п»ї 知的障がい者が発信する「パンジーメディア」の挑戦 『ジャーナリスティックなやさしい未来』第132回 | ニュース屋台村

知的障がい者が発信する「パンジーメディア」の挑戦
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第132回

4月 30日 2018年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。

◆20回目の放送

大阪府東大阪市の「パンジーメディア」は、知的障がい者がキャンスターを務め、専用スタジオから当事者の情報番組を、インターネットを通じて発信する放送局だ。当事者が中心となり制作を支援員がサポート、50分番組「きぼうのつばさ」は月1回放送され、4月で20回目を迎えた。

この記念となる20回目の収録日、スタジオにうかがってみると――。「『きぼうのつばさ』へようこそ」「今回の放送で、きぼうのつばさは20回目を迎えました」「これからも、私たち知的障害者の想いをみなさんに伝えていきます」

スタジオのスポットライトを浴びた2人のキャスターが三つのカメラの前であいさつ。カメラ、照明、音声、ディレクターやプロデューサー。誰もが真剣で緊張した面持ちで臨んだ収録も、「はいOK!」のサインが出ると、拍手しリラックスした雰囲気に現場は笑い声があふれていた。

◆当事者中心で制作

企画や出演は当事者中心で構成される「急造」のスタッフの面々だが、映像作品の出来栄えは秀逸でスタジオ収録のクオリティーは高い。NHKを中心に海外のドキュメンタリー番組で映像ディレクターとして活躍した小川道幸さんが指導にあたるのも大きい。世界の辺境を取材し、様々な発見をしてきた小川さんは知的障がい者とともに発信することにも「毎回、発見がある」と楽しそうに語る。

この放送局は社会福祉法人、創思苑(そうしえん、大阪府東大阪市)の生活介護事業の日中活動として行われており、同法人の林淑美理事長は「一番大切なのは、当事者の視点であり、当事者が中心であること」と話す。

2016年9月に第1回の放送を開始した「きぼうのつばさ」は「障がい者に関するニュース」や、当事者自身が自らの歴史を語る「わたしの歴史」、グループホームでの生活の模様や地域での活動を伝える「地域でくらそう」、当事者が語らいながら料理を作る「パンジーキッチン」などのコーナーなどで構成される。

◆「事件をなくしたい」

スタッフとして活躍する当事者の方々に聞いてみた。まずは男女ペアでキャスターを務める男性の樋口廣さん。この日は20回目ということもあってネクタイにジャケット姿で挑んだ。キャスターという仕事には「みんなの前で話す度胸はあんねん」と胸を張る。そして、番組の顔として「みんなで頑張っているところを見てほしい」と言う。

女性キャスターの福田直美さんもこの日は濃紺のブラウスに白いネックレス姿でメイクも念入りに。「OKが出るうれしい」と話し、映像で見る自分は「かっこいい。特別な感じ」と言う。
番組の記者として活躍する永井広美さんは、神奈川県相模原市の障がい者施設で2016年に起きた殺傷事件の遺族に取材をした。そして「こんな事件をなくしていきたい」との思いは強い。伝えたいことは「自分がつらかったこと」だと言う。そこには連絡がとれない親への思いもあるようだ。

◆全国の健常者へ

今後取り上げたいテーマについて、プロデューサーの梅原義教さんは「高齢者施設の虐待が多い」ことを問題意識として持っており、「これを全国の健常者に知ってもらいたい」と言う。収録の模様を見守っていた同じくプロデューサーの井道寛哉さんは「みんないきいきと輝いています」とアイパッドの筆談で思いを伝えてくれた。

いわゆる「裏方」として収録を支える音声・機材担当の山田浩さんは「準備が大事で大変ですが、楽しいです」と話す。音声・機材担当でスタジオ収録の音のチェックをし続ける有光一仁さんはいつも持っているドラえもんのぬいぐるみが、自分の分身になって返答をしてくれるようで、「楽しいですか?」との問いかけに、ドラえもんを差し出し、ドラえもんの首を曲げて同意を示してくれた。

カメラ担当の野村信久さんは、「闇の王」に扮(ふん)して演技も行い、その演技で「パンジーメディア賞」を受賞。「賞をいただけてうれしい」「自分の映像を見るのが楽しい」と言う。

それぞれの挑戦はこれからも続く。

そして、節目となる20回目の「きぼうのつばさ」はどんな内容なのか。是非、こちらで観賞してください。

http://pansymedia.com/

※『ジャーナリスティックなやさしい未来』過去の関連記事は以下の通り
第124回 福祉ではなく、「教育」をやる覚悟について
https://www.newsyataimura.com/?p=7192#more-7192

第131回 厳しいけどあたたかい、優しいけどあまくない教育現場
www.newsyataimura.com/?p=7368

■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/

■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link

■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/

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