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現代医学の進歩と日本の立ち位置
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第242回

6月 02日 2023年 社会

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

oバンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住25年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

人間にとって「不老不死」はかなわぬ夢である。それでも医学の進歩によって確実に人間に寿命は延びている。戦国時代の武将、織田信長は桶狭間(おけはざま)の戦いの前夜に「人間50年、下天のうちを比ぶれば、無限の如くなり」と謡(うた)い舞った、と言われている。それからまもなく500年。現代人の寿命は100歳に届かんとしている。医学は日進月歩で着実に進歩してきたが、最近の科学技術の発展により最近では急速な深化がみられる。今回は、バンコック銀行の中村康宏さんがまとめた現代医療についてのレポートをご紹介したい。最近の急速な医療の進歩に対して、私たちの医学に対する理解は追いついていないことが往々にしてある。こうした反省を踏まえて、今回のレポートでは医学の進歩を体系的に理解しようとしている。ぜひご一読いただきたい。

1.はじめに

人の身体は解明されていないことが多く、現在もがんや生活習慣病など多くの病気がいまだに人の脅威であり続けている。このレポートでは、人の体や病気や変化に対して医療がどのように変化し、現在医療はどの分野に重点が置かれているか、その特徴について報告したい。

2.医療動向

まず、治療方法と医療の歴史を振り返り、過去から現在について治療方法の移り変わりから現在までの動向を考察する。

表1 治療方法一覧                           表2 医療年表

出典:表1、表2ともに各種ウェブサイトより筆者作成

①1900年以前については、医学が発達しておらず病気の原因を特定に至らなかったため、外科手術により患部を摘出すること、発熱、咳、痛みなどを緩和する対症療法薬が主流であった。

②細菌やウイルスの発見により、細菌感染症を治療可能な抗生物質、ウイルス性感染症を治療可能な抗ウイルス薬が開発された。また抗ウイルス薬の長い開発期間に対しては、抗体により体の免疫機能を高める働きを行う予防医薬品としてのワクチンが開発された。

③1950年代以降については、人体の細胞や遺伝子に対する研究が進み、がん細胞に分子レベルで直接作用する分子標的薬、細胞表面の目印となる抗原を狙い撃ちする抗体医薬品など開発された。

④現在の医療においては、後述する顕微鏡の急速な発展とスーパーコンピューターの発展により、人体の細胞、遺伝子レベルに作用する医薬品を含む医療研究・開発が行われている。

3.人の細胞、遺伝子、DNA解析のための技術革新

医療年表からも現在は、細菌・ウイルスの解明から、人の細胞やDNAの解析へと研究対象が変化している。本章ではその変化が可能となった医療における技術革新について説明する。

3-1 顕微鏡

表3 顕微鏡の開発年表         図1 電子顕微鏡で確認できるもの

(出典:各種ウェブサイトより筆者作成)(出典:一般社団法人日本分析機器工業会)

①光学顕微鏡は、顕微鏡の先駆けであり対物レンズによって標本物体の拡大像をつくり、その拡大像を接眼レンズによって更に拡大させることによって、肉眼で観察可能な顕微鏡である。

②電子顕微鏡は主に三つの高圧に加速した電子ビームを組織切片や構造物に投射し、反射してきた電子を読み取り画像化する。低温(クライオ)電子顕微鏡は、生体高分子を急速に凍結させ、非常に低い線量の電子線を照射してその構造を解析する電子顕微鏡である。

③従来の走査型では試料を高真空下に置くため水分を含む試料の観察が困難であった。しかし環境制御型透過電子顕微鏡の開発によって、真空度とステージ温度を調節することで水、氷、水蒸気の3状態を捉えることにより生体の観察がより容易となった。

④2010年以降の技術革新により、高精細かつ、光学顕微鏡で全体を把握しながら、電子顕微鏡で細胞レベルの観察が可能となり、細胞などの解析が大幅に進捗した。以下技術を一部紹介する。

A.「電子トモグラフィー技術」とは、低温電子顕微鏡に用いられる様々な方向から得られた画像を多数組み合わせ平均化する技術であり、高分解能の三次元画像の作成が可能となった。

B.「組織透明化技術」とは、溶液処理により標本の光散乱を低減させ、透明度を向上化を行う技術であり、化合物がどのように生体に作用するかなどの観察が容易となった。

C.「蛍光イメージング技術」とは、蛍光を発する分子を体内に導入し、体外からその蛍光を観察し、様々な生命現象を可視化する技術である。光通信技術の発展により体内深部まで計測可能な波長を持つ高性能カメラが開発され、体内深部の細胞の観察も可能となった。

3-2 DNA解析

DNA解析とはDNAの塩基配列を特定することであり、DNAの塩基配列を特定する機械シーケンサーが1986年に開発された。現在はNGA(次世代シーケンサー)により、1回の運用でヒトゲノムが約30億塩基対の全てを網羅することが可能となった。

3-3 スーパーコンピューター開発の進展

スーパーコンピューターにより、新薬の候補となる膨大な数の化合物から,有用なものを迅速に高効率で選別するハイスループットスクリーニングが可能となった。日本の「京」によって、2014年に、たんぱく質と化合物の12万通りの結合組み合わせを読み込ませ、631種の疾患原因タンパク質と、3000万種の化合物の全組み合わせの結合予測を、汎用コンピューターで2年かかるところを5時間45分で処理を行うなど、創薬における医薬開発は大きく進捗(しんちょく)した。将来的にはコンピュータ自らが適切な化合物を選択し、自動的に医薬品を分子設計することも期待されている。

4.死亡原因による調査

次に、死亡原因の特徴を比較し、どの分野の研究に重点が置かれているかを考察する。

表4 世界の死亡原因比較                                                      (単位:百万人)

(出典:Our World Data資料および各種ウェブサイトより筆者作成)

①主に欧米においてがんの代替医療を行っているため、世界では心疾患死亡率が1位となっている。代替医療とは、がん治療における効果が高いが、治験時間と金額が多く必要で認可取得に至っていない、または国の法律上認可外となっている医療のことである。

②認知症(アルツハイマーを含む)は、医療の発達でアルツハイマーの特定が容易になったこと、またそれ以外の病気の死亡率が減少したことで、死者数が2倍以上増加している。

③呼吸器疾患、下気道感染症、新生児障害、下痢性疾患は、既存の医薬(抗生物質や抗ウイルス薬)や栄養水質環境の改善などにより抑止可能。なお呼吸器疾患、下気道感染症は免疫能力の低下による多臓器不全を誘発することが最終的な死亡原因である。

④主に生活習慣による死因は心疾患、糖尿病、肝疾患、腎疾患。心疾患以外は下位であり、治療薬の開発や、長年の生活習慣病抑制のために健康志向が定着するなど予防療法が広く普及している。

⑤主に細胞の変化による死因は心疾患、がん、認知症(アルツハイマーを含む)である。原因は年齢、習慣、細胞の突然変異、ストレスなどであり、解明されていないものが多い。

⑥外部要因である細菌やウイルスについては既存医薬にてある程度抑止できているとすると、現在の研究が必要な領域は細胞、遺伝子、老化(変化)、原因療法薬などであると考えられる。

5.最新の医療研究

次に、原因療法薬の細胞や遺伝子に作用する医薬開発や人の細胞の変化の最先端分野である「ゲノム編集」技術について確認する。また同技術から派生した最新の医療研究について記載する。

表5 最新の研究一覧

(出典:各種ウェブサイトより筆者作成)

5-1 ゲノム編集

5-1-1 ゲノム編集とは

図2 ゲノム変種のイメージ        表6 ゲノム編集の沿革

(出典:名城大学ウェブサイトより)   (各種ウェブサイドより筆者作成)

ゲノム編集とは生物が持つゲノムDNA上の特定の塩基配列を狙って変化させる技術である。ゲノムDNA上の特定の場所を狙い、ハサミの役目をするツールを使って切断し、ゲノムの機能喪失状態、生物に備えられているゲノム修復機構による修復ミスの利用、別の塩基配列を挿入することなどにより目的に合った性質を持つ生物(細胞)を作り出す技術である。

5-1-2 今後の応用

ゲノム編集技術は、従来よりも非常に簡単なゲノム編集ツールCRSPR CAS9の誕生により、ゲノム編集期間の短縮と作業の専門性が払拭された。人への応用は、編集したゲノムの突然変異によりターゲットではない細胞が増殖する可能性があること、生殖細胞や人体の生育過程においての影響が不明であることなど問題点も多い。しかし、将来的には本技術を用いて、ウイルス感染の診断、ゲノム編集作物・畜産物、伝染病媒介生物の駆逐、HIVおよびがんの感染完治、その他疾患の治療も可能であると言われている。

なお、本技術はライセンス取得などのため、欧米を中心に企業などが多額の投資を行っている。

5-2 mRNA

5-2-1 mRNAとは

図3 mRNAのイメージ       表7 沿革

(出典:Answers Newsより)    (出典:各種ウェブサイトより筆者作成)

mRNAとはメッセンジャーリボ核酸のことであり、COVIT19ワクチンであるmRNAワクチンは、スパイクたんぱく質を作り出す指示書が書き込まれた人工的なmRNAを投与することで体内にスパイクたんぱく質が作られ、中和抗体により免疫反応が起き、病気の重症化を予防するものである。特徴としては遺伝情報のみで作成でき、開発が容易であること、毒性はないため安全性が高いことが挙げられる。なお、この人工的なmRNAの作成にゲノム編集技術が応用されている。

COVIT19ワクチンの開発は、莫大な政府等により資金援助があったこと、企業が複数の試験を並行して実施したことで開発と承認審査が特例で同時に行われ、8週間で緊急承認となったことなど異例の状況が重なったものの、mRNAを用いた他の創薬については治験など慎重な対応が必要である。

5-2-2 今後の応用

現在、免疫反応により細胞に直接作用するがん治療、狂犬病、糖尿病由来の心不全などに対して、悪化を防ぎ、治療効果を増幅させる効力のあるmRNA医薬品を開発する研究が進んでいる。またmRNAの人の免疫を活性化する働きを利用して、アルツハイマーの原因となる老廃物の破壊、赤血球、ホルモンなどの特定物質の生成も期待されている。

5-3 IPS細胞

5-3-1 IPS細胞とは

図4 IPS細胞の応用事例          表8 IPS細胞の沿革

(出典:京都大学 IPS細胞研究所)    (出典:各種ウェブサイトより筆者作成)

IPS細胞とは、人間の皮膚や血液などの体細胞に、ごく少数の因子を導入し培養することで、さ様々な細胞に分化する能力と無限に増殖する能力をもつ多能性幹細胞に変化した細胞である。外科手術の分野で注目されている研究である。

5-3-2 今後の応用
IPS細胞は、現在医療応用研究中であり、IPS細胞の作成に1人あたり数千万円以上の費用と半年以上の時間がかかること、現在のIPS細胞では日本人の4割程度しか適合できていないことが課題となっている。現在はゲノム編集技術を用いて、全世界の人が適合できるようなIPS細胞の作成にかかる研究が進められている。
IPS細胞の利用によって、細胞を病気に関係する細胞に変化させ病気の原因の解明を行うこと、IPS細胞を用いて新薬開発の治験に応用することなどが可能となる。加えて外科の分野における再生医療についてはIPS細胞がもつ多分化能を利用して、臓器を含む人体の失われた機能を回復させることが可能であるといわれている。

5-4 DNAナノテクノロジー
ゲノム編集を行うたんぱく質を体内に運ぶのに重要となるのが、DNAナノテクノロジーである。DNAナノテクノロジーとは、ナノスケールの構造体を設計・作成する技術を基盤とした分子テクノロジーである。医療分野については、体内で抗ウイルス免疫を活性化するナノマシンや、がん腫瘍などを直接、光により治療する光操作性ナノマシンなどの創製の研究を北海道大学で行っている。将来的には、米粒の10万分の1サイズのナノマシンが、体内で24時間365日検査を続け、病気の部分を見つけると自動的に治療すること可能になるといわれている。

6.大学、研究所の現状
研究領域と財務指標について、日本、アメリカ、EU(欧州連合)の大学、研究所を対象に調査を行った。

6-1 大学、研究所による研究成果(日本、アメリカ、EU)
図5

(出典:京都大学、北海道大学、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、カリフォルニア大学、ウィーン大学、ウメオ大学、理研、Broad Institute、マックスプランク研究所の各ウェブサイトニュースリリースより2022年10月から2023年1月分のみを筆者集計し作成)

①日本の大学はがんに対する研究割合が他地域と比較して高い。また日本は従来の課題の深化による研究に特化しており、糖尿病など死亡原因や病気を治療する研究が多い。一方で人の細胞、老化、DNAの解析などの最新の医療研究に対する研究は少ない。

②アメリカはアルツハイマー(認知症)とうつの研究割合が高い。世界的にアルツハイマーの死因が増加していることが影響している。ハーバード大学では、最先端の免疫、神経、細胞などの人の細胞やゲノム編集にかかる研究も多数行っている。

③EUではヨーロッパ人はどこから来たのかを研究するなど、民族意識が強いことも影響しており、神経や細胞の研究割合が高い。ドイツのマックスプランク研究所においてもゲノム編集の最先端の研究が行われている。

6-2 大学財務指標の年代別比較

京都大学、ハーバード大学、シンガポール大学の財務指標をグラフ化した。なおウェブサイトで各大学統一して取得できる年を勘案し、2005年、2010年、2020年を選択。またCOVIT19の影響を排除するため最新年を2020年とし、増加率について2010年増加率は2005年比、2020年増加率は2010年比としている。

6-2-1 売上高と研究開発費

図6         (単位:百万円)                                  (単位:千円)

(出典:各大学のFinancial Reportより筆者作成)

各大学ともに売上高と研究開発費は相関しており、毎期一定程度の研究開発費を計上。ただし、近年の増加率を比較すると、海外の大学は飛躍的に売上高、研究開発費を伸ばしており、京都大学も最先端の研究を行うために、収入・研究開発費の増加策について検討する必要がある。

6-2-2 交付金と入学金・授業料(売上高内訳)

図7         (単位:千円)             (単位:千円)

(出典:各大学のFinancial Reportより筆者作成)

①京都大学の交付金および入学金・授業料については、ともにほぼ横ばいに推移するも、海外の大学は両指標ともに増加傾向にある。国や州、および大学の方針によっても異なる。
②交付金の推移から世界各国が大学への交付金を増加させていることで、最先端の研究を積極的に行っていこうとする方針が見てとれる。また大学の魅力度をアピールすることで全世界から学生を募集し、研究者を確保するなど柔軟な経営により、海外では入学金・授業料も増加傾向にある。

6-2-3 不動産・設備と純資産額
図8            (単位:百万円)        (単位:百万円)

(出典:各大学のFinancial Reportより筆者作成)

①京都大学の不動産・設備、純資産額についても、ともにほぼ横ばいで推移するも、海外の大学には両指標ともに増加傾向にある。

②海外の大学では技術革新に合わせて設備投資を行っている。設備投資拡大には、各大学の収入増加の影響もあるものと思料。特にシンガポール大学では、世界各国から学生を募集しており、アジア発の最先端技術の開発に力を入れており、収入や設備を増加させている。

③前述の通り、最先端の研究には最新の顕微鏡やスーパーコンピューターなどが不可欠であるため、日本発の新技術開発のため、最先端の設備投資を積極的に行っていく必要がある。

④なお、アメリカにおいてはアイディアベースでも研究開発補助金が支給される仕組みもあり、各国の企業や研究機関も医薬開発拠点をアメリカとしている。ハーバード大学などでは設備、研究開発費等も潤沢で、研究環境が充実しており、補助金等の認可、および申請内容によっては学問として長期的視点にたった研究が行われやすい環境にあるといえる。

7.医薬会社の現状

開発パイプラインと財務指標ついて、日本、アメリカ、EUの医薬会社を対象に調査を行った。

7-1 医薬会社の開発パイプライン(日本、アメリカ、EU)

図9

(出典:武田薬品工業、大塚ホールディングス、アステラス製薬、第一三共、エーザイ、ファイザー、MSD、モデルナ、グラクソスミスクライン、サノフィーの各ウェブサイト2023年1月時点掲載の開発パイプラインを筆者集計し作成)

①日本は大学と同様、がんに対する割合が高い。新しい研究分野への取り組みは少なく、既存の医薬開発の延長でがんや、ウイルス、細菌等に対する医薬開発が多い。武田薬品工業は2022年1月に企業買収によりゲノム編集技術を用いたがん治療薬を開発中の英国のバイオベンチャー・アダプテート・バイオセラピューティクスを買収し、ゲノム編集についても技術開発を開始した。
②日本のアルツハイマーとうつの比率が高いことについては、大塚ホールディングスがアルツハイマーとうつに対する創薬に特化する戦略で事業展開しているためである。
③アメリカは喫緊の課題であるCOVIT19に対する創薬研究が進んでおり、肺炎にかかる開発パイプラインが増加。また、その他の項目である多くの大衆薬もがアメリカ企業から発信されている。
④ワクチン開発に関して、アメリカ政府は国家安全保障の観点から、新たな感染症に備えて治療薬やワクチンの研究開発を平時から支援してきており、常にゲノム編集やmRNAの研究を続けている。一方で日本は平時におけるワクチン製造業者の支援や開発の推進、生産体制の強化等の国の支援はなく、場当たり的な対応となっており、新技術開発は後手に回っている。
⑤EUは大学同様に細胞に関するパイプラインが多い。各研究機関による発表論文数はアメリカと同程度あるが生産拠点、医薬会社への支援が足りないと言われており、またアメリカと比較し、デジタル競争力も劣るとされている。

7-2 医薬会社財務指標の年代別比較
武田薬品工業、ファイザー、グラクソスミスクラインの財務指標をグラフ化した。なおウェブサイトで各社統一して取得できる年を勘案し、2005年、2010年、2020年を選択。またCOVIT19の影響を排除するため最新年を2020年とし、増加率について2010年増加率は2005年比、2020年増加率は2010年比としている。

図10 売上高、研究開発費、当期純利益、不動産・設備  (単位:全て百万円)

(出典:各社のAnnual Reportより筆者作成)

①ファイザー、グラクソスミスクラインに関しては武田薬品工業と比較し、2005年から高い売上高、研究開発費、当期純利益を確保している。

②欧米企業が技術革新時期にも、多くの設備を保有かつ多くの研究開発費計上によって研究財源を確保している一方で、武田薬品工業は売上高の低迷で設備投資額も少なく、2018年以降M&A(企業の合併・買収)により医薬ベンチャーの買収があったため、2020年は売上高、不動産・設備などが増加した。なお医薬業界について、特許保有期間中は業況が安定するが、特許満了後にはシェアを奪われるため、常に次の新薬開発を目指しており、M&Aなどによるベンチャー企業の買収などが多い。

③ファイザーは、研究開発費と設備により、医薬開発に十分な時間と費用を確保したことで2020年後半のCOVIT19 ワクチンの開発につながったと思料される。

④なお、従業員1人あたりの研究開発費および不動産・設備について、欧米企業は世界各国に従業員を多数抱えていることもあり、各会社ともに大きな差は見られなかった。

8.おわりに

・外部から人の体に影響を及ぼす細菌やウイルスについては、既存医薬にてある程度抑止できているとすると、現在の研究が必要な領域は人の細胞、老化、DNA解析などへと移行していると考えられる。

・日本の大学はがんに対する研究割合が他地域と比較して高く、加えて従来の課題である糖尿病を含めた生活習慣病などを更に深化させた研究が多い。一方で人の細胞、老化、DNAの解析などの最新の医療研究に対する研究は少ない。

・最新技術であるmRNAを利用したワクチン開発に関して、アメリカでは国家安全保障の観点から、新たな感染症に備えて治療薬やワクチンの研究開発を平時から支援してきており、常に研究を続けている。一方で日本は新たな感染症の脅威に対して、平時におけるワクチン製造業者の支援や開発の推進、生産体制の強化等の国の支援はなく、各研究機関では従来からの研究を多く行っている観点からも、場当たり的な対応となっており、新技術開発は後手に回っている。

・海外の大学の売上高、研究開発費の増加率を見ると、近年飛躍的に増加しており、日本の大学も最先端の研究を行うために、収入・研究開発費の増加策について検討する必要がある。特にシンガポール大学では世界各国から学生を募集し、アジア発の最先端技術の開発に力を入れており、収入や研究開発費、設備を増加させている。

・欧米の大学や企業は日本と比較すると、技術革新時期に、不動産・設備の金額を多く計上しており、特にファイザーについては研究開発費と設備により、医薬開発に十分な時間を確保したことで、2020年のmRNAを応用したCOVIT19 ワクチンの開発につながったと思料される。最先端の研究には最新の顕微鏡やスーパーコンピューターなどが不可欠であるため、新技術開発のためには最先端の設備投資を積極的に行っていく必要がある。

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