小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住27年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。
高市首相は米国のトランプ大統領にどこまで貢げば気が済むのであろうか。トランプに会うたびに抱きついたり踊ったり。トランプに媚(こび)を売る高市首相の振る舞いは、とても独立国の宰相とは思えない。こんな首相をトップにいただく日本は、トランプにとって都合の良いATM(現金自動出入機)にしか見えないであろう。トランプは日本から無尽蔵に金をむしり取るに違いない。その手法の一端が、週刊東洋経済5月30日・6月6日合併号によって報道された。
◆トランプによる日本搾取のスキーム―週刊東洋経済報道
「対米投資87兆円の罠(わな)」と題された記事である。その記事については後述するが、まずはこの対米投資87兆円の内容とその経緯について説明したい。
昨年1月に2期目の米国大統領に就任したドナルド・トランプは、関税を武器に自国の貿易不均衡の是正に走り始めた。ベースライン関税・相互関税・フェンタニル関税・232条関税、そして301条関税と、5つのレイヤーの関税を設定し、これを使い分けることによって各国から武器・エネルギーの購入などの約束を引き出した。
また、中国対比で決定的に劣後している工業製品の製造能力を向上させるため、トランプは各国に対米投資を迫った。極めて高い相互関税比率をちらつかせながら、同盟国を中心に製造業の米国投資を迫ったのだから各国もたまらない。EU(欧州連合)6000億ドル、韓国3500億ドル、台湾2500億ドル、マレーシア800億ドルと、各国は次々にトランプの軍門に下った。
日本政府も当時の石破政権が相互関税15%引き下げを条件に、5500億ドルの対米投資を表明した。そして2025年9月4日に日米両国によって「日本国政府およびアメリカ合衆国政府の戦略的投資に関する了解覚書」が署名され、発効した。
この覚書を読むと、日本政府は「投資」を行うのではなく、トランプが指定する半導体・医薬品・鉱物・エネルギーなどのプロジェクトに「資金提供」することが謳(うた)われている。また驚くべきことに、プロジェクトから発生する現金収入のうち当初50%は米国に配分されてしまう(日本の資金がすべて回収できた後は現金収入の90%が米国に配分される)。日本が提供した融資金の回収はかなり困難を極めるといっても過言ではない。
ただし、この覚書の中には「日本が融資を拒否する権利を有する」ことが明確に記載されている。今年2月20日には米国連邦最高裁判所で、トランプの相互関税が「大統領権限を逸脱している」として違憲判決を受けている。相互関税についてはこの覚書の中にも履行状況をにらんで引き上げの可能性について述べられていたが、そもそも相互関税が違憲であるならば、この覚書の順守義務についても疑問が残る。現に台湾のTSMC社によるアリゾナ州の工場拡張案件を除いて、EU、韓国、マレーシアなどは米国への投資を実行していない。
ところが、25年10月に高市政権が発足すると間髪を置かずにトランプが来日。日本政府はトランプへの手土産のように「対米投資事業内容をまとめたファクトシート」を公表。さらにトランプ相互関税の違憲判決を待たずに2月17日にはトランプが「日米対米投資の第1弾」として約360億ドル(約5.7兆円)のプロジェクトを発表した。
この第1弾のプロジェクトの内容が明らかになって、初めて「米国トランプによる日本搾取(さくしゅ)のスキーム」が判明した。この驚愕(きょうがく)のスキームを詳細にレポートしたのが、冒頭に挙げた週刊東洋経済の記事である。
◆ほぼ確実に不良債権化、回収不能になる融資
記事の内容を簡単に紹介しよう。対米投資第1弾として360億ドルの資金を提供するのは、①オハイオ州のガス火力発電所建設 ②テキサス州の原油輸出ターミナル建設 ③ジョージア州の人工ダイヤモンド製造施設建設――の3つのプロジェクトである。
貸し出し主体となる国際協力銀行(JBIC)によると、4月17日には貸し出し契約を締結し、すでに4月中旬には初回融資も実行されている。トランプが2月17日に対象プロジェクトを明言してからわずか2か月という早さである。
ここに、このスキームの第一の問題点がある。ガス火力発電所や輸出ターミナルなどの建設について、建設業者や建設費用など何も決まっていない段階で貸し出しを約束している。借入人は何も実体のない特別目的事業会社であり、資産も保有していない。また、いったん火力発電所や輸出ターミナルが営業を始めたとしても、電気の購入者や購入条件、ターミナルの使用者や使用条件など何も決まっていない。とくにガス火力発電所のオハイオ州の建設予定地は、米国エネルギー省管轄下の旧ウラン濃縮施設跡地であり、汚染物質の除去費用や訴訟リスクを考えるといくら費用がかかるかわからない「いわく付き物件」である。販売・運営・技術・環境面で何も検討されずに融資が行われたとしたならば、資金回収の可能性は極めて薄い。
さらに問題なのは、貸出金の返済原資となるプロジェクトの現金収入の半分が前述の通り、米国に渡ってしまうことである。通常20年程度の返済期間を要する火力発電所のプロジェクトファイナンスが、今回のケースでは返済に40年かかってしまう。果たしてこの発電所が40年も営業を続けていられるだろうか。
銀行員である私の経験・常識から考えると、今回の融資はほぼ確実に不良債権化して回収不能になる資金供与である。言い換えると、今回の360億ドル(約5.7兆円)の対米投資は「貸し出しの形態を借りた日本から米国への資金贈与」である。
今回の360億ドルの対米投資を通して明らかになった驚くべき事実がもう一つある。それは対米投資の貸し出し主体である。360億ドルの1/3にあたる120億ドルは国際協力銀行(JBIC)が出しているが、残りの240億ドルは三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3行が提供している。そして、この3行の融資金に日本政府が全額出資している日本貿易保険(NEXI)が100%保証をしている。NEXIの自己資本は現在8000億円程度しかなく、これら3行の融資金が焦げ付いた場合、日本政府が補填(ほてん)する仕組みとなっている。JBIC、NEXIとも日本政府そのものであり、対米投資総額5500億ドル(約87兆円)が焦げ付いたとすると、これらはすべて日本国民の負担になる。
たまたまこの対米投資総額87兆円は、25年度の日本の一般会計税収84兆円に近い数字である。日本国民が必死になって納付した1年間分の税金を、高市首相はそっくりそのままトランプに差し出そうとしている。日本国民に対する、とてつもない裏切り行為である。
◆対米投資に群がる日米の政商たちの錬金術
東洋経済の記事はさらに続く。それは、日本の銀行による多額なドル調達能力に対する懸念である。5500億ドルの2/3を日本の銀行が融資するとなると、邦銀は3600億ドルの米国ドルを調達しなければならない。これは邦銀メガ3行が現在マーケットから借り入れているドル預金の総額に近い金額である。
一般にはあまり知られていないが、金融緩和期を除いて邦銀は通常でもドル調達に苦労している。このため、日本政府は外貨準備金からの転貸やFRB(米連邦準備制度理事会)からの借り入れなどの奇策も考えているようであるが、乗り越えるべきハードルは多い。
マーケットからのドル借り入れを除いて、一般的に邦銀が使用するドル調達方法に「円投入」と呼ばれるものがある。手元にある円を売ってドルを購入する取引である。ところが、3600億ドルもの巨額な「円投入」を行えば、恐ろしい副作用が発生する。それが急激な「円安」であり、輸入価格上昇を通した「物価高・インフレ」である。
日本国民は現在、この輸入インフレの荒波の真っただ中にいる。しかしこの対米投資によってさらなる輸入インフレに襲われ、私たちの生活が一層厳しくなる可能性が残されている。
こうした懸念に対して、片山さつき財務大臣は6月28日の記者会見で「外国銀行による融資を検討している」ことを明らかにした。もしこれが事実であるならば、日本の銀行によるドル調達不安が一部だけ解消されることになる。しかし米FRBの銀行検査を受けるモルガン銀行やシティ銀行などの米国銀行が、返済原資も定かでないプロジェクトファイナンスに参加するとなれば、この融資が不良債権と認定される可能性が高い。このため、これら米国銀行は日本政府向けに融資する可能性が高い、と私は見ている。また、今回表明のあった米銀融資は総額330億ドルの天然ガス開発案件2件のみで、引き続き日本の民間銀行が引き受ける3447億ドルの調達懸念は残っている。
東洋経済はまた、6月20日・6月27日合併号のコラム「匿名有識者の少数異見」で驚くべき内容を報道している。まずコラムでは、3月19日付英紙ファイナンシャル・タイムズ(FT)電子版の「ソフトバンクグループ(SBG)が対米投資で60億ドルを要求」という記事を紹介。第1弾のプロジェクト360億ドル(5.7兆円)のうち、オハイオ州のガス火力発電所案件はSBGが米国に建設を計画しているデータセンター網に電力を供給する発電所案件である。高市首相の訪米時に催された夕食会で、トランプの隣に座るSBGの孫正義氏の姿を覚えている人も多いだろう。孫氏は米国でのデータセンター建設計画をトランプに売り込むだけでなく、最大の難関の一つである電力供給に日本の対米投資資金を使うことを計画。さらに60億ドル(約1兆円)の金を手数料として要求した、というのである。
ガス火力発電所のプロジェクトは総額330億ドルだが、その20%近くの60億ドルをもらおうという、あまりにも虫のいい話である。この1兆円は最終的には1000億円にまで削られたそうだが、それでも大金である。
5500億ドルの対米投資に群がる日米の政商たちの錬金術の一端がここに見えるような気がする。87兆円もの日本の資金がこれら日米の政商たちにむしり取られるとしたら、あまりにも情けない話である。
◆高市内閣の所業は「国賊もの」
さらに高市首相は今年の訪米に合わせて、3月19日にワシントンで開催された高市・トランプによる首脳会談で総額730億ドルの第2弾のプロジェクトを発表した。繰り返しになるが、相互関税が違憲判決を受け、他国が対米投資を実質的に見合わせている中での話である。これは高市首相によるトランプへの貢ぎ物と言っても過言ではない。
この730億ドルの対米投資の詳細は割愛するが、こうした多額の資金提供の議論が国会で真剣に行われたのであろうか。本来これだけ多額の資金を提供するならば、活発な議論があってしかるべきである。しかし私はこうした議論について承知していない。日本国民がつけを払わされそうな資金提供について、国民への開示がないまま推し進めているとしたなら、高市内閣の所業は「国賊もの」である。私はそう考える。(文中一部敬称略)











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