п»ї 精神福祉保健法を治安維持に利用してはいけない 『ジャーナリスティックなやさしい未来』第108回  | ニュース屋台村

精神福祉保健法を治安維持に利用してはいけない
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第108回 

5月 08日 2017年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括。ケアメディア推進プロジェクト代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。

◆事件防止の改正案

今年2月の通常国会で上程された精神保健福祉法の改正案は、昨年7月に発生した神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」での惨事を受けての再発防止という目的が明記されたことで、政府の治安維持目的があらわになった。精神保健の専門家や日本精神神経学会は一斉に反発し、同学会は「犯罪の防止を目的として精神保健福祉法の改正を行うべきではありません」との見解も発表している。

政府は理由部分を修正しているものの、やはりどんな言葉で繕おうにも、改正案をめぐっては、「治安維持」の思惑と周辺の忖度(そんたく)が入り交じっているようで、不気味悪な印象のまま、懸念は拭えない。

今回の改正案に先立って厚生労働省が示した「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案の概要」の冒頭には「相模原市の障害者支援施設の事件では、犯罪予告通り実施され、多くの被害者を出す惨事となった。二度と同様の事件が発生しないよう、以下のポイントに留意して法整備を行う」としている。

これは初めて同法が「事件の再発防止」という治安維持のための道具となってしまうことを意味する。同法の目的と精神医療の役割は本来、病状の改善など精神的健康の保持と増進である。再発防止は、この目的と共存するものではない。

事件の再発防止を優先すれば、その理由により、精神疾患者への人権の蹂躙(じゅうりん)が行われることが予想される。治療が二の次にされてしまう環境をつくってしまうことになる。犯罪者でもなく、ただ体調不良の延長で精神疾患になった人が本人の同意なく、自由を奪われるケースもあるのである。

◆本人の同意なく

今回の改正案の中で特徴的なのは、「措置自治体による退院後支援計画の作成」「機銃先の保健所設置自治体による退院後支援計画に基づく相談指導」「退院後支援計画期間中の移転時に自治体間で退院後支援計画の内容等の通知」「入院時の退院後生活環境相談員の選任」の4点。

好意的に捉えれば、入院中から退院後に至る自治体を中心とした地域支援の充実、とも言えるかもしれないが、前提が「事件の再発防止」となるならば、すべては「管理」である。

特に退院後支援計画を作るための個別ケース会議の参加者について、厚労省は「必要に応じて本人も参加」する、としているのは、必要がなかったら本人不在で計画を立てることも可能との意味であり、本人抜きで支援計画を作ることは、精神保健分野では違和感を覚える。「欠席裁判」で、望まぬ医療を受け入れなければならない当事者の人権は、どのように守っていけばよいのだろうか。

◆忖度は必要ない

そもそも「津久井やまゆり園」事件は、本質がヘイトクライム(憎悪犯罪)との意見が根強い中で、改正案はそれを隠ぺいすることになる。本質も見極めできないまま、精神疾患者への監視が強まり、管理体制が強化されるのは、「刑罰国家化」の一環とも受け止められそうだ。

この管理も、精神保健に携わる者として、現状でも相談等業務が煩雑な中で、福祉サービスの決定まで多くの時間を費やさなければならない現状からすると、管理強化は支援の妨げになる可能性もある。

さらに改正案で管理強化するのは自由が失われた文化をつくるだけ。精神保健で少しずつ積み上げてきた治療優先の考えや人権意識を大事にしたい。ここで厚労省の首相官邸に対する忖度は絶対に必要ない。厚労省は医療の本質、医療の王道を進むべきである。

※『ジャーナリスティックなやさしい未来』過去の関連記事は以下の通り
第88回 「まとも」とずれたやりとりに福祉の本質を見だす
https://www.newsyataimura.com/?p=5856#more-5856

精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/
■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link
■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/

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