п»ї オーストラリアの銃規制の現状 『国際派会計士の独り言』第25回 | ニュース屋台村

オーストラリアの銃規制の現状
『国際派会計士の独り言』第25回

2月 27日 2018年 経済

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内村 治(うちむら・おさむ)

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オーストラリアおよび香港で中国ファームの経営執行役含め30年近く大手国際会計事務所のパートナーを務めた。現在は中国・深圳の会計事務所の顧問などを務めている。オーストラリア勅許会計士。

米フロリダ州パークランドの高校で今月14日、この高校の元生徒(19)が銃を乱射し生徒17人が死亡する事件がありました。米国の学校で起こった銃撃事件は、今回も含めて今年に入ってすでに18件に上り、全米で銃規制強化の必要性について改めて注目されています。

当然、米国における銃保有の歴史的、文化的な背景、米憲法で定める米国民が認められている銃器の保有と携帯の権利(人民の武装権―合衆国憲法修正第2条)、米国における連邦政府と州政府との連携の難しさ、全米ライフル協会(NRA)の政治的影響力など、米国に住んだことのない筆者には理解出来ないことが多々あります。ただし、米国民の大切な命が多数失われていること、特に米国内の学校で頻繁に起きている銃撃事件を考えれば、長い間手をこまねいてほとんど何も出来ない米政府に対して、他の国のことながら、やはり憤りと焦燥感を感じずにはいられません。

◆タスマニア島での事件の教訓

ここで思い出されるのが、オーストラリア本土の南方にあるタスマニア島の観光地(実際にはポートアーサー牢獄跡地)で1996年4月28日に起きた、28歳の男によるセミオートマチックのライフルを使用した銃撃事件で35人の尊い命が奪われた後のオーストラリア政府の対応です。

筆者は当時シドニーに住んでいましたが、オーストラリア、そして世界中を震撼(しんかん)させたニュースと、その後のハワード自由党連立政権(当時)の銃犯罪に対する断固たる、そして迅速な対応に驚かされました。ハワード首相のリーダーシップもあって、オーストラリアの連邦、全州警察長官会議が同年5月10日、自動小銃などいわゆる「攻撃銃」の所持や売買を原則として禁止する「銃規制法」を導入することで合意しました。タスマニア島での事件からわずか12日後のことです。

オーストラリアは、歴史的に特に地方では狩猟や害獣退治などのため銃器は多数使用されていました。しかし、この1996年の銃規制法でいくつかの施策が実行されました。具体的には、①自動式またはセミオートマチック式銃器の厳格な管理システム導入。実質的には民間保有は禁止②全豪銃器登録システムの導入と銃器購入前の28日間の事前審査などの身元確認③未成年の保有制限④銃器保有に関しての安全管理義務⑤2億3千万豪ドルを予算化して、民間保有の銃器60万丁以上を自主提出させて買い取り、政府主導で廃棄――などです。

一部には、これを契機に古い銃器を新しいものに取り替え、数の上ではあまり減っていないのではないかという意見もありましたが、違法銃器から合法的なものに替わるなどして、その後は銃器による重犯罪や自殺が激減しており、効果は大きいのではないかと思います。

英BBC放送によれば、オーストラリアの銃保有率は人口100人に対して、1996年は17.5丁でしたが2016年には13.7丁となり、やはり絶対数は減ってはいます。

一方、2014年12月にシドニー中心部のカフェで、イラン系オーストラリア人の男による人質立てこもり事件があり、容疑者は射殺され、人質2人が犠牲になりました。オーストラリア政府は2017年、テロ対策などの一環として、不法所持の銃器を提出すれば罪に問わない恩赦期間を同年7月1日から9月30日まで設けました。豪司法省によれば、9月初めの段階で2万6千丁近くの銃器が集まったといいます。こうした政府の対策によって、1996年のタスマニア島での事件以降、銃器が絡んだ大規模な発砲事件は起きておらず、銃による自殺も激減していると報道されています。

◆強硬に反対するNRA

トランプ米大統領は今回のフロリダ州での事件を受けて、司法省に対し、1発ずつしか撃てないセミオートマチック銃を連射できるようにする改造装置を禁止できる規制案の作成を指示しました。その一方で、事件の犠牲者の親や生徒らとホワイトハウスで面会した際に、学校での銃乱射を防ぐために訓練を受けた教師や学校職員に銃を携行させるとの案を示され、賛意を表明しています。

銃規制の動きに対し、銃器市場に支えられているNRAが強硬に反対するだろうと思われる米国では、銃器の絶対数を減らしたり、銃器保有に関する安全管理を強化したりするのは極めて困難だと思われます。

今回の事件で拘束された容疑者は、以前から危険人物として監視されていたといいます。にもかかわらず今回のような事態を招いた理由の一つとして、全米の身元照会データベース(全米犯歴照会システム)がきちんと機能していなかったという報道もあります。事件を契機に、現役の高校生も含めた銃規制に関する国民世論が高まっているようですが、ほぼ野放し状態にある米国の銃社会が規制強化に向けて前進してほしいと切に願っています。

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