п»ї これでコロナに勝てるのか? 感染を身近に感じた日『山田厚史の地球は丸くない』第188回 | ニュース屋台村

これでコロナに勝てるのか? 感染を身近に感じた日
『山田厚史の地球は丸くない』第188回

5月 14日 2021年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

今月の連休中のことだった。女房が、不調を訴えた。孫の面倒を見て疲れが出たのかもしれない。体がだるく微熱がある。5日は朝からせき込むようになった。喘息(ぜんそく)の症状が現れ、掛かりつけの医者に電話した。出ない。休診らしい。徒歩で行ける医院も閉まっていた。

やむなく昼過ぎからクルマで病院を訪ね歩く。どこも閉まっている。やっと見つけたのが救急医療センター。普段は夜間の応急医療を担当し、地元の医師が輪番制で当たっている。連休中はほとんどの開業医が閉まっているため、昼からやっていた。

PCR検査で稼ぐ医院も

 熱を測ると38度。症状は咳(せき)と倦怠(けんたい)感。「コロナに感染している恐れがある」と診断された。「PCR検査が必要だが、ここではできない。外部の医療機関で検査を受けてください」と指示された。

今度は、PCR検査ができる病院探しだ。心当たりの医院を訪ねたが休診。再び救急医療センターに電話して聞くと、1か所やっている医院がある、という。電話すると「4時までなら対応できます」。

ギリギリに飛び込んで、検査をお願いした。唾液(だえき)を採った。結果は翌日わかるという。陽性だったら、私は濃厚接触者だ。心配になり、「私も検査を受けたい」と申し出た。

「健康保険証はお持ちですか?」と聞かれ、「今は持っていないが」と答えると、「お持ちでなければ私費になります」という。値段を聞くと、「2万1000円」。だったらこれから家に取りに行きます、というと、4時で受付が終わるので、私費で受けるか、明日にするかにしてくれ、という。午前は9時から開いているというので、翌日の検査を受けることになった。

翌日、朝一番に出かけた。すでに5人ほどが待合室にいた。PCR検査を待っている人たちだ。検査には医師の問診が必要ということで、順番を待った。この中にも陽性者がいるかもしれない、と思うと落ち着かなかった。

40分ほど待って医師の問診が始まった。事情を話し、自分もPCRを受けたい、と告げると、「奥さんの結果が陽性だとわかってからでないと、公費による検査はできない」という。昨日と話が違う。2万1000円払って検査を受けろ、というのだ。   

新橋など盛り場では3000円でPCR検査をしてくれるところもある。同居者がコロナ感染の疑いがあるなら、自治体として積極的に検査をして感染の拡大を防ぐのが筋ではないか。

 「おっしゃられることはわかるが、いまの仕組みではそうなっていない。奥様の結果は夕方に出る。その前にPCR検査するなら2万1000円かかる」と医師はいう。

「自己責任」による防衛策

先日、われわれがYouTube(ユーチューブ)でやっている「デモクラシータイムス」に出演した東京大学先端科学技術研究センター名誉教授の児玉龍彦氏は「コロナ感染を抑えるには早期発見、早期処置が欠かせない」と訴えていた。発熱から74時間以内にアビガンやイベルメクチンを投与することが重症化を抑える一つの方策だ、という。だとしたら、早いに越したことはない。そこで医者に質問した。

――女房の検査結果は夕方ということですが、陽性と判明したらどうなるのでしょう?

「陽性だったら、その先は保健所が判断することですが、入院となるか、ホテルなどに隔離されるか、自宅で様子を見るか。症状によって保健所が決めます」

――行き先によって治療は違いがあるのですか?

「どこに行くかは、経過を見る接触の頻度が違うということでしょう。入院なら容態が悪化すればすぐ対応できる。ホテルなら定期的に電話が入るとか」

 そうか、こうやって自宅に放置され、容態が急変し命を落とす人がいるのだな、と思った。

――施される医療サービスや治療はどうなのでしょう

「コロナは基本的に治療薬というものがありません。重症化すれば酸素吸入とかエクモとかありますが、対症療法です」

 重症化するまで手立てはない。あとは自分の体力と免疫力の勝負らしい。

――アビガンとかイベルメクチンとかが効くといわれますが、薬は使わないのですか?

「保険適応されていませんし、特別なところでないと使っていません。熱や咳があれば、咳止めや解熱剤程度です」

だとすると、無症状である私は、陽性になっても自宅待機かホテルに閉じ込められるだけだろう。

  連休中に会った友人の言葉を思い出した。

「コロナにかかっても、何もしてもらえない。ホテルに隔離され、外出はダメといわれるが、治療はなく薬もない。コンビニ弁当が3食出るだけだ。重症化しなければ何もしてくれない。重症化は命を失う恐れがある。生き残れるかは運次第。究極の自己責任だ」

彼が「自己責任」を全うするために採った策は「イベルメクチンをネットで買う」ことだった。感染初期に服用すると効果はある、といわれながら厚生労働省の認可を得られず、一般に処方されていない。他人に服用を進めると薬事法違反となる。日本の薬局では手に入らないが、シンガポールなどで売られているらしく、ネット通販で手に入るという。彼は、感染した時に備えて「お守り」として常備している。「陽性がわかっても治療なし」という現実には薬事法に違反しても自分を守る、というのだ。

◆杓子定規な答えばかり

さて、問題は女房だ。医者から処方されたのは漢方薬の葛根湯(かっこんとう)、炎症止めのトラネキサム酸、痰(たん)を切るカルボシスティン。いわゆる風邪薬だ。コロナ治療ではない。女房は、すでに喘息の症状が出ている。コロナによるものだったら危ない。だが入院となっても、せいぜい解熱剤と咳止めだろう。重症化したらアウトだ。場合によっては、入院が「今生(こんじょう)の別れ」となるかもしれない。

私は、私費によるPCR検査はせずに帰った。女房の結果は午後3時過ぎにわかる。その時、改めて考えることにした。医者からは「電話して結果が出ているか確認してから病院に来るように」、といわれた。

自宅に戻ると、女房は床に伏せていた。3時半に病院に電話した。結果は出ている、という。「陰性ですか?」と聞いたところ、「電話では教えられない。個人情報だから本人が病院に来てくれ」という。「具合が悪いので行かれない」と告げると、「委任状があればご主人でもいい」という。そこで私が出向いた。

受付で「結果を聞きに来ました」というと、「先生からお伝えします。お待ちください」と来院者の最後尾で待たされた。「診察に来たのではない。陰性か陽性か、結果を教えてもらいに来ただけだ」といっても、「結果は私たちからお伝えできません」と拒否された。

「本人が結果を待っている。陰性か陽性か教えてくれればそれだけでいい。必要なことがあれば、後でゆっくり聞く」と話しても、「陰性とか、陽性とか、私たちは言えません」と杓子(しゃくし)定規な答えが返ってくる。

医療事務員や看護師にそうした権限がないのは承知している。以前、PCR検査を大学で受けた時、不在の医師に代わって事務職の女性から結果を聞いたことがあった。彼女は「異常値が出たとは聞いていませんよ」と暗に陰性であることを教えくれた。

狭い待合室に6、7人が座っている。この中にウイルスを大量に吐き出すスーパースプレッダーがいるかもしれない。マスクを二重にした。

1時間ほど待って、朝会った医者にまた対面した。

「結果は陰性でした」と測定値が書かれた紙を見せてくれた。だったら、受付でこれを見せてくれればそれで済んだのに……。

女房は結果を心配して待っている。行きがけに「陰性だったら電話してね」と言われた。陽性と聞くのはつらいだろうな、と思った。

この医院の対応は、コロナ感染の疑いをかけられ、検査結果を待つ患者の「気が気でない思い」など全く考えていないようだ。医者の都合だけにこだわる冷たい対応。

 「唾液を調べる検査は、鼻の粘膜を取る検査に比べ精度が低い。せいぜい7割の確率だと思って用心してください。ところで、あなたは検査をやらないのですか」と改めて問われた。3割の「外れ」があるなら、私も念のため検査したほうがいい、と言わんばかりである。それは一理ある。だが、この病院ではやりたくない。ここはPCR検査を食い物にしているように思えた。PCR検査は保険点数にして1回1500点だ。1万5000円である。これに診療費を上乗せして2万1000円を稼いでいる。

多くの医院は、コロナの恐れがある患者が集まるPCR検査に積極的ではないが、開業まもないこの医院は、PCR検査を売り物にしている。結果は検査を受けた本人に来院させて告げる。仮に女房が陽性だったら、咳であえぎながらこの待合室で1時間ほど待たされ、その間、ウイルスをまき散らすだろう。

検査結果は個人情報であり、医師が問診と一緒に結果を知らせる、というのが原則だろうが、症状のある患者を呼びつければ、狭い待合室は感染場所となる。患者の立場を考えているとは思えない。

◆「コロナとの戦いの熱気」どこに?

感染症対策には3原則がある。①感染源を見つけ出して断つ(検査で患者を見つけ隔離する)②感染する機会を減らす(ロックダウンや3密回避)③社会的免疫の獲得。政府がやっているのは②だ。ステイホーム、不要不急の外出自粛、飲食店の閉鎖など緊急事態宣言発令がこれに当たる。③はワクチンだが、先進国で日本はとんでもなく遅れていて、「ワクチン敗戦」といわれている。①の主役はPCR検査というのが世界の常識だが、これも日本は怠ってきた。

最近になって、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は「従来の感染実態とは違った積極的検査戦略が必要」などと言いだし、PCR検査や抗体検査の必要性を述べている。これまでは「偽陽性が出る」「精度に問題がある」などと否定的だったが、「大量にウイルスを吐き出すスーパースプレッダーを見つけることができる」などと言いだしている。

コロナは無症状の感染者がウイルスを、まき散らし感染を広げた。高齢者施設など集団感染が発生しやすいとことでは、PCR検査で無症状の陽性者を見つけ出すことが大事だとされ、東京五輪に参加する選手は毎日PCR検査をすることになっている。

だというのに、いまだ希望者は、保険適用も効かない2万1000円というのは信じ難い。感染の疑いがある人には無償で検査する仕組みがあっていいはずだ。無症状のスプレッダーを見つけ出すのは、感染対策のイロハのイではないのか。

お上(かみ)が庶民を説教するような、べからず集の「自粛命令」ばかりで、行政が真っ先に立って感染予防策を取る、という姿勢が見えない。

医療機関については、重症者を抱える専門病院などの奮闘ぶりに頭が下がるが、最前線である医院は、連休はお休み。患者は放置され、医師は上から目線で、自分らの都合ばかり押し通そうとする。そんなことだから、ワクチンもPCR検査も進まず、病床数は世界一でもコロナ病床は不足している。

日本は、果たして「コロナと戦っている」のだろうか。懸命の努力をしている医師や看護師がいる一方で、私が実感した医療現場には「戦いの熱気」はほとんど感じられなかった。

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