データは発酵するのか
『おいしいデータの家庭料理』第6回

3月 04日 2026年 社会

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山口行治(やまぐち・ゆきはる)

株式会社ふぇの代表取締役社長。独自に考案した個体差の機械学習法、フェノラーニング®のビジネス展開を、栃木県那須町で模索中。元PGRD (Pfizer Global R&D) Clinical Technologies, Director。ロンドン大学St.George’s Hospital Medical SchoolでPh.D取得(薬理学)。東京大学教養学部基礎科学科卒業。趣味は農作業。

2.2 データは発酵するのか

前稿(https://www.newsyataimura.com/yamaguchi-164/ )では、フェナの「データも発酵するのかしら」という質問に、フェノじいは「旧式なコンピューターの中にあるデータは、変化しないように、厳重に蓄積されていた。最近のAI(人工知能)コンピューターでは、データをどんどん食べて、上手に動作できるように、蓄積したデータを分解して、並べ直している。膨大な量のデータを、おいしくなるように発酵させているようなものだな。その発酵のプロセスが、あまりにディープで、よくわからない。酒造りの杜氏(とじ)は、経験と勘で発酵をコントロールして、おいしいお酒を造っている。AIの酒も、おいしいからといって飲み過ぎると、高い税金を払うことになり、酔っぱらってしまうぞ」と、酒造りの話でごまかしていた。AI技術を発酵技術の話にすり替えただけだ。そもそも、データを「食べる」のはコンピューターだけなのか。

データの賞味期限

フェナ:データを食べるのはコンピューターだけなのかしら。アルパカだって、場所や季節の変化を理解しているし、草の味だってわかるのよ。

フェニイ:たぶん人間は、データを食べるのはコンピューターだけだと思っているな。つい最近まで、人間だけが言葉を使うと考えていたしな。言葉がコミュニケーションの道具だとしたら、ミツバチだって、渡り鳥だって、人間よりは高度なコミュニケーションをしているのに、科学者が、動物たちの道具に気付かなかっただけのことさ。道具を使うのも人間だけ、という迷信を信じているのさ。

フェノじい:データが、コンピューターの記憶装置に保存されているとすれば、人間だけが、データを活用しているということになる。データを記憶するために「食べる」のであれば、細菌やウイルスであっても、データを食べて、遺伝子(DNAやRNA)に記憶しているともいえるか。データの定義の問題というよりも、データを何のために使うのか、金儲(もう)けのビジネスなのか、生存のための学習なのか、……。

フェナ:ウイルスに感染したことなど、過去の記憶は、どの程度役立つのかしら。

フェノじい:役立つかどうかというよりも、過去の記憶と共に生きてゆくしか生きようがなくて、生きているうちに、あまり役立たない記憶は忘れてしまうのかもしれないぞ。

フェニイ:過去の記憶なんて、都合のよいことだけが残っているということか。データの場合は、数式でモデル化できれば、意味がわからなくても、数百万分の一とか、大幅に圧縮できる。データのしたごしらえだけして、都合の悪いデータも含めて、意味のあるデータすべてを記憶している。数式でモデル化するのは、機械学習で可能としても、AIビジネスの機械学習にまかせれば、金儲けに役立つデータが優先される心配があるな。俺たちがAIビジネスに対抗して、生存に役立つデータを機械学習することで、恐竜化したAIビジネスが自滅した後の世界に希望をつなぐとするか。

フェナ:データの賞味期限は、なくてもよいということかしら。できるだけフレッシュなデータを食べたいけれども、遠い過去のデータであっても、生存に役立つデータであれば、調理法を工夫すれば、おいしく食べられるかも。

データが時間を再現する

フェニイ:十分な量のデータがあれば、現実をスローモーションやコマ送りで再現できる。時間は操作できるのさ。そして事件になる。

フェナ:シャーロックホームズなら、データで事件を解決するけどね。データを味わわずに大食いしているのは、AIビジネスのデータセンターでしょ。データを食べて、発酵食品のようにおいしくする微生物なんていないのかしら。

フェニイ:発酵食品は、食文化の最高傑作だ。だけど、発酵自体は自然現象でもある。データの発酵食品は、近未来のデータ文明への入り口かもしれないぞ。フェノじいは、機械学習のディープラーニング技術が、酒の発酵技術のようなものだと話していたけど、みそやしょうゆ、納豆に相当するデータの発酵技術だってありそうなものだ。

フェノじい:そうそう、酒は、人類に共通の発酵食品だけど、地域の食文化に固有の発酵食品もあるな。時間や空間の概念も、近代西欧に固有の発酵食品かもしれないぞ。

フェナ:じいは、またわけのわからないことを言って、ごまかしているわ。

フェニイ:時間や空間の概念を、データで徹底的に破壊する作戦は面白いかも。データで再現できる時間や空間が本物で、概念的な時間や空間は、人間の造作物だということさ。光子などの量子たちは、人間の造作物に遠慮せずに、自由気ままにふるまっている。

フェナ:フェニイまで、じいにごまかされてどうするのよ。データの発酵にも時間がかかるということね。発酵していないデータと、発酵しているデータは、どうやって区別するのかしら。発酵にかかる時間や、発酵のプロセスを知りたいものね。たぶん、発酵の温度が重要なのよ。

みんなの機械学習がデータを発酵させる

フェニイ:巨大なAIデータセンターは、みんなが酔いしれる美酒の、巨大な発酵タンクのようなものだな。電気とデータを大食いして、過熱している。だけど、データの機械学習は、パソコンでもできるぜ。データを、ゆっくりと発酵させるのには、パソコンのほうが都合よいぐらいだ。発酵の温度は、みんなの好奇心と、経済環境で自然に調整されるぞ。

フェノじい:みんなの機械学習を、1000万人が楽しむようになれば、データの発酵過程においては、AIビジネスのデータセンターには負けないのだ。AIビジネスなんて、人間を愚かにして儲ける、SNS(ソーシャル・ネットワーク・システム)ビジネスの延長でしかない。自分たちにとって、本当に大切なデータは、自分たち自身で蓄積して活用するのだ。少しだけ機械学習を学習して、データの発酵を楽しもうではないか。

フェニイ:みんなの機械学習で、AIビジネスに対抗するのは、100人でも十分さ。100人が100倍になって、ネズミ講のように増えて、AI技術を根底から変えてゆく。微生物の発酵は、ネズミよりも増殖が速いぜ。明治維新のエネルギーは、使い方を誤って、戦後80年で完全消滅さ。だけど、近未来のデータ文明は、火だけではなく、水も空気も土も活用して、軍事技術でゆがめられた文明社会から、リスク回避するのさ。縄文時代に戻るわけにもいかないし、強がっていると、AIビジネスの恐竜たちと、一緒に絶滅することになるぜ。

フェノじい:AIビジネスの恐竜たちは、本当の敵ではないかもな。マネーをコントロールして、自分自身には甘く、査定は厳しい、保険業界が怪しいな。AIビジネスにも絶滅保険をかけているかも……。

フェニイ:データの発酵食品が、おいしいデータの家庭料理に使われるようになると、少なくとも自分自身に関する、保険数理のウソが簡単に見抜けるようになるな。保険の計算で大儲けは、不正そのものだ。国の社会保険だって怪しいものだ。保険の計算で、不正な会計や不合理な制度、すなわち社会的リスクを回避することが望ましいのに、その逆を行って、資本主義社会に寄生しているのが現在の保険業界さ。保険がモラルハザードを増幅して、社会全体が寄生社会になってしまった。寄生社会ではなく、微生物の自然現象を巧みに利用する、発酵社会になりたいものだ。資本主義社会が山積みにする都市ごみも、結局は微生物たちが分解して、地球環境に再循環している。貧者から栄養を吸い取る、寄生社会とは大違いさ。

レコーディングダイエットで一喜一憂

フェナ:英国政府が、年間20兆円の損失といわれる肥満問題に、抗肥満薬の投薬を推進しているという話を聞いたわ(日本経済新聞、2026年2月11日付)。ついに英国も米国のような肥満大国になったのね。

フェノじい:米国はフェンタニルの麻薬中毒なので、英国の一歩先を行っているな。英国でも米国でも、なぜ、どのような理由で、多くの国民が不健康な状態になっているのか、たとえその理由を知っていても言えないから、ごまかしているとしか思えない。例えば、戦場から帰還した兵士の精神障害や、就労する意欲がない若者や貧困の問題などだ。みんなでレコーディングダイエットをして、そのデータを、みんなで機械学習しながら、一喜一憂するほうが、よっぽど健康的だな。

フェナ:レコーディングダイエットをしても、あまり効果は実感できなかったけど、一喜一憂したのは確かね。最近の体重計では、体重を記録するだけではなく、筋肉量や体脂肪率も計測しているのだから、そのデータを機械学習できないかしら。

フェノじい:データを楽しみながら、そのデータを無料で生活の役に立てるのが、みんながデータ微生物となるデータ発酵だ。データ発酵の方法は、企業や政府の経済活動にも役立つぞ。従来のデータサイエンスよりも応用範囲が広く、データそのものを活用するという意味で、「データリサーチ」と命名しよう。みんなで機械学習するデータ発酵は、データリサーチの入門編となるだろう。

フェニイ:データリサーチでは、何か新しいことを試みるのではなく、AIビジネスで、やり過ぎていることなど、データリサーチでやらないことを明確にすべきだな。データリテラシーとか言って、データサイエンスの入門編を教えているけれども、日常生活におけるデータの利活用は促進されないさ。教育投資は、結局、競争社会になるので、みんな息切れして、自発的に学習しようとはしなくなる、悪循環さ。

フェノじい:データリサーチは教育投資ではなく、知財投資となるだろう。マネーに偏重した資産の価値を逆転して、知的財産権がマネーを動かすようにするのだ。特に日本のビジネスは、システムや製品の品質を過剰に評価して、品質を過信してしまうことで、本当のリスクを見ないふりをしてしまい、結局、重大なリスクの回避ができなかった。リスクベースの開発で先行した欧米の先進諸国も、リスク回避に失敗しているという意味では、大同小異か。

フェニイ:データサイエンスやAI技術は、データの個体差を理解できていない。だから大量のデータが必要になるし、大企業や覇権国家にしか役立たない技術になってしまったのさ。ダメなものはダメだと、勇気をもって批判することで、科学は進歩したのさ。データサイエンスやAI技術が、都合の悪いものはぶち壊す軍事技術の仲間になれば、逆にぶち壊されるだけのことさ。アルパカとしては、早逃げをするしかないな。

フェナ:草食動物は、早逃げが得意よね。じいは早寝が得意だけど。生き延びるためのデータリサーチなら、フェナにも必要だわ。それに、データ発酵が上手になれば、データの家庭料理も、さらにおいしくなるでしょ。でも、フェニイのように短気ではなくて、もう少しゆっくりできないかしら。

  • 番外コラム1:「液状化する経済の物理化学モデル」

前稿の番外コラム「スープ的世界経済」において、『「スープ的思考」は、経済物理学と経済化学の混合物で、数理的にモデル化することは、ほぼ絶望的だ。』と記載した。番外コラムの続編として、経済の物理化学モデルについて考えてみたい。

「スープ的世界経済」は、大地震において、地盤の悪い地域における液状化現象と考えると、物理的なイメージが明確になる。第3次世界大戦で、世界経済が大地震に襲われたという想定だろうか。しかし、実際に起こっていることは、グローバル化した資本主義経済と、全世界にある複数のタックス・ヘイブン(租税回避地)と、武器や麻薬売買などの無法地帯などの、混ざりあうことのない、肉塊(チャンク)スープ的世界経済だ。物理化学でいう、非平衡な相平衡状態のようなものだろうか。

植民地や奴隷制度などの暗黒部分を、経済ではなく政治の問題にして、古典的な経済学は、マネーを経済の潤滑油と考えていた。第2次世界大戦を経験した世界経済は、マネーや債券などの大量の金融商品を、軍事的エネルギーに変換するようになった。そして、米国ドル1強支配の世界秩序が崩壊した。戦争の経済制裁に使われる不確実な経済も、政治と同じように、暗黒社会の仲間入りだ。そもそも、現代世界の経済システムは、数理モデル化されることを拒絶している。

しかし、あまり心配する必要はない。データの世界では、すべてが無意味な暗黒世界で、政治や経済は、人びとの価値観に支えられた、数少ない、意味のあるデータの世界なのだから。データの世界に希望を見いだせれば、意味のあるデータの世界には、確実に希望がある。

ふるさとの景観を心地よく感じるのであれば、ふるさとの網羅的データから「心地よさ」を抽出してみよう。言葉やマネーは、人間中心の狭い世界だ。データは意味不明であっても、宇宙の果てから真空まで、データの世界は広大な世界で、不確定ではあっても、可能性に満ちている。

肉塊(チャンク)スープ的地域経済は暗黒社会であったとしても、地域の網羅的化学データは、暗黒世界なのだから、恐れることなく探検すれば、何か新しい発見をする希望がある。どのような網羅的化学データを集積するのかということは、地域ごとの工夫に任せることにしよう。地域が何らかの「表現」をしていると仮定して、その表現を推定するのに十分な量のデータが「網羅的」データとなる。

網羅的物理データは、天文学、地球科学、気象学などによって、かなりの量のデータが公的に整備されている。網羅的社会データは、国勢調査のデータや国土地理院のデータなど、ごく限られたデータしかないけれども、経済的には最重要になる。

網羅的物理データは気相のデータ、網羅的社会データは固相のデータ、そして網羅的化学データが液相のデータとなって、スープ的地域経済の非平衡な相平衡状態のイメージが出来上がる。バカげた妄想であっても、データの世界には、未来への希望がある。

【目次案】「おいしいデータの家庭料理」

1    はじめに; データをおいしくする家庭料理

1.1 おいしいデータは栄養たっぷり

1.2  地域のデータをおいしくする

1.3 データの学習と食事

2    データの料理法

2.1 生データのしたごしらえ

2.2 データは発酵するのか<本稿>

2.3 データの調理器具

2.4 データの献立表

2.5 データのフルコース

2.6 おいしいデータは、地域と人びとを健康にする

3  機械学習の学習

3.1 データをおいしく下処理してから機械学習する

3.2 機械と一緒にデータを学習する

3.3 機械と一緒にデータを使うビジネスを考える

3.4 楽しくデータの学習をする

3.5 データの学習は冒険でもある

3.6 機械と一緒にデータを使うビジネスの冒険をする

4  まばらでゆらぐデータの家庭料理

4.1 まばらでゆらぐ生活と経済のデータ

4.2  生活と経済を豊かにするデータの家庭料理

4.3 まばらでゆらぐデータの調理法

4.4  まばらでゆらぐデータで健康になる

4.5  データを使った生活と経済の予測

4.6 生活と経済のリスクを生き延びる

4.7 たくさんの小さな試行錯誤による適応

5  よりあいグループと社会

5.1 よりあいグループ(地域や家族)のデータ

5.2 よりあいグループのよりあいグループ

5.3 機械と学習するよりあいグループのデータ

5.4 よりあいグループのデータは廻る

5.5 よりあいグループのデータの周辺

5.6 よりあいグループのデータを予測する

5.7 よりあいグループのデータで社会問題を解決する

6  おわりに;生活と社会の近未来

6.1 ほとんど色即是空・空即是色な(まばらでゆらぐ)世界

6.2 まばらでゆらぐ人びとの地域社会

6.4 データでつながる、地域のNPOから国際NGO連合まで
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