п»ї 河野がはまった「マイナの罠」政敵排除 笑う岸田 『山田厚史の地球は丸くない』第239回 | ニュース屋台村

河野がはまった「マイナの罠」
政敵排除 笑う岸田
『山田厚史の地球は丸くない』第239回

6月 09日 2023年 政治

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

マイナンバーカードのトラブルは、河野太郎デジタル相の責任が問われかねない状況になってきた。

「デジタル社会のパスポート」と謳(うた)って岸田政権の目玉政策となったマイナカードだが、混乱は河野氏の暴走が招いたという筋書きが浮上している。来年の総裁選で対立候補になりそうな河野氏を潰す岸田首相の策略という見方も出ている。

◆「保険証廃止凍結」に踏み込んだ読売社説

医療保険者証(保険証)とマイナカードの一体化などを盛り込んだ関連する法律の改正案が6月2日、参議院本会議で可決・成立した。現行の保険証を来年の秋に廃止し、マイナンバー保険証と合体する。医療機関や保険医の団体から「入院患者や高齢者の中には自分で申請できない人もいる。保険証を廃止したら無保険診療など混乱が起きかねない」と危惧(きぐ)する声が上がっていた。

現場に渦巻く反対を押し切り自民・公明は維新・国民民主の賛同を得て強行突破。その直後、カード所有者と公金受け取り口座の名義が違う登録が13万件もあることが発覚した。

すでにトラブルは各地で多発している。他人の住民票が出てきたり、交付金が別人に振り込まれたり、システム設計に問題があることをうかがせるトラブルが相次ぎ、混乱は更に広がる恐れさえある。

読売新聞は7日、「今からでも遅くはない」との社説を掲げた。「健康保険証をマイナンバーに一本化するのは無理があろう。廃止方針を一旦凍結し、国民の不安を払拭(ふっしょく)するのが筋だ」と主張した。

朝日新聞、東京新聞、毎日新聞は「マイナ保険証」に批判的だったが、読売新聞はマイナンバー制度に理解を示し、推進の旗を振ってきた。その読売が「保険証廃止凍結」へと踏み込んだ。大手メディアの論調がそろい、流れは決まった、と見る関係者は少なくない。

防衛予算倍増、トマホークミサイルの配備、憲法改正など読売新聞は安倍晋三元首相の政策に寄り添い、一心同体のように応援してきた。読売グループ本社の渡辺恒雄代表取締役主筆は「開成高校の先輩・後輩」をテコに岸田文雄首相と絆を結び、「与党メディア」であることを色濃く押し出している。

その読売が政権の看板政策である「マイナンバー制度」に「待った」をかけた。社説の責任者は主筆渡辺氏、いったい何が起きたのか。

◆来秋に総裁選、河野の芽を摘んでおく?

読売は、官邸取材で首相周辺と「ツーカーの関係」にあるといわれる。「官邸はマイナ保険証を今のやり方で導入することはリスクと考え、方針転換へと動く」と、読売は判断したのではないか。

政治記者によると、自民党内では「岸田は混乱の責任を河野太郎に負わせて事態の収拾を図ろうとしている」という見方や、「マイナ保険証の失敗を理由に河野潰しへと動いている」との観測が広がっているという。

「そもそも政府は昨年6月の段階では、現行の保険証とマイナ保険証の『選択制』を打ち出していた。希望すれば、カードだけで受信を可能にするという構想だ。だが、河野デジタル相が10月、唐突に来年秋の保険証廃止を表明した」。読売の社説はそう指摘する。つまりマイナ保険証を巡る混乱は、河野デジタル相が暴走したからだ、と暗に指摘している。

国会は会期終了が迫り、重要法案が次々を成立している。立憲民主党や共産党、れいわ新選組など野党は抵抗しているが、与党が数に物をいわす国会運営になす術(すべ)はない。政権を担う自民党の関心は、来年秋の総裁選へと移った。

岸田首相が再選されるか、対立候補として誰が出るのか、それとも無投票で再選されるのか。

岸田首相の母体・宏池会は弱小派閥だ。茂木派、麻生派などの協力を得てなんとか政権の座についた。対抗勢力は最大派閥の旧安倍派。前回は高市早苗元総務相を担いで争ったが、総裁選が終われば協力関係を結び政権を支えている。岸田首相はこの構図を維持して再選にこぎ着けるか、が焦点で、そのためにはライバルの芽を摘んでおく必要がある、という読みだ。

前回争った高市氏(2位)は、後ろ盾だった安倍元首相がいなくなり失速気味。3位だった河野氏の出馬を封じれば、再選の目が見えてくる。残るは幹事長として取り込んだ茂木氏くらい、という見方が永田町で一般的だ。

河野氏は麻生派だが、菅義偉前首相の子飼いでもある。安倍氏亡き後、存在感を高めている菅氏の動きは要注意。河野氏は反原発を主張するなど自民党では異色、国民的な人気もあり、岸田首相にとって気になる存在だ。

健康保険証が廃止になる来年秋は総裁選と重なる。高齢者や入院患者に無保険が広がるようなことが起これば政治不信に火がつく。トラブルが多発するマイナカードはこの際、根本から見直す必要がある、という思いは官邸にもあるという。

◆自民一強、争いは権力内部へ

そこで浮上したのが新マイナカード。マイナカードに不信が高まっている時に次のカードを発表する、というのは「現行のカードは不十分」と言っているに等しい。安全性強化を謳う新カードに切り替えることを機に制度を再点検し、不安心理を鎮めるという狙いがあるのだろう。

混乱の責任を担当相の河野氏に取らせ、首相が全面に出て保険証廃止を撤回する。政敵排除とトラブル鎮静化を同時に果たせる。読売社説の裏にそんな策略を読む人もいる。

だが、マイナカードの問題点は「保険証との一体化」だけではない。甘いセキュリティーや準備不足のままカードの普及を急いだ結果がトラブルの多発だった。

河野氏をデジタル担当相に指名したのも、進まぬ普及に業を煮やした岸田首相が「突破力」に期待したからである。3兆円の税金を投じてマイナポイントを餌に利用者を取り込むというやり方も責任は岸田首相にある。政権の看板政策を託され突撃した河野氏に全ての責任を負わせることで一件落着、そんな都合のいい話になるのだろうか。

野党の力が落ち、自民一強が進むにつれ、争いは権力内部へと移った。強そうに見える政権が「高転び」するのは内部に亀裂が広がった時である。自民党の敵は自民党、なのかもしれない。

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