п»ї MMTを考える(その2) 『視点を磨き、視野を広げる』第47回 | ニュース屋台村

MMTを考える(その2)
『視点を磨き、視野を広げる』第47回

12月 01日 2020年 経済

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古川弘介(ふるかわ・こうすけ)

海外勤務が長く、日本を外から眺めることが多かった。帰国後、日本の社会をより深く知りたいと思い読書会を続けている。最近常勤の仕事から離れ、オープン・カレッジに通い始めた。

はじめに

MMT(Modern Monetary Theory)の2回目である。MMTは、現代金融理論、あるいは現代貨幣理論と訳され(*注1)、「主権国家における自国通貨建ての政府債務(国債)は債務不履行にならないので、デフレ対策のために財政赤字や債務残高は気にせず財政支出を積極的に行うべき」と主張する。前稿でみたように、ケインズ左派が唱えるMMTの理論は堅固であり、その貨幣解釈は主流派経済学と比べて説得力を持つ。しかし、たとえ原理的に正しいことであっても、あくまで経済における仮説にすぎず、そのまま現実の政策に直結させるのは慎重であるべきだろう。MMTが主張するように、債務残高を気にせず財政支出を拡大していって、想定外の事態に直面すれば財政危機を招き、経済のみならず社会に甚大な被害を与える可能性がある。現実の経済は不確実性に満ちており、仮説通りにいかないというのがケインズの教えだったのではないか。

実際、MMTには批判も多い。本稿では、前稿で検討したMMTの基本理論の要点を確認した上で、MMTに対する批判を検討して、何が問題かについて考えていきたい。前稿同様、中野剛志(*注2)の『富国と強兵』、『奇跡の経済教室――基礎知識編』、『奇跡の経済教室――戦略編』の3冊を参考にしている。

MMTの基本理論

・「国定信用貨幣論」

MMTにおける理論の中心は「国定信用貨幣論」にある。これは貨幣の本質は「信用―負債」関係にあるとする「信用貨幣論」と、貨幣の価値の源泉は国家権力にあるという「表券主義」を結合させた理論である。MMTはこの「国定信用貨幣論」からストレートに論理を展開して政策論を導いていくのが特徴だ。

MMTは、信用貨幣論において「内生的貨幣供給理論」に立つ。預金貨幣は銀行にとっては負債であるが、銀行実務をみると、貸し出しを実行することで預金が生まれる(創造される)ことが分かる(前稿参照)。銀行は顧客から預かった預金を原資として貸し出しをするというのが一般的な認識であるが、実際は逆なのである。したがって預金は貸し出しの制約要因ではなく、顧客の資金需要(銀行による与信リスク判断が前提)が制約要因だということになる。このように貨幣供給は資金需要によって内生的に決まるという考え方は「内生的貨幣供給理論」と呼ばれ、MMTではこの原理を銀行の政府に対する貸し出し(国債購入)にも当てはめて考えるのである。

以上から得られるMMTの特徴は下記

・貨幣は借用証書➡貨幣とは負債である

・預金貨幣は銀行の貸し出しによって生まれる➡銀行による預金貨幣の創造

・貨幣の供給は資金需要によって決まる➡内生的資金供給理論

・貨幣の価値の源泉は国家権力➡税金は国家が国民に強制的に課す負債

・国家が先に赤字財政支出を行うことで貨幣を供給し、後に徴税する➡貨幣として普及

・「内生的貨幣供給理論」

「内生的貨幣供給理論」の銀行による国債購入への応用は、政府、日本銀行、民間銀行の間の取引として以下のように説明される。同じ内容は前稿でも取り上げたが、重要なのでここに再掲する。

なお、念のため、日銀当座預金に関する基礎知識を整理しておきたい。

  • 銀行は日銀に当座預金を開設し、その勘定を通じて銀行間取引や政府(政府は日銀にだけ当座預金勘定を開設している)との取引を決済する
  • 銀行の日銀当座預金には法定準備金を積むことを義務付け――金融緩和による日銀の資金供給によって最低水準以上の残高(「超過準備」)が常態化(*注3)

<政府が国債を新規に発行して公共事業を行うケース>

①銀行が国債を購入→銀行保有の日銀当座預金は、政府の日銀当座預金に振り替えられる

②政府は公共事業の請負企業に政府小切手で代金を支払う

③企業は取引銀行に受け取った政府小切手の取り立てを依頼

④取り立て依頼された銀行は、相当金額を企業の口座に記帳し(新たな民間預金が生まれる)、同時に代金の取り立てを日銀に依頼する

⑤この結果、政府保有の日銀当座預金が、銀行の日銀当座預金勘定に振り替えられる

⑥銀行は戻ってきた日銀当座預金で再び国債を購入することができる

上記プロセスからMMTは下記の結論を導く

・銀行の国債購入の原資は民間預金ではない➡「国債をファイナンスしているのは民間預金」という説は否定される

・政府が財政支出を行うと新たな民間預金が生まれる➡「預金→国債購入」ではなく、逆に「国債購入→預金」が正しい理解

・銀行は日銀当座預金を通じて国債を購入するが、日銀当座預金は日銀が供給(*注4)したものである➡銀行による国債購入は、日銀が政府から直接国債を購入して当座預金を供給すること(日銀による政府への信用創造=「財政ファイナンス」)と実質的に同じ(なお、財政ファイナンスは法律で禁止)

・政府の負債である国債は、貨幣(負債)と同義

・政府が国債で借り入れて財政支出をすることで、民間の資産が増える➡政府部門の赤字(負債)は民間部門の黒字(資産)

なお、本書における①から⑥のプロセスの説明は、建部正義中央大学名誉教授の『国債問題と内生的貨幣供給理論』を参考にしたものだと注記されている。建部の同レポートを読むと、全く同じプロセスが解説されており、それは、銀行の資金証券部の実務書(*注5)にある資金フローの説明をベースにして作成されたものであることが分かる。このようにMMTにおける信用貨幣論は、銀行の実務から導かれたものであり、現実の経済の反映という点で説得力に富むものといえる。

MMTの財政理論

MMTは主流派経済学に基づく従来の財政論を否定する。MMTの「機能的財政論」の特徴は下記

・政府は経済全体の総需要を、財政支出と課税によって適正な水準に維持する➡財政政策主導(ケインズ経済学)

・税金は政府支出の財源ではない➡税金は物価調整のための手段

・政府による国債の売却は、中央銀行による金利の操作を助けるための政策手段(*注6)として用いられる➡金融政策の一部

財務省と財政健全化論

・財政健全化論

まず、通説となっている「財政健全化論」について整理しておきたい。財政健全化論の中心は財務省である。財務省は定期的に財政状況をレポートしており、その中で財政健全化の必要性を諄々(じゅんじゅん)と説いている。その立場の根本には「税財政運営の要諦は国民の受益と負担の均衡を図ること」、すなわち「財政均衡論」がある。これは主流派経済学(新古典派)の考え方に基づくものである。

しかし、日本の財政は赤字状態が続き債務残高/GDP(国内総生産)比率は先進国中最悪の水準に達している。そこで、均衡財政はすぐには無理として、政府はプライマリーバランス(基礎的財政収支、以下PB)の2025年度黒字化と債務残高対GDP比率の安定的な引き下げを目標としている(最近の試算では2029年度にずれ込む見込み)。PBとは、行政サービスを提供するための経費(政策的経費)を税収などで賄えているかどうかを示す指標である。これを黒字化するためには、財政運営において歳出を切り詰めるか増税する、あるいは両方が必要である。

財務省の唱える財政健全化論に対しては従来から反論があった。主なものとしては、まず、日本政府には資産が多く、債務から資産を差し引いた純債務でみると債務金額は大きく減少するとする「純債務論」がある。また、政府が発行した国債を(市中から)買っているのは日銀なので、政府と日銀を統合すれば、政府債務(国債)と日銀が保有する資産(国債)は相殺されるとする「統合政府論」がある。これらに対しては、財務省が反論している(*注7)。前者に対しては、実際の純債務残高/GDP比率の国際比較を行い、その基準でも世界最悪(89カ国中)であることを示している。また、政府と日銀のバランスシートを連結で見ても、国債は相殺されるが日銀の負債(銀行券と当座預金)が計上されるので、負債超過であることに変わりがないことを明らかにしている。

財務省はこのように、財政健全化論への反論に対して反証を挙げて対応してきた。しかし、財政赤字と国債の大量発行が続いても金利は上昇せず(むしろ低下している)、クラウディングアウト(民間の資金調達の圧迫)も起きない状態が続いていることは、弱みとなっている。これに関して財務省は、民間預金が国債をファイナンスしてきたことを金利が上がらない要因に挙げ、「しかし高齢化が一層進展すると、預金取り崩しが起きて国債をファイナンスできなくなり、金利が上昇する」と説明している。

・財務省のMMTに対する見解

MMTはそうした財務省の説明をことごとく否定する。すでに見たようにMMTの解釈は、財務省・主流派経済学のそれよりも、実際に起きている現象との整合性が高いと思われる。そこで、財務省はMMTをどう考えているのかを知るために、同省の『わが国財政の現状について』(2019年4月)というレポートを参照したい。財務省はその中でMMTを批判的に取り上げており、麻生財務大臣と黒田日銀総裁の国会答弁での発言を紹介する。まず麻生大臣は、海外の著名な専門家(*注8)がMMTに批判的な評価をしていることを根拠に、MMTに否定的な見解を示す。そして「(MMTは)財政規律を緩めるということで、これは極めて危険なことになり得る」とする。黒田総裁は「財政赤字や債務残高を考慮しないという考え方は極端な主張であり、なかなか受け入れられない」としている。MMTの問題点は、財政赤字や債務残高を考慮しない(財政規律がない)点にあると批判しているわけである。

ただし麻生大臣は、今年5月12日の記者会見(*注9)で、財政健全化に関する質問に対して「借金が増えて金利が上がらないというのは普通私達が習った経済学では(頭の中で)ついていかない。答えを言える人が多分日銀にもいないんだと思う。そこが問題だ。金利が上がるぞ、上がるぞと言ってオオカミ少年みたいなことをやっているわけだ」と発言している。正直な答えだと思う。従来の主流派経済学では十分に説明できない現象が起きているのである。

次に主流派経済学の見解を見ていこう。

主流派経済学からの批判

・財政健全論の第一人者の見解

主流派経済学者の中で財政健全論の第一人者として知られる2人の学者――小林慶一郎と小黒一正――のMMTに対する見解は、インフレ対策に焦点を当てる。小林慶一郎(東京財団政策研究所研究主幹)は、財政支出を増やす過程でインフレが起きそうになったときの対策に問題があり、インフレが制御できなくなるとする。なぜならMMTでは対策として増税や歳出削減をすれば良いというが、それには「とてつもないポリティカルコスト」がかかるからだとする。小黒一正(法政大学教授)も同様に、「MMTには財政の民主的統制の難しさに対する深い考察がない」と批判する。また、MMTの財政支出を積極的に活用する政策は、「日本のように失業率が低く、労働力不足が懸念される状況で本当に有効需要の原理が機能するのかの考察が必要だ」と指摘している。

主流派経済学から提起されているMMTの問題点は、MMTでインフレは制御できるのか、賢い財政支出は可能なのかの2点になるだろう。それに対するMMTからの反論を見ておきたい。

MMTからの反論

MMTはインフレを制御できるのか

中野は、政府の支出が無限に拡大すれば、総需要が総供給を上回ってハイパーインフレーションを引き起こすので財政規範が必要だとしている。しかしそれは、主流派経済学が主張する「民間預金」や「政府の返済能力」ではなく、「インフレ率(物価上昇率)」だとするのである。ではインフレが起きそうになったときにどのようにコントロールするのか。主流派経済学者が言うように、増税や歳出削減は政治的に容易ではない。これに対して中野は、「インフレを止めるのに政治的に難しい増税や歳出削減に頼る必要はない」という。理由として所得税や法人税には好景気になると税負担が重くなるという特徴があり、景気の過熱を抑制する「自動安定化装置」が内蔵されているとする。またインフレ率を例えば2〜4%程度になるまで財政赤字を拡大し、4%を超えれば財政赤字の拡大をやめれば良いとも言っている。過度なインフレの抑止を政策目標におけば十分と考えているようだ。

その背景として、先進国経済は、過去30年間の新自由主義的改革によってインフレが起きにくい経済構造に変化したことを指摘する。要因として①グローバル化の進展で海外から安い製品が輸入されたり、外国人労働者が流入したりして賃金が上昇しにくくなった②IT(情報技術)、AI(人工知能)の発達と普及によって少数の高度技能者と大多数の下層労働者に二極化しつつある③金融部門の肥大化で投資家の力が強くなり、労働分配率が低下した結果、政策マネーを増やしても実体経済、とりわけ労働者に回らなくなっている――などを挙げる。中野は、こうした動きの背景に、規制緩和や自由化、グローバル化を進め、緊縮財政を求める新自由主義思想の浸透があるとする。その結果、賃金が上がらなくなり、デフレ傾向が続き、格差は拡大する。そうした新自由主義的な動きに対抗して、民主社会主義を目指すべきだというのが、中野の主張の根底にあり、MMTはそのための武器として使っているようにもみえる。

さて、インフレ抑制の話に戻せば、MMTは将来的な経済環境の変化によってインフレ傾向が出てきたときに、本当に機動的に対応できるかという不安が残るのも事実だ。例えば不況とインフレが同時に起きるスタグフレーションの時は安定化装置が機能しないし、物価はあっという間に上がってしまうので政策変更のタイミングが難しいのではないかという疑問が湧く。実際に、1970年代の日本はオイルショックによる景気後退と原材料価格の上昇(原油輸入価格が突然約3倍に上昇)によってスタグフレーションに苦しんだ。

中野は、財政削減や増税が必要になったときでも「ストイックな国民なのでインフレになったときに財政削減や増税決断ができないはずはない」という。しかし、これは紆余(うよ)曲折をへてようやく実現した消費税増税の経験から納得性に欠けると言わざるを得ない。また、現在の主流派経済学の考えでは、インフレ対策は、日銀が判断して金利を上げることで抑制する。日銀には経験値が蓄積されている。一方、デフレ対策は、反対に金利を下げるという手法が基本だが、日銀だけでは限界がある。これに対しMMTにおいては、財政政策主導で対応することになるが、デフレ対策としては良くても、インフレ対策においては機動性に欠けるという欠点があると思われる。

・「賢い支出」は可能か

「賢い支出」とは、財政支出を行う際は、将来的に利益を生み出す事業に選択的に行うべきだという考え方である。中野は、公共事業(防災)、教育投資、国防などを挙げているが、経済成長にも寄与し、将来世代に恩恵が及ぶ対象の選別をどうするのかは明確ではない。今後の課題ということだろうが、範囲が広すぎるように思えるのでもっと絞り込んで基準を厳格にしないと収拾がつかなくなる可能性がある。いずれにせよ納得性のある選定基準、プライオリティー付けは、MMTだけではなく、現在の政治の課題でもある。したがって、その政治をどう考えるのかが鍵になるが、中野が唱えるのは政治経済学であり、実はその答えを用意しているのである。いや、それを言いたいがために、MMTを導入部分に持ってきたようにもみえるのである。話が長くなるので、次稿以降で説明したい。

次稿について

主流派経済学が指摘する、「インフレ対策」と「賢い支出」についてはMMTの課題と言えるだろう。なかでも前者に関しては、物価動向を判断する基準の明確化、財政政策で管理する場合に誰が判断するのか(金融政策上の金利操作なら日銀)、それで機動的に動けるのかなど課題は多いと思われる。MMTは財政政策を重視し、金融政策を従属的に考えるが、それが市場の軽視につながれば、市場の反発が起きて政策運営に支障をきたす可能性も出てくる。この問題に関しては、主流派経済学の中にあって反緊縮を唱える経済学者(ニューケインジアン)の見解が参考になると思われ、次稿で考えたい。

<参考書籍>

『富国と強兵――地政経済学序説』中野剛志著、東洋経済新報社(2016年12月初版)

『奇跡の経済教室――基礎知識編』中野剛志著、株式会社ベストセラーズ(2019年4月初版)

『奇跡の経済教室――戦略編』中野剛志著、株式会社ベストセラーズ(2019年7月初版)

(*注1)前稿ではMMTを「現代金融理論」としたが、中野の書籍では「現代貨幣理論」となっており、以降後者で統一したい。

(*注2)中野剛志(1971〜):通商産業省(現経済産業省)に入省し、現在グローバル産業担当参事官。評論家。専攻は政治思想。

(*注3)日銀ホームページの「教えて! にちぎん」から抜粋。なお、かつては準備率が金融調節に使われたが、1990年代以降は金利を適切な水準に誘導する方式に変更している。

(*注4)銀行は準備預金を超えた部分の預金を企業への融資に充てるため、日銀当座預金が超過準備を超えて潤沢にあれば、市場に出回る資金の流通量は増加する。量的緩和政策によって日銀は銀行から国債、手形などを担保として銀行の日銀当座預金口座に資金を供給して残高を増やす政策をとっている。(「教えて!にちぎん」を参考に作成)

(*注5)三菱UFJ 銀行円貨資金証券部『国債のすべて──その実像と最新ALM によるリスクマネジメント──』(きんざい、2012年)。建部のレポートは、同書以外にも多くの実務書をベースにして書かれている。

(*注6)MMTにおいて、国債を発行するのは、金利の調節を目的としている。政府支出に伴い民間銀行の日銀当座預金が増えると、超過準備が発生し、金利が低下する。そこで国債を発行して民間銀行に売却し、超過分の準備預金を吸い上げることで、金利水準を調節する。

(*注7)財務省『わが国財政の現状について』(2019年4月17日)

(*注8)麻生大臣はグリーンスパン(元米FRB議長)とローレンス・サマーズ(元米財務長官)の名前を挙げている。

(*注9)「麻生副総理兼財務大臣兼内閣府特命担当大臣記者会見の概要(2020年5月12日)」(財務省ホームページ参照)

※『視点を磨き、視野を広げる』過去の関連記事は以下の通り

第46回 MMTを考える(その1)(2020年10月28日)

MMTを考える(その1) 『視点を磨き、視野を広げる』第46回

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