п»ї 厳しいけどあたたかい、優しいけどあまくない教育現場 『ジャーナリスティックなやさしい未来』第131回 | ニュース屋台村

厳しいけどあたたかい、優しいけどあまくない教育現場
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第131回

4月 23日 2018年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。

◆生きるための力

大阪府堺市西区にある「やしま学園高等専修学校」は学校教育法に基づいた専修学校で、全日制の商業科には他者と同じペースで勉強することが苦手だったり、学習面につまずいてしまったりする生徒、人や他者と話したり、自分の意見を伝えることが苦手な生徒に対し、「社会的自立」を目標に、生きるための力を身に着ける教育を行っている。

商業科の3年(一般の高校に相当)を卒業した生徒に、教育の延長として2003年からは2年間の専攻科を設置し、さらなる2年の研究科も設けている。

私が「法定外シャローム大学」設立にあたり、見習うべき先駆者であり、大先輩でもある。これまで、集会や発表会で登壇するやしま専攻科の校長先生の話をうかがってきて、その話の面白さに惹(ひ)かれていたが、直接お会いした校長は「仲間や」と言って私を歓迎してくれた。

◆本当のことを言う

うかがった日はちょうど入学式。あいさつに立った校長先生は「20年、この入学式をやっていますが、緊張しています。そして、この緊張しているということをみんなの前で言えたことが、心に正直に言えたことが、よいかなと思っています。本当のことを言うのは大事なことです」と話したと紹介し、私に「本当にそう思う。60歳を超えても、緊張して、それに正直になれたことで、生徒もついてくるんとちゃうかな」と言う。

この学校では「生徒に相手にされなくなったら、魅力のある教師ではない」とのことで、「まだ、私も生徒から声をかけられ、相手してもらえているから、やれている」のだと話す。

昼休みに校内の思い思いの場所でご飯を食べる生徒らと気軽に言葉を交わす校長の姿は、楽しんでいるようで素敵だ。

◆自律と自立

ここで「校長先生」として、名前を書かないのは、校長先生が「私なんか見本にも何にもならへん。書くに値しません」とおっしゃるからで、恥ずかしさもあるだろうから、あえて「校長先生」としてみたい。

その校長先生のこれまでの教育経験は私にとっては胸を打つ話ばかり。福祉と教育はまったく違う、という観点が共有できたことを皮切りに、先生は就労優先で訓練重視の「教育」に疑問を呈す。自律があってはじめて自立があるはずなのに、社会は早急に自立を促していることを懸念する。

つまり自律とは「他からの支配や制約を受けずに自分自身で立てた規範(基準・ルール)に従って行動すること」、自立が「他への従属(強力なもの、中心的なものに従う)を離れ独り立ちする、独立、他からの支配や助力を受けずに存在すること」(やしま研究科パンフレット)という。

まずは「自律」。そのために教育が必要なのは私も日々痛感している。

◆「障害」使わず

やしま専攻科の教育目標は「自分と向き合い、自己決定をもとに仲間と生活すること」であり、そこを「成人期を迎えるまでに、ありのままを出し合える仲間と生活感のある活動を中心に学習し、楽しいことや苦しいことも分かち合い、ゆっくり自分を見つめ、自分探しをする場所」という。

「ゆっくり」がキーワードだから、焦ることなく、学生のペースを重視しつつも、自律を目指す姿勢だ。

校長先生は「障害」という言葉を軽々しく使うのを嫌った。その言葉が印象付けるネガティブイメージは日本社会の常だから、いっそ「使わない」のがよいとの選択。学校ではそれを「障害」と思わないことも重要だ。校長先生曰く、同校の教員の在り方は「厳しいけど、冷たくない」「優しいけど、あまくない」という。

基本は学生に対して、真剣であること。そして、自分と学生に正直であることなのだと教えられ、「仲間」として身の引き締まる思いをしている。

※『ジャーナリスティックなやさしい未来』過去の関連記事は以下の通り
第124回 福祉ではなく、「教育」をやる覚悟について
https://www.newsyataimura.com/?p=7192#more-7192

精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/

■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link

■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/

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