アメリカの「ならず者支配」
政権内部からの「告発」
『山田厚史の地球は丸くない』第309回

3月 20日 2026年 国際

LINEで送る
Pocket

山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

筆者は経済記者として企業の盛衰を見てきた。権力を持つ「元気な老人」が企業を破滅させる場面にあちこちで遭遇した。肉体的にエネルギッシュでも、頭の中は年相応に傷んでいる。見ていてわかるのは人事だ。猜疑(さいぎ)心からイエスマンばかり集める。歳とともに思い込みも強くなる。柔軟な判断ができないから、経営を誤る。なまじ元気だから、取り巻きは恐れおののき、会社もろとも転げ落ちる。

アメリカ大統領のドナルド・トランプは1946年6月14日生まれ、79歳だ。よくあれだけ飛び回り、あちこちで演説し、記者を罵倒(ばとう)するなど緊張ある日々をこなせるものだと感心する。だが、頭の中はヨレヨレになっているにちがいない。最近の言動は、明らかに異常だ。

◆「ならず者国家」に成り下がったアメリカ

大統領2期目のスタートから「移民狩り」や「関税障壁」など、常軌を逸した政策が目立ったが、今年に入ってからの「暴力沙汰」は尋常でない。

ベネズエラに突如侵攻し、大統領夫妻を拉致して政権を転覆した。国家主権や国際法など糞(くそ)食らえと言わんばかりの暴挙である。2か月も経たないうちに今度はイランを攻めた。核開発の是非を巡る交渉をしている最中に、一方的に奇襲した。テヘランに集まった政府要人を一斉攻撃し、最高権力者ハメネイ師を殺害、革命防衛隊の中心メンバー40人余を殺した。国家転覆を狙った騙(だま)し討ちだ。

気に食わない相手だから、と言っていきなりミサイルを撃ち込んで国家の指導者を殺害する。国家としてのテロ行為であり、アメリカは「ならず者国家」に成り下がった。人々は、このような大統領を許すのだろうか。

閣僚はじめホワイトハウスの要人たちは、トランプに忠誠を誓って地位や職務を得た人たちである。腹のなかで「おかしい」と思いながらも黙っている人がほとんどだろう。そんな中で、職を辞して抗議する人物が現れた。

米国家テロ対策センターのトップ、ジョー・ケント氏(45)だ。トランプ大統領に宛てた手紙をSNSに載せ、「良心に照らして、進行中のイランでの戦争を支持することはできない」と辞任を表明。イランはアメリカを攻撃する準備などしておらず「差し迫った脅威ではない」と述べ、攻撃の正当性そのものに疑問が投げかけた。

更に、トランプ政権は「イスラエルとその強力な対米ロビーの圧力によって、この戦争が始まった」と主張した。今回の軍事行動は、純粋な安全保障上の必要性ではなく、イスラエルの情報操作に後押しされた可能性に言及。短期間で勝利するという見通しも非現実的だと批判し、長期化したイラク戦争と同じ過ちを繰り返すことになると警告した。

テロ対策や実戦の経験を持ち、妻をシリアの戦闘で失った経験のある人物が「これ以上、根拠の薄い戦争で犠牲を出すべきではない」と訴えたことは、単なる政策批判を超えた倫理的な告発と受け止められている。

トランプ大統領は、ケント氏を「弱腰」と批判、「辞任してよかった」と言い放った。しかし、問題は個人の資質ではなく、戦争判断の根拠にある。情報機関の中枢にいた人物が公然と「イスラエルの働きかけ」だと指摘し、「アメリカ人が血を流す戦いではない」と戦争そのものに異を唱えたことは、政権にとって打撃だ。

◆トランプの目立つ「衝動的統治」

軍事行動の正当性が内部から否定された。議会や同盟国の支持に影響が及ぶ可能性がある。トランプ政権を支持していた強硬派内部からの離反だ。今秋の中間選挙を前にトランプの求心力低下につながりかねない。そして「中東の無用な戦争を避ける」という従来の路線との矛盾が露呈した。

トランプ大統領の言動の危うさは以前から指摘されていたが、2期目になって、判断の一貫性や統治能力そのものに疑問符が付けられるようになった。

貿易赤字を埋めるため、と言いながら、気に入らない相手に関税をかけまくった。関税率もトランプの気分次第でコロコロ変わり、いつの間にか他国を威嚇(いかく)する道具となった。

イランへの軍事攻撃では、戦争の理由がブレまくった。当初は「差し迫った脅威」が理由だったが、その根拠は示されず、そのうち「イランの体制を転換する」となり、「核開発を阻止するため」へと変わっていった。

時間とともに揺れ動く戦争理由に、「安全保障の吟味よりイスラエルと一緒にイランを叩くという政治判断が先行した」とメディアは指摘、開戦の正当性に疑問を投げかけ、政策判断の不安定さを示す典型例として報じている。

日常的な政策運営にも「場当たり性」が目立つ。大統領令や重要政策が、十分な調整や検討を経ずに打ち出され、短期間で撤回することも多い。官僚機構や専門家の分析や検討をすっ飛ばし、トランプ主導で決まる政策が目立つ。複数の専門的知見を踏まえて結論を導く従来の枠組みではなく、大統領個人の直感や政治的判断に過度に依存するため「政策決定プロセスそのものが崩れている」と分析され、「衝動的統治」などと呼ばれる。

発言が過激になり、品位を欠くことが最近の特徴で、政敵や批判的な記者に侮辱的な言葉を公然と浴びせる。外国首脳や同盟国に対しても攻撃的な表現が見られ、外交上の摩擦を招く要因ともなっている。「大統領として守るべき規範の崩壊」と指摘され、国家の信頼性に与える影響が懸念されている。

軍事と政治の境界が曖昧(あいまい)で、イラン攻撃のように重大な軍事判断が短期間で下され、その背景に戦略的熟慮よりも政治的思惑が優先されているのでは、と報じられている。エプスタイン問題や中間選挙対策などが、トランプ個人として重要となり、メディアから「危機管理の私物化」と批判されている。

最近のトランプの言動は「判断の一貫性の欠如」、「政策決定過程の劣化」「感情的・攻撃的」とされ、大統領としての資質が問われている。

◆「良心に従って職を辞す」一筋の光明

一連の指摘は、個別の失策を超え、「国家運営が安定的に行われているのか」という根源的な問いに直結している。イラン攻撃とそれに続く高官辞任は、その象徴的な事例として位置づけられており、トランプ政権の統治スタイルそのものが改めて厳しく問われる局面に入った。

思考力が衰え、感情の制御が効きにくくなった老人が、誰も逆らえない権力を握ったことで、アメリカの暴走が止まらなくなった。

大統領の年齢に上限はなく、有権者が選挙で判断するという原則が貫かれている。「年齢ではなく能力と実績で評価すべき」という考え方だが、現実には、認知機能や集中力の低下、長時間の高ストレス業務への耐性といった問題が論点として浮上している。大統領は、戦争や外交、さらには核兵器のボタンまで最終判断を担う。「一人の判断ミスが世界に重大な影響を及ぼす」という構造そのものがリスクとみなされている。

アメリカには一定の安全装置も存在する。国家安全保障会議などによる集団的意思決定、議会やメディアによる監視、さらには大統領の職務不能時に副大統領へ権限を移す憲法修正第25条などがある。

しかし実際には、軍事行動や核使用の最終判断は大統領個人に委ねられる場面が多く、「制度があっても最後は一人の決断に依存する」という現実は変わらない。トランプの一連の行動が、その危うさを公然化した。世界最大の軍事大国のトップが暴走し、誰も止められない。国際社会も、自国に不都合が生じることをためらい、踏み込んだアクションを取らない。

そうした中で米国家テロ対策センターのトップの「良心に従って職を辞す」という行動は、一筋の光明である。「MAGA(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)」にいた人物の離反であり、トランプ支持勢力の分裂の兆しとも読める。「ファーストペンギン」(群れから海に最初に飛び込むペンギン)として筋を通す行動をとったケント氏の後を続く動きに注目したい。(文中一部敬称略)

コメント

コメントを残す