п»ї クーデター宣言でイベント解禁?『トラーリのいまどきタイランド』第6回 | ニュース屋台村

クーデター宣言でイベント解禁?
『トラーリのいまどきタイランド』第6回

8月 29日 2014年 文化

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トラーリ

寅年、北海道生まれ。1998年よりタイ在住。音楽やライブエンターテインメント事業にたずさわる。

 
   5月のクーデター宣言から早3カ月がたった。タイは軍の統治下におかれ、バンコク市内は表面上、平穏になった。

今年の初め、とくに1月から3月までの間は政情不安の影響で、公的行事、民間催事ともに延期や中止を余儀なくされていた。しかし全権を掌握したプラユット・タイ陸軍司令官が、民政移管のための議会選挙の実施は早くても2015年後半になる、と発言したせいか、6月後半からはイベントが戻り始めている。

まるで、クーデター宣言によってイベントが解禁になったようだ。海外から見たクーデターのイメージとは対極的に、タイ国民の間では、軍政により「治安が維持された」「これでしばらくは安泰」という意識が拡がっている。デモの座り込みや不測の衝突の懸念なく、週末は自由に外出ができるようになった。イベントプロモーターは、向こう1年間は大きな変化や衝突はないであろう、と動き出したのだ。エンターテインメントに携わる私としては喜ばしい動きである。

◆興行意欲、アジアと欧米の間で温度差

タイ人は「テーサガーン(お祭り、催し)」が好きだ。誰の主催であろうと、無料で食べものがあり、にぎやかなイベントには足を運んでみる。

去る6月15日に、軍事政権がハッピーイベントを催した。バンコク市内のルンピニ公園をはじめ、数カ月前にデモ隊が占拠していたサイアムエリアの通りを歩行者天国にした。

「ほほ笑み、愛、幸せを国民に返す」と銘打ったイベントで、軍事政権がタイに平穏をもたらしていることを精いっぱいアピールしていた。プロの歌手によるコンサートのみならず、警察の楽隊、警察犬までステージパフォーマーとなり、露店では無料で料理を振る舞い、家族連れが群がっている。歩道橋の上から目に入ったその光景は、外国人の目から見ると、数カ月前のデモ屋台とこの日の軍のイベントは、なんら変わりはないであろう。

6月に入り開催されたイベントの例を挙げると、X JAPAN のメンバーであるYOSHIKIのクラシックソロコンサートは大盛況であった。6月28日に予定されていた「きゃりーぱみゅぱみゅ」のソロコンサートは残念ながら11月に延期となったが、注目度の高い「きゃりーぱみゅぱみゅ」が日本のマスコミからのバッシングを避けるためには、延期はやむを得ない。

確かに、戒厳令下のタイにおいて、「きゃりーぱみゅぱみゅ」のキャラクターを全面に出して陽気にコンサートを開催していたら、日本のマスコミがポジティブ思考で記事に取り上げるとは思えない。タイのイベントプロモーター最大手BEC TEROの関係者によると、今回の「きゃりぱみゅ」コンサート延期は例外として、韓国を始めとするアジア人アーティストのタイにおける興行意欲は、クーデター後もほぼ変わらないという。

問題は欧米諸国。とくに「この軍事クーデターに正当性はない」と厳しく批判する米国は、ブッキングしていたアーティストのほぼ全員がタイでのコンサート中止の意向を示したと聞く。欧米系アーティストの興行収益に頼る同社には痛手が大きい。 

◆先行するKポップ人気に追いつけ

米国がエンタメ業界において非協力的な姿勢を示すなか、日本の業界の姿勢はどうか。

大手の音楽事務所は、クーデター宣言直後は随分警戒していたが、イベントプロモーターを始め現場の意見に耳を傾け、現地の危険が少なく平穏が保たれていることを知ると、少しずつではあるが、タイへの渡航を認めるようになってきた。日本の音楽業界が、国内でのんきに構えていられないことが背景にあると思われる。

8月23日にインパクトアリーナで開催された「TOFU Music Festival 2014」。BEC TEROが昨年開催した「ソニックバング」を改称し、同グループのラジオ局「TOFU POP RADIO」が主催、韓国と日本のアーティスト5組を招へいした音楽フェスティバルだ。

アラフォーの自分が、中高生の甲高い声に包まれながら視察した。出演者は、日本からTEMPURA KIDZ(テンプラキッズ)、GOT 7(ゴットセブン)、SuG(サグ)、Lucifer(ルシファー)、2NE1(トゥエニィワン)。

トップバッターは、「きゃりーぱみゅぱみゅ」のバックダンサーとして注目され、昨年ソニーレーベルからデビューした平均年齢15歳のダンスユニット。「TEMPURA KIDZ」としては海外で初めてのライブと伺ったが、堂々としたパフォーマンスに感心した。

GOT 7というヒップホップ系のアイドルグループは、ステージを右から左に移動するだけで悲鳴の嵐。耳が痛いほどであった。日本のジャニーズとは異なり、多国籍のメンバーが集まるユニットで、タイ人のメンバーがいるためMC(トーク)においても言葉の壁がなく、人気の理由が理解できるグループであった。その後、数年前にタイの飲料メーカー「OISHI」がテレビコマーシャルに起用したバンド「SuG」や、ボーカリストがタイの映画に出演することで一定のファンを持つ「Lucifer」が演奏した。

総合的にバランスのとれた音楽フェスティバルであった。しかし、韓国グループが舞台に登場する前と後では観客の減少が激しく、どうしてもJポップがKポップの土俵を借りている印象が否めなかった。Jポップアーティストだけで1万人の動員は相当厳しいことを目の当たりにした。

GOT 7のステージが終わった途端、観客が一斉に外に出た。トイレ休憩かと思いきや、楽屋出口の周りまで全力疾走だ。チケットが買えず出待ちする女子高生たちに加わり、300人ほどがカメラやスマートフォンを手にして集まっていた。

日本のアーティストがここまでのファンを獲得するにはかなり時間を要すると思うが、BEC TEROを始め日本を応援するプロモーターがいることは事実だ。おんぶに抱っこでもいい、戒厳令下でもいい、今のうちにタイに足を運び、露出を高めてもらいたい。

TEMPURA KIDZのステージ=どちらも筆者撮影

チケットを買えず会場外で応援する韓流ファン

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