п»ї 「特区」が生む許認可の落とし穴 安倍さんが気付かない疑惑は「構造」『山田厚史の地球は丸くない』第94回 | ニュース屋台村

「特区」が生む許認可の落とし穴 安倍さんが気付かない疑惑は「構造」
『山田厚史の地球は丸くない』第94回

5月 26日 2017年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

前川喜平(まえかわ・きへい)・前文部科学事務次官の記者会見が急きょ開かれると聞き、25日午後、東京・霞が関の弁護士会館に出かけた。前川さんは弁護士を伴って報道陣の前に現れ、1時間余にわたり「国家戦略特区」を巡る加計(かけ)学園の獣医学部新設認可の不透明さを指摘し、官邸主導政治の歪みを語った。

権力者に異を唱えることがいかに大変か、印象的な会見だった。

◆「官邸の横暴」を暴露

1月まで日本の文部科学行政の実質的な責任者だった。文科官僚には珍しい柔軟で思い切りのいいタイプの官僚だった。

天下り問題で引責辞任した時も、職員を前に「私の失敗体験を糧に皆さん頑張ってください」とサバサバしたあいさつで去っていった。

実家は専門機器のメーカーの前川製作所、実妹は外相・文科相を務めた中曽根弘文参議院議員の妻。恵まれた境遇も幸いしてか、役人らしからぬ役人のスタイルで通した。役人が躊躇(ちゅうちょ)する案件、例えば朝鮮高校の無償化にも挑戦した。

だからだろうか。並みの官僚OBなら黙って見過ごす「官邸の横暴」を暴露した。

菅義偉(すが・よしひで)官房長官が、存在すら認めず「怪文書」としてあつかう行政文書を「確実に存在する。担当者から報告として受けたもので私の手元にも同じものがある」と証言した。

「平成30年4月の開学を大前提にして欲しい」「官邸の最高レベルが言っていること」「総理のご意向」などと総理府幹部が文科省の担当者にプレッシャーをかけた様子が記された文書だ。

獣医学部の新設は52年間、門が閉ざされていた。特区を使ってこじ開けようとしたのが疑惑の発端だ。認可されたのは安倍首相の学友で、頻繁にゴルフや会食を重ねる人物が経営する学校法人。ここでも昭恵夫人が保育施設の名誉園長を務めていた。森友学園と同じ「お仲間の優遇」が疑われたのである。

◆規制緩和の裏側に「許認可」という官僚支配

国家戦略特区は全国一律の法制度に例外を設け、社会実験として事業を認めようというものだ。特区はアジアなどの途上国が先進国の資本を受け入れるため、経済制度で治外法権を認めてきた制度だ。

途上国の仕組みを日本の導入することを正当化する理屈が「岩盤規制に風穴を開ける」だった。積み上げてきた行政のルールでは新しい産業が生まれない。つまり特区の事業は地域限定の規制緩和である。

規制緩和なら役所の口出しが少なくなるように思うが、現実は逆だ。獣医学部の新設を巡り、文科省は官邸の横車と戦わざるを得ないほどだった。

規制緩和の裏側に「許認可」という官僚支配が埋め込まれている。それが日本の特区である。自由に事業をする特権を企業に与えるのは役人だ。中国の「社会主義市場経済」と極めて似た構造である。

国家の管理を意味する社会主義と、自由な企業活動が前提となる市場経済は、相いれない概念だ。ところが中国では見事に調和?している。

鄧小平は「先に豊かになった者がどんどん金持ちになる自由」を認めた。それが中国の市場経済だ。その結果、大儲けする企業が続出し、中国は豊かになった。まぎれもなく市場経済の勝利である。しかし、誰もが豊かになれるわけではない。国家が「あなたなら事業をしていい」と認めた者だけが自由に金儲けができる。これが許認可である。

許認可の権限は官僚や共産党員が持っている。国家・党が許認可を管理する。だから社会主義なのだ。

社会主義市場経済の弱点は、腐敗が蔓延(まんえん)すること。許認可を得ないとカネ儲けができない。ならばカネを払ってでも許認可を買おう、という輩(やから)が現れる。自然なことである。

◆許認可は腐敗の温床 中国に似てきた日本

森友学園も加計学園も、設立認可という許認可を発端に疑惑が持ち上がった。

籠池(かごいけ)さんや加計さんがなぜ安倍首相に近づいたのか。尊敬しているから? お友達だから? それだけではないだろう。権力者だから。許認可を握っているから。本人が指示しなくても、周りが忖度(そんたく)してことをうまく運んでくれるから。

その証拠が「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っている」という行政文書なのだ。中国のように多額のワイロが動いていないことがせめてもの救いだ。

悪いのは「特定の業者」にだけいい思いをさせる特区の構造だ。規制緩和と言いながら、役人は自分の権限を大きくする制度を作りたがる。特区は経済産業省が編み出した、経産官僚が権限を拡大する仕組みである。

文科省の担当者に「総理のご意向」と圧力を掛けた総理府幹部とは、経産省から出向している藤原豊審議官と文書に書かれている。

中国でも問題になっているが、大儲けとワンセットになっているから許認可は腐敗の温床になる。共産党の権威が揺らいでいるのは許認可を握っているからだ。

安倍首相は分かっているのだろうか。寄って来るお友達と仲良くすることが地雷原を歩くことだと。友達を特別扱いしたことは、世間的にバレている。正式に認めたくないから、どんな手を使っても異議申し立てを抑え込む。前次官が反旗を翻すなら、「お前は出会い系バーに行っていたのだろ」と脅す。相当焦っているからだろう。

告発者には人格攻撃だってする。そのお先棒を大新聞が担ぐ。許認可の不正を告発するには体を張らなければいけない。日本もそんな国になった。中国に似てきた。

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