実際に納税申告により正直に税金を払っている個人は3千万人のうち500万人程度と2%に満たないとされています。

このような状況ですから、税収目標達成のために税務当局は、取れるところから取るといった傾向をますます強めています。外国進出企業のなかでも特に2輪、4輪および建機などの製造業分野でプレゼンスが高い日本企業ですが、サプライヤーから完成車メーカーまで多くの企業で税務リスクが日常的に顕在化してきています。

◆国権駆使して徴税強化に乗り出す税務当局

インドネシアで税務の係争になる事案は、移転価格税、輸入材に対する付加価値税(VAT)、ロイヤリティーなどの税務否認が中心ですが、係争を解決するプロセスとして税務当局が認定する税金扱いに不服がある場合に、納税者は異議を申し立てます。

しかしこの段階では、ほとんどのケースにおいて認定は覆りません。そこで税務裁判所に控訴して白黒をつけます。これまでは、税務裁判所で納税者側が勝訴となれば、仮に税務当局が最高裁に上告しても税務裁判所での判決を踏襲するため、勝訴判決が確定判決と解釈できました。

ところが最近では、最高裁で判決が覆される事例が出てきています。また、税務裁判所での審理過程において税務当局が汚職撲滅委員会(KPK)の幹部を同伴させて裁判に臨み、裁判官に無言の圧力をかけるケースも出てきているようです。

このように、税務当局が国権を駆使してあらゆる手段を講じて徴税強化に乗り出せば、外国企業にとってはルピア安、労務費、物流費の高騰などで悪化する一途の経営環境に加え、想定外の大きな税務リスクにさらされます。

また、報道によれば、財務省は国税通則法を年内に改正して税務裁判所に控訴される事案に対しては、まず納税認定額の50%の支払いを義務付ける方向です。要は税務裁判へ持ち込む納税者側のモチベーションを削ごうとしているのです。

この辺りにも、徴税強化に向けた政府のなりふり構わない姿勢が読み取れます。地場企業や富裕層による脱税や税務職員への収賄により税金逃れが横行しているため、徴税率が名目国内総生産(GDP)対比で12%以下と東南アジア諸国のシンガポール、マレーシア、タイ、フィリピンに比べてもかなり低い現状をしっかりと把握して、欠陥だらけの国の徴税システムを抜本的に見直す改革が求められています。

政府は、来年から税務局を大統領直属の独立機関に格上げし、同時に税務職員に対して給与や賞与面で厚遇して目標を達成させる計画です。しかし、高い税務目標をクリアするため、税務現場ではこれまで以上にあらゆる手段を動員して税金を取りやすい日本企業含む外国企業に矛先を向ける現状は変わりません。

もっとも、最近では税務当局も外国企業からの税金取り立ては限界に来ていると認識し、地場の大手コングロマリットや富裕層も標的にしているようですが、これら企業や富裕層は政治カを駆使して圧力をかわしてきています。

税務当局が来月から施行を予定していた、国内銀行から大口預金者リストや預金金利の源泉税徴収状況の開示を求める新規制も、銀行界から大口預金者の資金が流出するとの陳情により延期されました。

◆与党連合に操縦されている大統領

2014年の国際協力銀行による有望事業展開国の調査結果では、インドネシアはインドに次ぐ2番目にランクインしています。2013年は1位にランクされていました。税務当局にとっては外国企業の進出は納税法人数が増加するため歓迎ですが、法治国家として著しく品性を欠く税務否認や税務取り立てを根本から改めない限り、今年末に発足するアセアン経済共同体(AEC)の中軸国として指導的役割を期待されながらも、掛け声倒れの「未完の大器」で終わる可能性があります。

ジョコ大統領は今回、国家警察長官を巡る人事で自らの支援政党・闘争民主党の圧力を受けてその指導力を発揮できなかった結果、汚職撲滅委員会(KPK)と国家警察の組織対立の引き金を引きました。最終的に当初の候補を撤回して幕引きを図りますが、国民の目には与党連合に操縦されている大統領の姿が浮き彫りとなり、早くもレームダック化が懸念されています。

大統領の改革への指導力に疑問符がつけば、政治的圧力を受け税務システムの抜本的改革もできず、政治力を駆使する地場コングロマリットにメスが入らず、現場では税務目標達成に向けて取り易いところから取るという悪癖は一向に解消されません。インドネシアは有望な事業投資国で評価の高い国とされながら、進出する外国企業にとって想定外の税務リスクがますます増大する国になりかねません。
                              

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