憲法改正 高市人気の今ならできる
「戦後政治の総決算」2028年夏
『山田厚史の地球は丸くない』第307回

2月 20日 2026年 政治

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

高市早苗・自民党総裁は2月18日召集の特別国会で第105代首相に選出され、第2次高市内閣を発足させた。
 この日の午後開かれた自民党両院議員総会で「憲法改正、皇室典範の改正にしっかりと挑戦する」との意向を表明。夜の会見では「自民として実現に向けて力強く取り組みを進めていかなければいけない」と強調した。絶好調の高市人気を追い風に、憲法改正へと突っ走ろうという構えだ。

◆改憲への段取り
 党人事で、古屋圭司・選挙対策本部長を衆院の憲法審査会会長に充てた。当選13回、高市早苗首相の政治信条に近く、党改憲本部長も歴任した保守派の重鎮、改憲への動きを加速する国会の要として送り込まれる。
 「憲法改正は議論から実行段階へと移った」という見方が自民党の大勢だ。単独で3分2を超える316議席を獲得し、日本維新の会と合わせれば351議席。
 「国論を二分する課題に意欲的に取り組む」と訴えて大勝したことで、国民の信任を得た、と受け止めている。
 段取りは、以下のように描かれている。
①与党案の策定
 憲法のどの条項を変えるのか。どんな表現に改めるか。日本維新の会とすり合わせを行う。改憲の本丸は「憲法9条」だが、焦点となるのが「9条2項」の扱い。
 「前項(戦争放棄)の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と謳(うた)っている。
 この規定を削るか、残すか、議論は割れている。自民党では、この条項は削らず「3項」を新たに設け「自衛隊」を明記する、という案が有力だ。
 2項を削って、「交戦権」を認めると「戦争をする軍隊」というイメージが強くなり国民への印象が悪い。まずは、現実にある自衛隊を「明文化」する。それが「憲法9条改正」の突破口となる、という考えだ。少なくとも総選挙前までは、この考えが自民党の主流だった。
 日本維新の会は「9条2項削除」を主張する。高市改革のアクセルになるのが維新の役割、としており、改憲でも「強気」だ。
 総選挙の大勝で自民党内では保守派を中心に「9条2項削除、交戦権明記」でスッキリさせたい、との意見が強まっているという。「戦力を認めない」という9条2項を残しながら自衛隊を明記するのでは曖昧(あいまい)な表現になる。高市首相も個人的には納得していない、との観測もある。
 まずは、自民党内で「9条2項削除」まで踏み込むか、「自衛隊明記」で止めるか。改憲は、どうスタートラインを引くか、から始まる。
②国会の憲法審査会で改正案作成
 与党案をもとに、国会で野党も含めた議論が始まる。自民が少数与党だった総選挙前は、立憲民主党(当時)の枝野幸男氏が憲法調査会会長に就いていたため議論は進まなかった。総選挙で圧勝した自民は会長ポストを取り戻し、議論を加速する。野党でも参政党や国民民主党が改憲に前向きだ。参議院は今も少数与党だが、高市政権は、圧倒的多数の衆院で議論を進める。その役割を古屋会長が担う。
③改憲案の国会発議
 問題は参議院。2026年2月現在、自民・維新合わせて120議席、過半数の125議席に届かない。改憲に賛成する参政党、国民民主党、保守党の42議席を足しても3分の2にならない。国会発議を実現するためには、2028年夏の参議院選で勝つしかない。高市自民が2年半先まで支持率を維持できれば、国会発議が可能となる。自民は勝つために衆院との同日選をぶつける可能性が高い。2028年夏は戦後政治の総決算が問われる選挙になりそうだ。
④決着は国民投票
 国会で発議がなされたら、60〜180日の間で国民投票を行う。投票率・投票総数に関係なく、有効投票の過半数が賛成すれば憲法改正は成立する。この後、形式的な儀式であるが、天皇が公布する。

◆「国家としての在り方」は激変する
 憲法改正は自民党にとって党創設以来の悲願である。「占領下の日本がアメリカから押し付けられた憲法」を自分たちの手で作り変える。それが自民党の原点でもあった。改憲の本丸は9条だが、戦争の悲劇を体験し、あるいは身近な人の話で知る人たちが元気なうちは、改憲に必要は3分の2議席を確保できず、ましてや「憲法9条」に手をつけることなどできなかった。
 終戦から80年が経ち、悲惨な戦争の記憶が薄らぎ、自衛隊の受け止め方も変った。中国・ロシア・北朝鮮が近隣の脅威として意識される。高市政権の地滑り的勝利は、自民党にとって悲願達成のまたとない好機となった。
 衆院で得た圧倒的な議席と高い支持率。公明党と組んで中道改革連合に走った立憲民主党の壊滅的状況。改憲のチャンスが巡ってきた、と高市自民は身を乗り出している。
 敗戦後の日本は、平和憲法を掲げ、国の内外で戦闘行為に一切参加せず、武器を外国に売らず、核兵器は「持たず・作らず・持ち込まず」の非核3原則を貫いてきた。軍事産業に頼らず、民生品の生産・販売で経済成長を達成した。「戦争放棄」すなわち国際紛争を武力で解決しないと決めた。平和国家にこれほどこだわる日本は、世界から見れば、極めて個性的な国になっていた。
 現実には、紛争や戦闘の後方支援に駆り出されたり、資金拠出に応じたりすることも少なくはなかった。日米安保条約で米軍を補完する役割も負ってきた。しかし、日本が世界の紛争に積極的に参加することはなかった。自衛隊はあくまで自国の防衛に徹する。「専守防衛」の枠内での活動とされてきた。
 他国のように交戦権や軍を持つことを憲法で認めたら、日本の「国家としての在り方」は激変するのではないか。
「普通の国」になるだけ、という論者もいるが、日本は大事にしてきた「平和国家」を脱ぎ捨てることになる。

◆憲法改正は国民の関心事になっていない
 「国柄の大転換」を日本は今、しなければならないのか。高市首相に人気が集まっているから、と言って、人気投票に便乗するかのように、国の進路を変えてしまっていいのだろうか。
 読売新聞が2月18・19日に行った調査で「高市首相が優先してやってもらい政策課題」を有権者に尋ねた(複数回答あり)。提示した11の政策の中で「憲法改正」は9番目で40%、トップは物価対策(88%)の半分以下だった。ちなみに憲法改正より下には副首都圏構想(38%)と選択的夫婦別姓(24%)だけだった。
 読売だけでなく各種の世論調査で、憲法改正は国民の関心事になっていない。いま憲法を改正して自衛隊を憲法に書き込むことが、日本にとって大事なことなのか。自衛隊を軍として認め、日本が交戦権を持つことが、必要なのか。
 千載一遇のチャンスと捉える自民党と、有権者の間に大きな溝があるようだ。
 日本は今、トランプ米大統領からの要請で防衛予算をGDP(国内総生産)の3.5%に引き上げることで汲々(きゅうきゅう)としている。そのために医療・介護・生活保護などの予算が圧迫される。防衛費の膨張は国債増額や増税へと波及することが懸念される。
 そんな時に、誰も頼んでいない憲法改正で、国論を二分する騒ぎを起こしてどうする。自民党と高市首相の自己満足ではないのか。
 これまでの自民党ができなかったことを成し遂げれば、歴史に名が残るかもしれない。
 政府は防衛予算を増額するため「安全保障環境の悪化」を声高に叫んでいる。台湾有事など喧伝(けんでん)して中国は「危ない国」であると印象づけてきた。怖い敵がいることが防衛費を膨らます最善の策となっている。
 「9条改正」を国民投票にかけ、多数を獲得する手っ取り早い方法も同じだ。「怖い敵」を意識させる。反中感情に火をつけることになりかねない。
 安倍政権以来、中国を「怖い敵」に見立て、日米安保条約を強化し、内陸深くまで届くミサイルを並べる、という道をたどってきた。その仕上げが「憲法改正」ではないのか。
 人気があれば、なんでもできる。軽さと危うさが張り合わされた政治。そんな日本で、いいのだろうか。(文中一部敬称略)

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