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70歳まで働く社会が必要な理由(4)【連載企画:人口構成と日本経済(全5回)】
『山本謙三の金融経済イニシアティブ』第42回

5月 26日 2021年 経済

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山本謙三(やまもと・けんぞう)

o オフィス金融経済イニシアティブ代表。前NTTデータ経営研究所取締役会長、元日本銀行理事。日本銀行では、金融政策、金融市場などを担当したのち、2008年から4年間、金融システム、決済の担当理事として、リーマン・ショック、欧州債務危機、東日本大震災への対応に当たる。

生産年齢人口(15~64歳)の減少は、経済活動を供給面から制約する。今後就労人口が減っていけば、プラス成長の維持も容易でなくなる。人口が減少する社会では、やむをえない。

「実質経済成長率」のプラス、マイナスよりも、今後は国民の豊かさを表す「国民1人当たりの実質経済成長率」を維持することの方が重要になる。「1人当たり」ならば、分子と分母が同時に減るので、一見すると問題ないようにみえる。

しかし、そうではない。生産年齢人口が、総人口を上回るスピードで減少する。少ない人口で生み出すパイを、多くの人口で分かち合わねばならない。1人の取り分が減る。「国民1人当たりの実質経済成長率」も低下する可能性が高い。

◆ゼロへ向かう実質経済成長率

実質経済成長率を供給面からみると、次の式のようになる。

式が示すように、就業者1人当たり付加価値生産性の伸びが十分に高ければ、プラスの実質経済成長率を維持できる。しかし、生産年齢人口の減少スピードは、2015年からの50年間で年率1.06%にも達する。このハンディキャップを打ち返すのは、並大抵でない。

先進国の1人当たり付加価値生産性の伸び率は、せいぜい1%弱とみられている。これが正しければ、日本の実質経済成長率(潜在成長率)は、2030年代前半以降、ゼロに向かっておかしくない(参考1参照)。

(参考1)年齢3区分別にみた人口の推移

(注1)出生中位、死亡中位に基づく推計
(注2)かっこ内は、各年齢層の総人口に占める比率
(出典)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」(出生中位、死亡中位)を基に、筆者が作成

 ◆国民1人当たり実質経済成長率の維持も容易でない

「国民1人当たりの実質経済成長率」の維持も、容易でない。同成長率は、「①就業者数の伸び率」から「②総人口の伸び率」を差し引き、「③就業者1人当たり付加価値生産性の伸び率」を加えたもので近似される。このうち前2者(①-②)は年率-0.33 %となる(2015年から50年間、前掲表の(注)参照)。

1%弱の1人当たり付加価値生産性の伸びが実現できれば、マイナスにはならないだろう。しかし、これまでのプラス幅を維持するのは簡単でない。年率0.33%の下押し圧力は、相当のものだ。

この論点は、前回述べた若い世代への負担転嫁の問題と軌を一にする。「働く人」と「働いていない人」のバランスが崩れたために、国民1人当たり実質経済成長率の維持が難しくなる。負担・給付の均衡を維持できなくなる。

後者の端的な表れが、財政収支の悪化だ。

赤字国債は、1990年代半ばに発行が再開され、以後、増え続けてきた。90年代半ばは、生産年齢人口が減少に転じた時期に当たる。両者が一致するのは、決して偶然でない。社会保障の制度が「伸びきった」まま、人口構成が転換点を過ぎたために、世代間の負担転嫁が始まった。

◆「働く人」の割合を90年代半ば並みに

社会を安定的に回すためには、「働く人」を増やすことがどうしても必要になる。そのためには、高齢世代をできる限り労働市場にとどめることが重要だ。長寿化の進展に合わせて、引退年齢を繰り下げる。考えてみれば、自然な話だろう。

本稿では、生産年齢人口を潜在的な「働く人」とみなし、「働く人」の割合を90年代半ばの約7割に戻すことを考えてみたい。ここでは、生産年齢人口の上限を、将来に限って何歳まで引き上げれば、約7割を実現できるかを試算してみる。

70歳代半ばまで働く社会を

ターゲットは、「脚の長い凧形」の人口ピラミッドがほぼ完成する2045年だ。生産年齢人口比率はその頃まで低下を続ける。しかし、その後は横ばいとなる。高齢者も減少に向かうからだ。したがって、その頃までに約7割とできれば、その後の社会の安定も期待できる。

結果は、生産年齢人口の上限を75歳前後まで拡張すればよいというものだった。大づかみにいえば、一人ひとりが70歳代半ばまで働く社会にできれば、子や孫の世代に負担をかけることなく、国民1人当たりの実質経済成長率を維持できる。

むろん、健康状態には個人差があるので、全国民に求めるべき話ではない。だが、試算の意味は重い。私たちは、それほど長生きする社会に生きているということだ。そうした長寿の恩恵にあずかる以上、一人ひとりができる限り長く働く努力が欠かせない。

働く場所は「職場」とは限らない。ボランティア活動もあるだろう。なんらかの形で社会に貢献することである。試算はターゲットを2045年としたが、2020年代に置き換えても、少なくとも70歳代前半への引き上げが必要となる。

4月に施行された改正高年齢者雇用安定法は、70歳までの就労機会確保を、企業に努力義務として求める。しかし、「70歳まで」、「努力義務」というのは、いかにも出遅れている。できることから、直ちに手をつけなければならない。

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