п»ї Jポップブーム再来を願いつつ『トラーリのいまどきタイランド』第1回 | ニュース屋台村

Jポップブーム再来を願いつつ
『トラーリのいまどきタイランド』第1回

10月 04日 2013年 文化

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トラーリ

寅年、北海道生まれ。1998年よりタイ在住。音楽やライブエンターテインメント事業にたずさわる。

8月下旬、「ソニック・バング2013」という音楽イベントを視察した。このイベントは、タイの大手イベントオーガナイザー「BEC TERO ENTERTAINMENT」の主催による、国内外のアーティスト30組が集結する大規模な音楽フェスティバルだ。

会場の「インパクトアリーナ」は、バンコク市内から車で約45分。東京都心から幕張メッセへ移動するようなイメージである。展示会やコンサート、ミュージカルなど多くのイベントが開催されるこの会場には、私はこれまでに100回以上は訪れたことがある。

会場に入りすぐに感じたのは、ここが日本の「サマーソニック」のコンセプトにそっくりなこと。ここを訪れた日本人は皆、同じ印象を受けたと見え、顔を合わせると、「タイらしいね」と苦笑いを浮かべていた。

これを「サマーソニック」の「パクリ」と思わない日本人はいないだろう。しかしタイ人の大半は、あの有名な「サマーソニック」の正規輸入版だと思っていたようなので、ある意味でBEC TEROは「うまくやった」とも言える。

このイベントに海外から招へいされたのは、欧米やアジアから合計14組のアーティスト。大御所では、ペットショップボーイズやジェイソン・ムラーズ、韓国からは人気のレイン(ピ)。日本から招かれたのは、ビジュアル系バンド「雅 – MIYAVI – 」、4人組ガールズバンド「SCANDAL」、アニメソング歌手ユニット「JAM PROJECT」、そして初めてタイに来た「きゃりーぱみゅぱみゅ」の4組であった。

夕刻、ライブが始まる10分前。ステージ前を囲むファンは予想より少なく、300人程度であった。おかげで私たちはステージに近い場所を陣取ることができた。

当然、立ち見の会場である。タイにしては開演時間が大幅に遅れずに、カラフルな衣装をまとった「きゃりーぱみゅぱみゅ」がステージに現れた。その瞬間、会場内は甲高い声援につつまれた。私はクオリティーの高いサポートダンサーの踊りに釘付けになっていたが、開演して20分が過ぎた頃にふと後ろを振り向くと、すでに会場の後方まで観衆が詰めかけていたことに目を丸くした。その数はおよそ5000人を超えていた。

◆「きゃりーぱみゅぱみゅ」人気支える露出ノウハウ

過去10年のタイにおけるJポップのトレンドを振り返ってみる。かつて人気のあったSMAP、安室奈美恵、平井堅、中島美嘉は、Kポップ(韓流)の勢いに押され、7、8年前から引き潮のように消えてしまった。ジャニーズやビジュアル系バンドには、一部のコミュニティーにおいて今でも熱狂的なファンが存在するが、その後、マス(大衆)で成功した日本人アーティストは、いまだに目にしていない。今回の「きゃりーぱみゅぱみゅ」の反響は、タイが韓流カラーに染められて以来、初めて「当たる!」と実感させてくれたものであった。

彼女の人気の秘訣は何だろう。意味性は薄いがキャッチーで頭に残る歌詞、リズム、日本のポップカルチャーが詰め込まれたアート性の高いミュージックビデオ(MV)であろうか。確かに、「きゃりーぱみゅぱみゅ」はアーティスト自身の個性を絶妙に引き出す中田ヤスタカの音楽プロデュースと増田セバスチャンのクリエーティブセンスによる傑作だ。そこには、言葉の壁がなく、タイ人の感性を刺激するビジュアルがある。

しかし人気の秘訣はそれだけではない。「露出」のノウハウだ。

日本の音楽事務所やレコード会社の大半は、海外に露出する的確なノウハウを持っていない。違法ダウンロードへの警戒心が強いため、You Tubeへの動画投稿には消極的である。それに加え、フェイスブックやオフィシャルサイトの言語は日本語のみ。アジアや欧米に進出したい、と語っている事務所ですらこの有様だ。

「きゃりーぱみゅぱみゅ」が所属する事務所は、ネット上の露出に躊躇しない。日本の音楽業界ではこの動きは賛否両論だが、結果的に一人勝ちしている。また発信するコンテンツが言葉の壁を越えた分かりやすい内容に工夫されている。海外に進出するには、「露出」の内容や加減は重要なポイントなのだ。

◆トリミング禁止、動画投稿禁止……タイではブーイング

数カ月前の例を挙げる。日本の大手音楽レーベル所属のアーティストが、タイでCDをリリースすることが決まった。リリースにあたり、タイ側ではあらゆるツールを活用したプロモーションプランを提案した。しかし日本側は、写真の編集や動画の露出について厳しいルールを突き付けるばかり。例えば、写真はトリミング禁止、動画投稿は禁止、などの制限だ。そのポリシーにタイ側レーベルのモチベーションが一気に落ちた。「タイで売ろうとしてあげているのに、それはなんだ」と。

タイにおけるフェイスブックのユーザー数は2013年9月時点で約2400万人で、日本を超える。口コミ文化のタイでは、アーティストのライブやサイン会で撮った画像を、自分のフェイスブックに投稿する行為は日常茶飯事であり、これを禁止したらブーイングが起こる。タイ側の音楽レーベルは、このようなファン個人の投稿はプロモーションとしてポジティブに解釈するが、日本では許可しないことが多い。

タイのようにルールが緩すぎることに賛成しているわけではない。タイにおける違法ダウンロードや海賊版の蔓延(まんえん)は紛れもない事実であり、タイ警察による取り締まり強化は急務だ。しかし日本側も過敏になりすぎず、情報を欲しているタイのファン向けに、もう少し歩み寄った露出やプロモーション方法を模索してもらいたい。

韓流にそろそろ飽きを感じているタイの若者に、Jポップブームを再来させるのは、まさに「今しかない」と感じる故である。


(写真)きゃりーぱみゅぱみゅのタイ国内初ライブ。5000人強の観衆を魅了した。(2013年8月24日筆者撮影)

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