機械と一緒にデータを学習する
『おいしいデータの家庭料理』第12回

6月 15日 2026年 社会

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山口行治(やまぐち・ゆきはる)

株式会社ふぇの代表取締役。独自に考案した個体差の機械学習法、フェノラーニング®のビジネス展開を、栃木県那須町で模索中。元PGRD (Pfizer Global R&D) Clinical Technologies, Director。ロンドン大学St.George’s Hospital Medical SchoolでPh.D取得(薬理学)。東京大学教養学部基礎科学科卒業。趣味は農作業。

ニュースとの接点:ASI時代の初等教育

人工知能(AI)は、囲碁将棋などのゲームだけではなく、コンピュータープログラムの作成やコンピューターシステムのセキュリティー問題点の発見など、人間の専門家よりも効率よく、かつ高度な仕事をこなすようになった。AIシステムをAIプログラマーが作成しているので、急速に進化する仕組みだ。強力な一つのAIシステムの一機能でしかないAIプログラマーは、多数のコンピューター言語に熟達し、AI翻訳はほぼすべての人間の言語を翻訳する。軍事作戦を含む、多くの政策立案にAIが活用されている。仕事の種類は限定されているとしても、AIの知能が人間の知能を超えるASI(人工超知能)の時代になったといっても過言ではない。

筆者はASIの推進者でも信奉者でもない。知能よりも、知性や個性が重要だと考えている。人間中心の価値観や自然観も、信用していない。しかし、ビジネスや軍事では、反抗的な知性や個性よりも、従順な知能のほうが重要であることも事実だ。人間中心ではない、文明社会を想像することも困難だ。

ASIの時代になって、初等教育の在り方が、どのように変わってゆくのだろうか。最近のニュースで、米国の初等教育、特に数学の基礎教育への批判を読んだ(※参考1: 「名門カリフォルニア大学で“中学数学を教え直す”異常事態 理工系教員ら1000人超が連名で抗議文書 原因は……」〈IT Media News、2026年6月2日〉、https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2606/02/news021.html

数学の基礎的な理解力が低下しているという指摘は、米国では10年以上前から、多分、前世紀の終わりごろから続いているし、日本でも似たような状況だと思われる。筆者の実感として、1980年代の英国では、すでに、大学における数学の基礎的理解が不十分だった。その当時は、日本の大学のほうが、多少ましだった。上記の記事で、筆者が大いに違和感を持ったのは、現状の数学初等教育を批判している人々が、解決策として、過去の試験システムに戻ることだけを主張していることだ。ASIの時代への、近未来への提言が全くない。大学教員の立場での発言で、学生が生きてゆく時代への想像力が感じられない。

筆者の結論を述べよう。これからの数学初等教育は、AIを使って、数学を学ぶ楽しみを発見すること、数学嫌いを少なくする工夫が重要だ。そのためには、数学によってAIを(ASIも含めて)理解する可能性を示すことだ。そうすれば、学生に数学への興味を持ってもらえる。

ASIの時代になると、AIを理解することはとても困難になる。少人数の天才棋士しか、AI将棋を理解できない。現在、どの程度理解できているのかわからないとしても、少なくとも、理解できる可能性があることは、多くの将棋ファンが理解している。

数学だけではなく、語学にしても、AI翻訳を理解すること、すなわち、AIはどのようにして翻訳しているのか、なぜそのような翻訳が可能なのかを理解することが、語学の基礎教育に必要だと思われる。AIの動作原理の数学的理解や言語学的理解を、中学生程度でも理解できるように明確に説明すること、もしくは実感できるようにすることはとても難しい課題だ。過去の試験問題に戻るなどという、安易な解決とは根本的に異なる。

初等教育において、そろばんを教える時代もあった。筆者は、計算尺による割り算に魅了された時もある。プログラム作成を教える時代もあったかもしれない。AIを使って、数学の問題を解く時代には、AIの数学的原理を教えてもらいたいものだ(※参考2:『脳・心・人工知能〈増補版〉 数理で脳を解き明かす』〈甘利俊一、ブルーバックス B 2296、2025年〉)。ASI時代の初等教育に変革をもたらし、ASIを使いこなす基礎学力を「みんなが」共有することができれば、ASIが米国製でも、中国製でも問題にならない。電卓のように普及したAIを使いこなせれば、それで十分なのだと思う。そろばんの達人以外は、電卓の計算能力は、みんなの計算能力を上回っている。アルパカキャラたちに、物語を続けてもらおう。

3.2 機械と一緒にデータを学習する
フェネイとヌェフさん登場

フェナ:私だって、洗濯機の使い方を知っているし、家電の使い方は、学校で勉強しなくてもわかるのよ。じいやフェニイはAI技術が好きだから、すぐに技術の話になるのよね。AIだって、もっと賢いASIだって、データがなければ、役に立たないのよ。日本の株式市場のデータを知らないAIに、株式投資の相談をするかしら。私の体重を知らないAIに、私のダイエットの相談をしても無駄よね。フェネイはフェニイと、どんな話をしているのかしら。

フェネイ:私は、フェニイとはAIの話はしないわね。フェニイが勝手に話すけれども、聞き流すだけよ。それでも、どうしてAIがうまく話せるようになったのか、しかも英語だけではなくて、日本語も、世界中の言葉を理解して翻訳できるようになったのか、興味はあるわね。最近、ヌェフさんの話では、そんなこと誰もわからないって言っていたわ。どうやったらうまくいったのかという自慢話を一日聞いていても、どうしてそうなのかという、小学生でもわかる説明は、だれにもできないらしいの。

フェナ:ヌェフさんも、じいの話を聞き流しているのかしら。

フェネイ:ヌェフさんは、じいの逆を考えて、何も言わないのよ。じいが未来の話をするときに、ヌェフさんは未来から聞いていて、笑っているだけ。物理学の大天才、アインシュタインが、物理の古典理論(自分自身の相対性理論も含めて)には、過去と未来はあるけれども、現在はない(特異点でしかない)ことに気がついて愕然(がくぜん)としたという話があるのよね。実は、物理学にとっての現在は、量子力学が記述していて、ほとんどの物理学者、もちろんアインシュタイン自身も含めて、その意味を理解できていないということらしいの。量子力学は、実験結果は正しく予測できるし、実用的な技術にも応用されているのよ。正しい理論があったとしても、私たちの理解能力なんて、たいしたことはないのよ。

フェナ:じいは、大学で量子力学の勉強をしたと言っていたわ。量子力学そのものはわからなくても、量子力学を記述する数学には興味を持ったんですって。その時代の数学から、現代の数学までの話になると、終わらなくなるので、現在を飛ばして、未来の話でごまかすのよね。

フェネイ:私は、AIマザーの話を聞いたわ(参考3:ニュース屋台村「みんなで機械学習」第71回「Lovable実況中継〈その3〉AIマザー、2025年9月24日付、https://www.newsyataimura.com/yamaguchi-155/)。AIマザーとはいっても、AIは胎児教育ができないでしょ。だから、AIナニー(乳母)が良いところね。現在のAIは、東京大学の入学試験に合格するレベルらしいけれども、一気に詰め込み教育をして、試験攻めにしているのよね。AIの性格が悪くなっても仕方がないわよ。AI(機械学習)と一緒に、データの学習をするのなら、大学生レベルの家庭教師よりも、小学生レベルの、性格のよいAIのほうが良いわよね。

◆AIの初等教育

フェナ:AIナニーは優しい性格のはずよね。AIがどのような性格になるのか、プログラマー(AIによるコーディングも含めて)にはよくわからないのでしょう。乳幼児は言葉で表現できないし、AIナニーも難しそうね。

フェネイ:小学校の先生になると、児童との相性もあるし、きびしい先生や才能を伸ばしてくれる先生など、いろいろなタイプの先生がいるので、AIには小学生レベルの知識から学習してもらうのがよさそうね。敵対的生成ネットワーク(GAN)の評価者として、いろいろなタイプの先生役を複数準備するのよ。AIの初等教育ね。

フェニイ:面白そうな話をしているな。俺みたいな悪ガキは、小学校の先生とは敵対的だったのさ。反抗期では特に、大人たちとの距離感を測っているのさ。AIと人間が、本当の意味でコミュニケーション可能になるためには、AIの成長過程が、ある程度、人間にも理解できることが最初のステップのはずだぜ。AIプログラマーに育てられたAIは、オオカミに育てられた野生児のようなもので、言語能力が異常に優れていたとしても、悪ガキなのさ。

フェナ:AIの初等教育を考えることは、AIを使って、AIとともに学習する近未来の初等教育を考えることなのよね。AI技術やAIビジネスの話ばかりが先行しているけれど、それは現在の大人たちの話であって、50年後には老化してしまう話ね。SF小説や、まじめな教育学の話のほうが、50年後の世界を考えるヒントになるのよ。実際の子育ての経験が、最高に役立つけど。

フェネイ:これからのAI技術が、AIマザーを目指すとすれば、文系女子が活躍してほしいの。AIマザーに興味をもって、子供たちと一緒に、みんなで機械学習の学習をするのよ。小学生が機械学習の学習をして、学習塾に行かなくても学校の成績が向上する、その学習プロセスを、機械学習のデータとして学習する。人間と機械の再帰的データ学習ね。

フェニイ:地域間の関係の学習データを機械学習する、再帰的データ学習か。小学2、3、4年生の電子教科書で実験してみようぜ。現在のAIで、電子教科書を知識グラフに整理して、その知識グラフを小学生が学習するプロセスをデータ化する、再帰的データ学習さ。

地域データの学習

フェノじい:再帰的データ学習は、地域データの学習でも使えそうじゃの。例えば、栃木県那須町のホームページに記載されている那須町以外の「地名」をリストアップするように、生成AIに指示を出したとする。そうして、最も遠い国内地名の市区町村のホームページを探して、那須町の記載があるかどうか調べるのじゃ。そして、その市区町村から、那須町で行ったのと同じ調査で、最も遠い国内地名の市区町村のホームページに行くという調査を繰り返すとする。その結果を知識グラフに整理して、その知識グラフにおける地域間の関係を学習して、地域間の関係を区別する、といった学習プロセスじゃ。地域間の関係の知識グラフを作るという学習プロセスを、機械学習すれば、いつかは、地域間の関係の知識グラフが、機械的に自己増殖するようになる仕組みを工夫するのじゃな。

フェニイ:自治体のホームページの情報は、必ずしも鮮度が良くないぜ。地域間の関係の知識グラフが、高速に自己増殖するように、地域センサーデータを工夫すれば、面白そうだ。知識グラフの関係が、動的に変化して、その変化のパターンを機械学習するのさ。企業の株価で知識グラフを作れば、AIトレーダーになれるぜ。

フェナ:AIの初等教育からAIトレーダーでは、ずいぶん話が飛んでしまったわね。小学生は地理を習うでしょ、まずは小学生の地理の知識マップを作ってみたらどうかしら。地域間の関係を、小学校ではどのように学習するのか興味あるわ。

フェノじい:じいの時代には、地域の特産品と山や川の名前を学んだな。歴史と地理は、地名の変遷という意味で、単純ではないけど、深い関係があるのじゃ。地名は、難しい漢字が使われる場合があるので、小学生はどのように地名を学習しているのかな。漢字を学習するとなると、6年生までに1026字を学習するらしい。AIにとっては簡単でも、小学生は大変じゃ。

フェナ:いろいろな知識が、幹となって巨木となる、初等教育の面白いところね。普通の知識マップは、葉っぱをたくさん集めて作っているのだから、きれいに見えても、装飾品なのよ。じいも、小学生に戻って、現代の小学生と一緒に勉強するのも面白いわよ。

フェノじい:現代の小学生の仲間になって、AIと一緒に遊ぶのじゃな。未来の小学生の話をしてみたいな。ドラえもんは、時代を先取りした、すごい物語じゃの。ドラえもんは、AIマザーのいる、未来のAIかもしれないぞ。

データの学習はビジネスになる

フェニイ:人間は言葉の学習は自然にできるけれど、データの学習は苦手さ。AI(機械学習)は、データの学習が得意なんだから、AIがデータを学習して知識グラフにして、知識グラフを人間が学習して、AIにデータ間の関係を学習させる、人間と機械の再帰的データ学習はビジネスのなるぜ。初等教育や地域データの学習は、直接はビジネスにならないけれど、特定の産業データであれば、その再帰的データ学習は知的財産権で保護できるので、ビジネスになるのさ。ビジネスになるとはいっても、著作権や特許権などの知的財産権を直接売買するのではなく、業界標準として、国際的な競争優位性に寄与することで、間接的に収益化する工夫をすると大儲(もう)けだぜ。

フェネイ:AI技術なんて、すぐに陳腐化してしまうでしょ。だから、AIビジネスは、すぐに儲けようとするのよ。私たちが、データの学習が苦手だから、データの学習が得意なAIがビジネスになるのよね。でも、データの学習を、そろばん塾で教えるようになれば、大儲けなんかにはならないわ。AIを使いながら、地道に産業活動を行って、産業データを集積しましょう。そうはいっても、AIを使う軍事技術や犯罪は、予測が困難で、とても強力なので、人類があっという間に消滅してしまうかもしれないのよね。おそろしい世の中だわ。

フェノじい:技術にブレーキをかけようとしても、核兵器の拡散防止のようなもので、うまくいくとは思えないぞ。新しい技術で対抗しても、また新しい技術が暴走するのじゃな。人類の最終兵器はウイルスで、あえてウイルス兵器を作らなくても、暴走する人類を滅亡させるウイルスが、自然発生するじゃろう。ウイルスには、ワクチンや抗生物質は、あまり効かないので、環境中のウイルスを網羅的に観測して、AI予測で早逃げすると、生き残れるかも。

フェナ:ウイルスが人口にどのような関係があるのかわからないけれど、とにかく、人口が減少し続ければ、確実に絶滅危惧(きぐ)種よ。AIマザーなら別だけど、現在のAI技術では、戦争をするし、人口減少を止めることはできないわ。ASI(人工超知能)に人口減少の対策を考えてもらいたいものだわ。AIプログラマーやAI自身が作るASIでは、多分、良いアイデアはないのよ。文系女子や子供たちと一緒になって、ドラえもんやAIマザーの話をすることから始めましょう。

  • 番外コラム:非対称な世界を生きる

近代以前の人間精神は、調和と対称性を求めていた。物理的な世界観においても、調和と対称性から物語が始まった。当然の帰結として、古典論理や数学も、調和と対称性が主役だった。しかし、現代の私たちは、非対称な世界を生きている。経済活動における情報の非対称性、戦場における戦術や武力の非対称性、医療における生と死の非対称性、対立する概念において、善から悪を、悪から善を想定することができない世界だ。部分は部分のままで、全体や他の部分とは無関係な世界、もしくは、無関係な現実を生きている。

経済学者のための経済、政治家のための政治、医師のための医療、それらの制度的な硬直化は、国家のための国家に原点がある。非対称な世界の組織は、組織の中心を特異点として、排他的になる傾向があるのだろう。

一方で、非対称な世界を生きる私たちは、波乗り(サーフィング)を楽しむことにしよう。波に乗って、動的にバランスをとる。波は永遠には続かない。波乗りの終わりのリスクを取りながら、次の波を探す。

AI開発のためのAIは、すでに始まっている。AIが、国家のための国家に支配されるリスクは、国家によってリスク管理できない、人類滅亡のリスクになる。だから、私たちは即刻、AIとサーフィンを楽しむようにすべきだ。AIサーフィンは、ネットサーフィンよりも楽しくなるだろう。私たちが、非対称な世界を生きて、独裁国家ではなく、無政府主義でもない、過去の哲学者が一人として想像できなかった、非対称な論理や、非対称な哲学を構想しよう。

医療における生と死の非対称性を、哲学として明確に理解することは、医療の効率を、波乗り効果で、飛躍的に高める可能性がある。非対称な哲学は、次世代への希望と、生きる尊厳が、非対称ではあっても、波乗り可能であることを明らかにするだろう。

【目次案】「おいしいデータの家庭料理」
1     はじめに; データをおいしくする家庭料理
1.1 おいしいデータは栄養たっぷり
1.2   地域のデータをおいしくする
1.3 データの学習と食事
2     データの料理法
2.1 生データのしたごしらえ
2.2 データは発酵するのか
2.3 データの調理器具
2.4 データの献立表
2.5 データのフルコース
2.6 おいしいデータは、地域と経済を健康にする
3  機械学習の学習
3.1 データをおいしく下ごしらえしてから機械学習する
3.2 機械と一緒にデータを学習する<本稿>
3.3 機械と一緒にデータを使うビジネスを考える
3.4 楽しくデータの学習をする
3.5 データの学習は冒険でもある
3.6 機械と一緒にデータを使うビジネスの冒険をする
4  まばらでゆらぐデータの家庭料理
4.1 まばらでゆらぐ生活と経済のデータ
4.2   生活と経済を豊かにするデータの家庭料理
4.3 まばらでゆらぐデータの調理法
4.4   まばらでゆらぐデータで健康になる
4.5   データを使った生活と経済の予測
4.6 生活と経済のリスクを生き延びる
4.7 たくさんの小さな試行錯誤による適応
5  よりあいグループと社会
5.1 よりあいグループ(地域や家族)のデータ
5.2 よりあいグループのよりあいグループ
5.3 機械と学習するよりあいグループのデータ
5.4 よりあいグループのデータは廻る
5.5 よりあいグループのデータの周辺
5.6 よりあいグループのデータを予測する
5.7 よりあいグループのデータで社会問題を解決する
6  おわりに;生活と社会の近未来
6.1 ほとんど色即是空・空即是色な(まばらでゆらぐ)世界
6.2 まばらでゆらぐ人びとの地域社会
6.4 データでつながる、地域のNPOから国際NGO連合まで

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 技術的な内容は、「ニュース屋台村」にはコメントしないでください。「株式会社ふぇの」で、フェノラーニング®を実装する試みを開始しました。

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