п»ї 需給逼迫で懸念される人工呼吸器の部品調達 『中国のものづくり事情』第26回 | ニュース屋台村

需給逼迫で懸念される人工呼吸器の部品調達
『中国のものづくり事情』第26回

5月 25日 2020年 経済

LINEで送る
Pocket

Factory Network Asia Group

タイと中国を中心に日系・ローカル製造業向けのビジネスマッチングサービスを提供。タイと中国でものづくり商談会の開催や製造業向けフリーペーパー「FNAマガジン」を発行している。

世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスは、中国では感染拡大がピークアウトしたものの、日本や欧米ではまったく先が見通せない。

中国国家統計局が発表した2020年1~3月の国内総生産(GDP)の伸び率は、前年同期比6.8%減と1992年以降で初めてマイナスとなった。しかし、国際通貨基金(IMF)の予測によると、通年ではプラス1.2%で着地する。米国がマイナス5.9%、日本がマイナス5.2%、ユーロ圏がマイナス7.5%と軒並みマイナス成長に陥るなか、主要国では中国とインドだけがプラス成長となる見通し。欧米諸国による中国への風当りがいっそう強まりそうだ。

◆世界の人工呼吸器市場 1年で5倍に急拡大へ

自動車をはじめ、あらゆる産業で需要が低迷し、産業界に明るい話題がないなかで熱い視線が注がれているのが、製薬や医療機器などの医療関連分野だ。製薬については、各国が国を挙げてワクチンの開発に力を注いでいる。しかし、量産化には最短でも1年はかかるといわれている。

一方、医療機器は一部ですでに生産が活発化している。体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)や人工呼吸器がその代表だ。新型コロナウイルス感染症による重症患者の増加を受け、世界中で需給が逼迫(ひっぱく)しているからだ。

レポート・アンド・データ社によると、ECMOの2019年の世界市場規模は2億6710万ドル(約287億8500万円)だが、27年には3億7180万ドルまで拡大する見込みだ。その間の年平均成長率(CAGR)を4.2%と予測している。

主要プレーヤーはスウェーデンのゲティンゲ、アイルランドのメドトロニック、英リヴァノヴァ、日本ではテルモが生産している。中国ではあまり生産されていないが、微創医療科学(マイクロポート)がアリババ創業者・馬雲(ジャック・マー)氏らが出資する投資ファンド「雲峰基金」と共同でリヴァノヴァのCRM(心調律管理)事業を17年に買収している。今後、国産化の推進が期待される。

一方、人工呼吸器の需給はさらに逼迫しており、グローバルデータ社によると、世界で88万台以上が必要とされている。リサーチ・アンド・マーケット社が発表した「人工呼吸器グローバルマーケットレポート2020−30:Covid19の影響と成長」によると、世界の人工呼吸器市場は19年の24億ドルから20年には約5倍の121億ドルまで急拡大する見込みだ。23年には42億ドルに達し、その間のCAGRを14.7%と予測している。

人工呼吸器の主要プレーヤーはメドトロニック、米ベクトン・ディッキンソン、米テレフレックスメディカル、スイスのハミルトン・メディカルなど欧米を中心に数が多く、日本では日本光電が生産している。

中国でもプレーヤーの数は多い。工業・情報化部産業・政策法規司の許科敏司長によると、中国では人工呼吸器を生産しているメーカーが21社あり、うち8社が欧州連合(EU)域内での販売に必要な安全基準認証「CEマーク」を取得している。1週間の生産量は約2200台で、世界の生産量の約5分の1を占めるという。

中商情報網によると、19年の中国の人工呼吸器の市場シェアは、独ドレーゲルが17.5%で1位。以下深圳邁瑞生物医療電子の14%、フィリップスの9.9%と続く。10位以内にはグローバル企業が多いものの、深圳邁瑞など中国企業が3社入っている。

急拡大する需要に応えようと中国でも増産しているが、ボトルネックとなるのが部品調達だ。世界中で人工呼吸器の生産量が増えることで、部品の供給が追いつかなくなる可能性があるのだ。

医療専門メディア「動脈網」によると、人工呼吸器には多くの部品が必要だが、エアコンプレッサーやセンサー、半導体チップなどの基幹部品の多くを輸入に頼っている。スイスのミクロネル、米ハネウェル、日本のSMCなどが挙げられている。中国メーカーが安定的に生産量を増やしていくためには、基幹部品の国産化が必要となりそうだ。

人工呼吸器には、気管挿管や気管切開を行って直接気道を確保して換気する「侵襲的人工換気」とマスクやマウスピースを介してガスを送り込む「非侵襲的陽圧換気」がある。前者は重症患者に用いられるハイエンド機種で、後者は、無呼吸症候群や肺炎でも意識がはっきりしている患者だけに使用される比較的簡易な機種だ。中国メーカーが生産するのは後者が多いが、医療現場で求められるのは前者だ。世界の需要に応えるためには、技術力の向上も課題になりそうだ。

※本コラムは、Factory Network Asia Groupが発行するFNAマガジンチャイナ2020年6月号より転載しています。

http://www.factorynetasia.com/magazines/

コメント

コメントを残す