п»ї 世界の中心で「脱平和国家宣言」 岸田はなにしにアメリカへ 『山田厚史の地球は丸くない』第261回 | ニュース屋台村

世界の中心で「脱平和国家宣言」
岸田はなにしにアメリカへ
『山田厚史の地球は丸くない』第261回

4月 19日 2024年 政治

LINEで送る
Pocket

山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

岸田首相にとって訪米は、「ご機嫌な息抜き」ではなかったか。段取りは事前に決まり、互いを称(たた)え合うだけの首脳会談、議員が立ち上がって拍手するスタンディングオベーションが繰り返された上下両院合同会議での演説。日本政府は「大成功」とご満悦だが、先方が喜ぶ言葉を並べれば、万雷の拍手が返ってくるのは当然だろう。

大統領専用車「ビースト」の車内で撮った2ショットが、ホワイトハウスから世界に発信された。装甲車並みに分厚い鉄板で覆われたビーストに乗せてもらえるのは「気の許せる友人」の扱いだという。笑みを浮かべるバイデンの隣で、無邪気に喜ぶ岸田のゆるみきった表情。この無防備さが、首脳会談の本質をさらけ出した。

◆中国を敵に回し、米国と一体化宣言

外交は緊張感が伴うのが普通だ。首脳会談ともなると、国益を背負い一対一で対峙(たいじ)する真剣勝負である。岸田・バイデン会談には、そのような緊張感は微塵(みじん)も感じられなかった。

日本と同様に大事な同盟国であるイスラエルと比べると、よくわかる。ネタニヤフ首相と対峙するバイデンは、岸田に対する表情と大違いだ。米国の後ろ盾があって成り立つイスラエルではあるが、自国の主張を押し通し、相手が米国であっても「NO」と言う。国家はそれぞれが置かれる立場・状況が違う。友好国であっても意見が違うのは当たり前というのが外交の世界だ。

議会演説で首相は「日本はかつて米国の地域パートナーでしたが、今やグローバルなパートナーとなった」と宣言した。

「米国が何世代にもわたり築いてきた国際秩序は今、新たな挑戦に直面しています。私たちとは全く異なる価値観や原則を持つ主体からの挑戦です」と、中国を念頭に置いた対立構図を描いてみせた。米国の中国に対する警戒感は、世界の覇権を奪われるかもしれない、という切迫した状況と無関係ではない。日本は地理的・歴史的にも中国と近く、中国経済と切っても切り離せない国である。太平洋の彼方に控える米国とは地政学的にも条件が違う。そんな中国を敵に回し、米国と一体化することが、果たして日本の利益となるのだろうか。

繁栄の翳(かげ)りが見える米国が「世界の保安官」を務めることは難しくなった。その肩代わりを買って出る、と言わんばかりの岸田の言葉に、民主・共和を超えて議員たちが拍手喝采(かっさい)したのは当然である。

◆てんこ盛りの軍事協力

日本は防衛予算を2027年までにGDP(国内総生産)の2パーセントまで増額し、敵基地攻撃能力を保有し、サイバーセキュリティーを向上させる。それらはすべて米国の要請に添った対応である。

4月10日まとめられた「ファクトシート(覚書)」は晩餐(ばんさん)会を含む首相の公式訪問で確認された「日米間の更なる協力活動」を列挙している。

「同盟が新たな高みに達したことを認識しつつ、我々は、更なる調整及び統合を可能にするため、防衛・安全保障協力を一層強化していく」と謳(うた)い、「両国は作戦及び能力のシームレスな統合を可能にし、平時及び有事における自衛隊と米軍との間の相互運用性及び計画策定の強化を可能にするため、二国間でそれぞれの指揮・統制の枠組みを向上させる」と書かれている。その中身は「てんこ盛りの軍事協力」である。

・防衛省と米国防省が主導する日米防衛産業協力

・高度で相互運用可能なミサイルの共同生産

・最先端技術の共同開発・生産の機会を追求する作業部会

・米海軍艦船の整備及び補修を日本の民間造船所で実施する

・米空軍航空機のエンジンの整備及び補修を実施する可能性を模索する

・迎撃用誘導弾プログラムの協力開発

・日米豪の情報収集、警戒監視及び偵察活動

・定期的な日米英三か国共同訓練

・沖縄統合計画に従った在日米軍再編の着実な実施

・日米防衛科学技術協力の深化

共同記者会見で岸田首相は「強い決意をもって防衛力強化に取り組んでいることを伝え、バイデン大統領から改めて支持を得た」と語った。

防衛予算を倍増し、米国から兵器を買い、日本の税金で対中ミサイル網を整備する。そしてグローバルパートナーとなって世界の果てまでついていく。アメリカにとってこんなに都合のいい同盟国はどこにもないだろう。

◆「積極的平和主義」は「軍事大国化」と同義

昨年5月、米国の雑誌「Time」は、表紙に岸田首相の顔を載せ「日本の選択」と題して「岸田首相は何十年も続いた平和主義を捨て、日本を真の軍事大国にすることを望んでいる」と書いた。ゲラの段階で官邸が変更を求め、「平和主義だった日本に国際舞台でより積極的な役割を持たせようとしている」と、表紙の記述は変わった。今となっては、最初のキャプションが適切だったことがよくわかる。

2024年4月、岸田首相がワシントンにやって来て「日本は何十年も続いた平和主義を捨てました」と宣言した、それが今回の日米首脳会談と議会演説の本質だ。

日本国内では、軍拡路線は「積極的平和主義」と言い換えられているが、世界から見れば「軍事大国化」に他ならない。

日本に住む我々は、政府・自民党が平和憲法を空洞化し、自衛隊の装備強化や海外派兵、さらに武器輸出にも熱心なことを知っている。だが世界から見れば、日本には平和憲法があり、海外での軍事活動にはほとんど参加しない。モノ作りは得意なのにミサイルや戦闘機など兵器ビジネスに手を染めない「平和を大事にする国」と思われて来た。

事実、自衛隊は海外で交戦したことはなく、殺したり殺されたりがない極めてまれな国だ。その日本が、軍備を増強し中国包囲網に参加するだけでなく、グローバルパートナーとしてアメリカと一緒に世界秩序に貢献する、と言い出したのだ。

政治資金に絡む裏ガネで自民党が大揺れし、窮地に立った首相が、逃げるように訪れたアメリカで、日本でほとんど議論されてもいない国家の方針転換が表明された。世界はそんな日本をどう見るだろう。そして後世の人は、今回の岸田訪米をどう評価するだろうか。(文中一部敬称略)

コメント

コメントを残す