п»ї マカオに学ぶ日本のカジノビジネスの将来 『国際派会計士の独り言』第12回 | ニュース屋台村

マカオに学ぶ日本のカジノビジネスの将来
『国際派会計士の独り言』第12回

1月 06日 2017年 経済

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国際派会計士X

オーストラリア及び香港で大手国際会計事務所のパートナーを30年近く務めたあと2014年に引退し、今はタイ及び日本を中心に生活。オーストラリア勅許会計士。

2016年の年末に香港に行った折にマカオを訪れる機会がありました。10年以上香港に在住していた当時は、フェリーで1時間ほどのマカオには会議やゴルフなどで何度も訪れていました。筆者はほとんどギャンブルはやりませんが、赴任直後の2000年当時、カジノは地元系実業家の独占経営するちょっと場末的な雰囲気の「リスボア」のみでした。しかし、カジノ以外にもポルトガル統治時代に造られた数々の世界遺産やそれにルーツを持つマカオ料理など魅力は多く、香港の喧騒(けんそう)を避けてマカオで週末を過ごす香港人たちがかなりいました。

一方、02年にカジノの国際入札が行われ、米国資本の二つのカジノ業者の参入が決まり、それ以降は海外からのカジノ含む観光関連投資誘致が進展。この背景には、中国政府のビザ規制緩和なども特筆されます。これらによってマカオは、訪問客数が爆発的に増加、チャイナマネーの恩恵も受けてカジノホテルが群立するなど、世界でも有数の経済成長を誇る著しい躍進を遂げてきました。

◆経済効果

マカオ政庁の15年度の財政歳入は1160億パカタ(現在の為替レートで約1兆7千億円)、この歳入の7割以上がカジノからの収入とされます。また、財政収支はGDP(国内総生産)比で約10%の黒字、350億パカタ(約5千億円)となっています。

約50万人の人口(ちなみに狭い地域に密集するマカオの人口密度は世界最高水準です)で考えれば、経済規模的には十分な財政剰余金が生まれています。これを使って社会福祉が進み、高齢者向け福祉として一律で年間給付金として約12万円、老齢年金として約75万円が支給されています。また、医療負担も一時は政府が全額負担するなど目を見張るものがありました。これらの福祉政策の後押しもあってか、広東風の食習慣が功を奏したか、マカオは香港とともに世界最高水準の平均寿命を達成しています。

マカオは03年以降、中国からの旅行者が急増したことで前述のような躍進を見ましたが、中国政府の腐敗撲滅運動の影響や経済全体の失速で中国からの旅客数が落ち込み、これが大きく響いて14年以降、マイナス成長に陥っています。

最近見た限りでは、香港からのフェリーには以前のようなあふれ返る中国人旅行者が船内を埋め尽くすことはありませんでしたが、季節も良いのでハイキングなどミニ旅行を楽しむ香港人なども多く満員でした。航行中には船から全長約30キロメートル、総工費1兆円を超える港珠澳大橋の建設中の橋梁部分が見えるなど、インフラ整備も着々と進んでいるようです。またマカオの街中では、三菱重工が関与している軽軌鉄路の都市交通システムが建設中でした。

マカオの二つの島(コロアン島とタイパ島)の中間の浅瀬を埋め立てることでできたコタイ地域には、いくつものカジノホテルが林立しています。ここでのグロス収益の40%近く(15年で700億パカタ=約1兆円)が税収として政府に吸い上げられています(注;実際には定額部分と変動部分があるなど、より複雑な計算方法があります)。11年以降、マカオはラスベガスを抜いて世界一のカジノ都市です。また、マカオ地場のSJMホールディングスは1兆円余りの売り上げを計上する世界最大のカジノ運営会社です。

中国など海外の訪問客が主要な顧客基盤となるマカオのカジノビジネスはその性格上、海外の市況や当局の政策などに大きく左右されます。13年以降、中国からの客数が激減したことや内外の競争激化で経営環境は必ずしも良いとは言えません。にもかかわらず、マカオではいまだに小型のエッフェル塔がそびえ立つ「パリジャン・マカオ」など新規で個性的な大型カジノホテルがいくつか誕生する一方、統合型リゾートとしてカジノ以外の新しいアトラクションを模索しているようです。

◆リスクと対策

社会情勢や政治的な要因などカジノビジネス自体の事業リスクとともに、「人」と「資金」が海外から移動することで新たなリスクが生ずることになります。

カジノは場内での金融に準じた取引が基本的なビジネスの形(他にも例えばオンラインゲームなどもあります)ということで、現金の盗難や横領に対する特別で厳格かつ適切な統制が必要になると思います。それとともに大きな課題として、犯罪者やテロリストなどによる資金洗浄対策(Anti-Money Laundering=AML)があります。

AMLは、違法行為などで得た「汚れた」お金を何らかの手段で見せかけの洗浄をすることで「きれい」なお金にすり替える行為に対抗する策と言えます。特に、マカオにはジャンケット(Junkets)と呼ばれるカジノ客を集客し送り込むことを専門に行う業者がいます。中国などからのVIP客を呼び込む仕組みについては、国際民間組織である金融行動タスクフォース(The Financial Action Task Force)などから不正が行われる可能性が高いとの指摘も受けていて、16年6月には一定金額以上の最終受益者の確認やコンプライアンス担当者の登録など更に厳しい規制を設けています。

マカオとともにカジノを含む統合型リゾートが二つあるシンガポールでも、カジノ事業者に対する厳しい規制や監督に加えて、AMLとして本人の身元確認など多面的な防止措置がとられていると聞いています。AMLのほか自国民に対しては、ギャンブル依存症対策がかなり厳格に講じられています。例えば、入場時のIDチェックに加えてかなり高額の入場料が課されています。さらに、本人または家族の申告により入場制限するなどの対策を講じているそうです。

◆十分な検討・整備が必要

日本でもカジノを含む統合型リゾートの設置と推進するため、いわゆるIR推進法(統合型リゾート施設整備推進法)が16年12月に可決されました。今後IR実施法案やギャンブル依存症対策基本法案などが策定され、審議されることになります。

マカオの例が示す通り、カジノリゾートはその建設、そして運営によって一定の経済効果は期待できると思います。ただし、そのためには、将来の客層がある程度似ていて、アジアで先行するマカオやシンガポールの経験などをもとに、前述のような対策を十分検討し整備することで、安心感があって高品質な統合型リゾートが保証されるのではないかと思います。

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