トランプ100日 7つの大罪
時代に逆行「MAGA」の実態
『山田厚史の地球は丸くない』第287回

5月 02日 2025年 国際

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

米国のトランプ大統領が就任して100日がたった。「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(MAGA)」を掲げ、矢継ぎ早に打ち出す大統領令に世界は右往左往するばかりだ。独善を押し通す78歳の老人は、アメリカをどこに導くのか。就任100日で鮮明になったのは、以下7つの大罪である。

①友好国への冷淡な仕打ち②敵を作り民衆を煽(あお)る③ 敵対者は徹底して叩(たた)く④アメリカ社会を分断⑤力による決着への傾斜⑥国際社会での責任放棄⑦剥(む)き出しの「国家エゴ」――。

こうした乱暴な振る舞いは、世界の不確実性を高め、経済活動を萎縮させている。アメリカの国際的地位を低下させるだけでなく、自らの国家を不安定で住みにくい社会する「自傷行為」に他ならない。

友好国への「裏切り」

20世紀は「アメリカの世紀」ともいわれた。2つの世界大戦で戦場になった欧州は、無傷だったアメリカに「世界の指導的地位」を委ね、アメリカは欧州が育んできた民主主義と資本主義を継承した。戦後の東西対立でも、アメリカと欧州は共通の価値観と経済体制を軸に、世界の秩序維持に取り組んできた。G5(米・英・仏・独・日)とかG7(さらに伊・加)と呼ばれる国家が主導的地位を占め、中国・ロシアなど旧共産圏や途上国に対し、連携してことに当たってきた。

トランプはこの伝統的な共同歩調に関心がない。象徴的なのがウクライナ戦争の捉え方だ。戦争は欧州に責任がある、とみている。ロシアの影響力を封じようとウクライナのゼレンスキーを使って挑発したことがロシアの侵攻を招いた、と考えている。

停戦条件も「ロシアの支配地はロシアに譲り渡す。ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟は認めない」など、プーチンが喜ぶ内容だ。

EU(欧州連合)が受け入れられる停戦案になっていない。これまでのアメリカならEUとすり合わせた上でロシアに提示した。トランプは、プーチンと話をつけて、それをEUにのませようとしている。共同歩調を当然のことと考えてきたEUから見れば「アメリカの裏切り」である。

隣国カナダ・メキシコとの関係も冷え込んでいる。中国製合成麻薬の流入ルートになっている、などと難癖を付け、高い関税をふっかけたことが始まりだ。NAFTA(北米自由貿易協定)以来、経済活動から国境を取り外したのに、手のひら返しである。

外交関係は、政権交代があっても条約など他国との約束事は継続するのが国際関係の常識だが、トランプには通用しない。

「他国はアメリカを食い物にしてきた。それを取り戻す」と主張する。貿易赤字はアメリカが被害者である証しだというが、米国製品に国際競争力がないことには口をつぐむ。アメリカの高い賃金が人件費を膨らませ、製造業の衰退が国際競争力を低下させている。それを他国のせいにして高関税を振り回すトランプが友好国を離反させている。

◆敵を作り社会を分断

苛烈(かれつ)な競争社会であるアメリカは、すさまじい格差社会で、不平不満、不安やストレスが多い社会でもある。トランプは衰退産業や底辺労働者など「取り残された人々」の不満を煽って選挙戦を勝ち抜いた。手法は「敵」を作って人々の怒りに火をつけることだった。

「身近な敵」は難民・移民だ。「雇用を奪う」「治安を悪化させる」「税金の無駄使い」と非難した。

「エリート層」も分かりやすい「敵」にされた。格差社会の上層に居る高学歴のエリートが政府職員になって「アメリカを食い物にしている」という筋書きだ。格差社会は政治が生み出し、その矛盾を受け止めるのが政府の役割だが、敵を叩くことで喝采(かっさい)を浴びる。

外の敵は「中国」だ。身の回りにアジア人が増え、中国製品が氾濫(はんらん)している。黄色人種への嫌悪感を隠し味に「中国製品が米国製を押しのけ職場を奪う」と煽動(せんどう)する。

◆大学に踏み込むリベラル潰し

忠誠を誓う者を取り立て、反対意見は徹底して潰す、というのがトランプのやり方だ。閣僚人事だけでではない。通商交渉も、頭を下げて「お願い」する相手には甘いが、真っ向から批判する相手には高関税をふっかける。

政治的にはDEI(ディー・イー・アイ)(Diversity〈ダイバーシティ、多様性〉)(Equity〈エクイティ、公平性〉)(Inclusion〈インクルージョン、包括性〉)に象徴されるリベラルな価値観を敵視する。

米国が誇る名門大学をトランプは「リベラルの牙城(がじょう)」と見て敵視する。「パレスチナ支持・イスラエルは攻撃停止を」というデモが大学から起こると、「キャンパスから反ユダヤ主義の動きを一掃せよ」と大学に指示した。デモ参加者や学内の動きを調査・報告するよう求めた。ハーバード大学が「政府の指示は学問・表現の自由を定めた憲法に違反する」と拒否すると、22億ドル(約3000億円)の補助金を打ち切った。

ハーバードなど米国の大学は、広く海外から人材を集めてきた。背景にある文化が違う多様な個性が切磋琢磨(せっさたくま)することでアメリカのイノベーションのタネになる研究や理論を打ち出してきた。米国は大学の質と規模で世界を圧倒する力を持ち、その自由な雰囲気が先端的研究を培養してきた。

「反知性」とも思えるトランプの介入は、アメリカが育んできた知的財産を解体させる恐れがある。研究の自由と資金を断たれれば、アメリカにいる理由はない。優秀な研究者には、すでに他国から誘いが来ているという。

解体の危機は、政府組織で現実化している。トランプの盟友になった実業家のイーロン・マスクが、行政の無駄を省く新組織「政府効率化省(DOGE=Department of Government Efficiency)」を率い、行革の旗を振っている。4月27日までに資産売却や契約見直しなどで、計1600億ドル(約23兆円)を切り詰めたとしているが、強引で一方的な解雇や職場閉鎖に批判が高まっている。

「行政組織の効率化」を口実にDEIに取り組む部署や人材が排除される、ということも起きており、大学への介入と相まって「思想攻撃」への不安が高まっている。冷戦が始まった頃、大学や政府組織から共産主義の影響を排除する「マッカーシズム」が台頭し、多くの人材が職場を追われた。

トランプの号令で始まった「リベラル叩き」は、わずか100日で中国の文化大革命を思わせる動きとなり、米国社会を引き裂いている。

◆力による決着

トランプ政治の特徴は、対話やルールを排除し、大統領権限で独善的に執行することだ。右往左往する高関税政策が示すように、一貫性に乏しく、突然の思いつきのように政策が発動される。底流にあるのが「力まかせの支配」だ。

ウクライナ戦争の停戦、パレスチナ問題の処理、世界の懸案になっている重い課題を、トランプは「力による決着」で済まそうとしている。

先に述べたようにウクライナ停戦は、ロシアの占領地を認めることで着地させる考えだ。「ロシアによる主権侵害は不問にする」ということで、これまで米国やEU・日本などがことあるごとに主張してきた「力による現状変更は認めない」は空文化され、力ずくで奪った領土を承認する、という態度である。

同じことがパレスチナでも進んでいる。イスラエルの残虐・非道は国際世論の批判の的になっている。容赦ない空爆で犠牲になるのは子供や女性など非戦闘員だ。食糧ルートを断たれガザ地区は飢餓が広がっている。力ずくでパレスチナ人を排除するイスラエルをトランプは後ろから支え、生き残ったパレスチナ人は、ガザ地区から離れた場所に収容する、という道筋を描き、サウジアラビアに協力を打診している、という。

「イスラエルが力で奪い取った地域を認める」という筋書きである。トランプは最初の外遊先はサウジアラビアになる、と見られている。「パレスチナに2つの国家を」という国連の調停を空文化し、力ずくで奪い取ったイスラエルの「既得権」を支持することで決着を図ることがトランプの腹づもり、と見られている。

政府組織の解体や大学への介入、リベラル価値観への攻撃など、国内のもめごとも、大統領権限で強引に押しまくる「力による解決」がもたらした混乱、社会的分断である。

権力・暴力で突破する姿勢は国際的には「剥き出しの国家エゴ」として現れる。グリーンランドやパナマ運河をアメリカの支配下に置く、カナダを51番目の州にする、など一方的な主張は身勝手というしかない。

「MAGA=アメリカを再び偉大な国に」というキャッチフレーズの中身は、アメリカの身勝手を世界に押し付けることに他ならない。その結果、アメリカ経済はマイナス成長に陥り、IMF(国際通貨基金)も世界経済見通しの下方修正を迫られた。

「アメリカは他国に食い物にされた」という倒錯した被害者意識、国内に蔓延(まんえん)する満たされない思いを「敵」を作ることで支持者として引き込むという政治手法、一貫性のない場当たり政治が、世界やアメリカを窮地に追い込む。トランプ100日で、政権の弱点が鮮明になった。(文中一部敬称略)

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