п»ї 「おもてなし大国」日本??『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第17回 | ニュース屋台村

「おもてなし大国」日本??
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第17回

3月 14日 2014年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住15年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

先日、妻と2人でマンダリンオリエンタル・バンコク(オリエンタルホテル)にブランチ(朝食兼昼食)を食べに出かけた。オリエンタルホテルは1887年設立。バンコク初の西洋ホテルとしてチャオプラヤ川のほとりにある大使館街の真ん中に造られた。

古くから作家のサマセット・モーム やジョセフ・コンラッド、さらにはタイシルクで名高いジム・トンプソンなど数々の著名人が定宿としていた。1970年代に香港に本拠を置く高級ホテルグループであるマンダリングループに買収されたが、世界の最高級ホテルに何度も指定されるなど、そのサービスは世界屈指のものである。

私と妻はそのオリエンタルホテルの中にある「ベランダ」という屋外レストランに行った。周囲はやしの木に囲われ、眼前にはチャオプラヤ川が流れる。

川を何隻もの船が行き来する。渡し船やホテルの送迎船が両岸の間を渡っている中で、大型観光船や荷役船がゆったりと川をすべっていく。厳しい南国の陽をあびた川を、木陰で微かに汗ばみながら見る風情は何とも言えない幸せな気分を味あわせてくれる。

まわりを見回すと西洋人のご老人夫婦が多く目につく。いつになく厳しい今年の冬の米国やヨーロッパから逃げてきた人たちであろう。南国を満喫するべく軽装で、カラフルな洋服がご老人ながらよく似合う。

私たちの左隣の夫婦はアメリカンブレックファスト(パン・卵焼き・ハム・ベーコン・ジュースなどのセット)を食べながらゆっくりした会話を楽しんでいる。右隣の夫婦はご主人が新聞を読んでいるが、奥様はかまわず話しかけている。ご主人は新聞から目を離さず「ふんふん」と相づちを打っている。

こうしたお客に対して、ホテルのウエイトレスたちは新たな皿を運ぶたびに声をかける。

「お早うございます、モニカさん。お食事を楽しんでらっしゃいますか?」

「ありがとう、とってもおいしい食事よ。それに目の前の景色を楽しんでいるだけで、あっという間に時が経っていくわ」

「それは良かったです。ゆっくりお食事を楽しんでください、モニカさん」

「ありがとう、本当にここでのお食事は楽しいわ」

たぶん宿泊客なのだろう。ウエイトレスが名前を呼びながら親しみを込めた言葉を繰り出すと、お客も何度も感謝の言葉で応える。右隣のテーブルにはウエイターがお代わりのコーヒーを持って近づく。

「温かいコーヒーが入りましたが、もう一杯いかがですか?」

「ありがとう、今日はとっても良い天気だね」

「タイはこれからどんどん暑くなるんですよ、お客さま。今日は昨日よりかなり暑くなりますよ」

ゆっくりとした時間の流れの中で人々のにこやかな顔を見ながら、私はふと一つの光景を思い出した。2020年東京オリンピックの招へいを決定付けたといわれる、滝川クリステルの「お・も・て・な・し」の言葉である。日本を訪れる外国人の人たちは、果たしてこれほどまでの幸せな表情を日本でするのであろうか?

チャオプラヤ川のほとりにある屋外レストラン。至福の時を味わうことができる=オリエンタルホテルで、筆者撮影

◆マニュアル化?されたコンプライアンス遵守

日本に住む多くの方々は、日本のおもてなしは世界最高峰だと信じていらっしゃることだろう。東京オリンピック開催決定以降、この「おもてなし」は流行語大賞となり、テレビは日本の「おもてなし文化」を持ち上げる。しかし本当に日本に素晴らしい「おもてなし」など存在するのであろうか?

インターネットで検索してみると、外国人から見た日本のおもてなしの素晴らしさは以下のようなものだ。

・タクシーの自動ドア
・新幹線の時間の正確さ
・和食の美しい盛りつけ
・デパートの接客
・トイレ施設の清潔さ、便利さ

こうして見てみると、日本のおもてなしはデパートの接客を除いて、速さ・正確さ・清潔さ・便利さなどの追求のように思われる。デパートの接客においても、こうしたものを持っているからこそ、評価されているのであろう。

そもそも日本は狭い国土の中で多くの人間が住み、かつ同質社会であることが大きな特徴である。特に話し合わなくても互いの気持ちは察しがつく。また込み合った空間の中で人々が生活し合っていくためには、お互いの生活を気遣いながら生きていかなければならない。こうしたことで、速さ・正確さ・便利さ・静寂性などが日本人の重要な価値となっていった。これは江戸時代の社会から発生したということで「江戸しぐさ」とも呼ばれている。

日本のおもてなしの代表例として挙げられるものが、「茶」の世界である。茶会は儀式である。その中に自由な会話は許されない。同質な日本人のなかで、活発な会話は封じられる。一方で「利休七則」に語られるように、その儀式のなかに相手を思いやる心を入れ込むのである。古い日本人の美しい心が茶道に込められている。

しかし振り返って現在の日本。日本経済新聞が外国人100人に聞いた調査(2014年2月16日付電子版)では、以下の点で日本のサービスが問題であると答えている。

・外国語サービスが少ない
・無料Wi-Fiが少ない
・飲食店の仕組みが分からない(会計システム/食べ方)
・クレジットカードが使えない
・禁煙スペースが無い
・過剰包装
・両替場所がない

こうした外国人が日本に持つ不満に関しては、実はタイでほとんど全てにおいて解決されており、問題となっていない。外国人が多く訪れるタイは、既に世界標準の「おもてなし」を習得してしまったのかもしれない。

こんなことを考えながら、日本に5年住み現在タイに移住してきたアメリカの友人に、この話題を振り向けた。「そうだね、日本のサービスは最初の頃は素晴らしいと思ったが、会社に行っても、レストランに行っても従業員は同じあいさつと同じ応対しかしない。今はロボットみたいで気持ち悪いと思うよ。それに比べてタイの人たちの方がフランクで人間的だね」

日本の「おもてなし」は狭い空間の中で相手を思いやることで出発したはずであったが、今や他者から非難されないように、コンプライアンス遵守(じゅんしゅ)がマニュアル化されてしまったのではないだろうか?

そんな一抹の危惧がさらに私の心をよぎった。

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